#125 知らぬ地、再びの欲求
「・・・どこ?ここ?」
アリンテルドを発ち、エンゲージフィールドを踏破した俺たちは、本来の目的であるルクシア王国に向かっていた。
・・・はずだったのだが、どうやら進む方角を間違えていたようで、水の都とは言い難い光景がそこには広がっていた。あれか?俺らの妄想が激しすぎただけか?単なる高望みか?
眼前に広がるは、思い描いていた水の都とは全く別の砂と緑が共存する不思議な雰囲気の街。
焼き固められた砂で建造された建物が多く立ち並び、少し離れているこの場所にも少しの喧騒が聞こえてくる。街の中心には超とまではいかないがそこそこの大きさの湖があり、まさにオアシスの周りで栄えた砂漠の街、といった立ち位置だろう。
言われてみれば結構湖も目立つし、『都』という単語に期待が膨らんだだけで、実際はこんな感じだったとか・・・?だがもしそうだとしても、これで『都』と『王国』をセットにするにはあまりにも仰々しいのではなかろうか・・・?
というか、この感じ・・何やらデジャヴを感じる・・・
あぁそうだ。エンゲージフィールドに入った時もこんな感じだった。あれは事前情報が無かったので「あ、こんな感じね?」で済んだのに、今回は何というか・・・それ以上に重い何かが伸し掛かってくる・・・現実は残酷かな。
とはいえ、ここがルクシア王国だという事実も存在しない。希望はまだ捨ててはいけないのだ。ここの現地の方にすっごい失礼だけど。
「絶対に目的地と違うだろうけど・・・かなり広いね・・・」
「ここ、結局一体どこなのかしら・・・?」
「よし、とりあえずそこら辺の人に聞いてみ・・・」
「絶対ダメっ!」
早速街に向かって調査・・・と思ったのだが、いきなりアリヤによって静止させられた。
「・・・なんで?」
「忘れたわけじゃないでしょ?そんなことすれば、街の人たちに異端者扱いされるのは目に見えてるわ!たとえ英雄の雛一行でも、私たち一応大罪を犯してるんだから・・・!」
「・・・・・『進化之石板』出しながら練り歩けば・・・」
「・・・変人には見えても、英雄には見えないわよ?立ち振る舞い的に。」
「まぁ・・・やっぱそうか・・・」
なんというか、色々思ったよりも面倒なようだ。
エンゲージフィールドは中立地帯であったために特に何もなかったが、俺たちは今正真正銘国境を越えたのだ。もちろん勝手に。
こんなことをする者などいないとでも思っているのか、国境警備隊のようなものは存在しておらず、俺たちは堂々と不法入国できたわけだ。
「でも、師匠が話は通してあるって言ってたけど・・・」
「そうだったとしても、まだきっとそれは上のお偉いさんだけ。それにここがどこか分からない以上、この国に話が通っているのか分からないし、そんな話はもちろんこの国の人々に浸透していない。今まで事例がないし、あれから日もそんなに経っていないしね。だから油断は禁物!分かった?」
「「はい・・・」」
傍から見れば年下の少女に説教されている男二名なわけだが、いちいち気にしていたら時間なんてあっという間に過ぎていく。聞き込みはとりあえずなしで、俺たちは街へと向かうことにした。
「ここら辺、かなり賑わってるな。」
「露店の数も凄いね!色々売ってるよ!」
「なんだか目移りしちゃうわね・・・!」
アリンテルドのラザール通りはちゃんとした建物の店が立ち並んでいたが、ここはそういった店は少なく、数多くの屋台が立ち並んで賑わっている。中国の夜市のようなものだろうか?もちろん行った事もちゃんと調べたこともないので完全に想像だが。
「ん?屋台・・・ということは・・・・・!」
「どうしたのタク?」
「・・・あるだろ・・・・・食い物の一つや二つ・・・!!!」
「「はっ!!!」」
ぐぎゅぐぐぐぎゅぐぅぅぅ・・・・・
この音は決してグラーケンの叫びではない。久しく忘れていた人間の三大欲求の一つが、再び俺達の中で雄たけびを上げたのだ。
思えばこの十日間、水と魔石しか接種していない。(ムラメたちと出会う前あたりに一口だけ食べたグラーケンの触手は除外する。)そしてアリンテルドから支援してもらった路銀にはまだまだ余裕がある・・・!
レルもアリヤも洞窟内では平気そうな顔をしていたが、内に秘めたる本能は実に正直だ。
「よし・・・ご飯食べよう!!!!!」
「「おーーっ!!!」」
グラーケンに挑む時並みの気合いを入れた俺たちは、早速食べ物を求めて屋台を点々と回る。
「それで、レルとタクは・・何からいく・・・?」
「やっぱ肉だろ・・・野菜はとりあえず後だ・・激しい運動(グラーケンとの死闘)の後はたんぱく質を取らねば・・・!」
「それなら、あっちの方で肉串が売ってるのをちらっと見たよ・・・!」
「あっちにはハムとチーズが入ったサンドイッチがあるわね・・・!」
「よぅしお手柄だぁ・・・総員、破産しない程度にたらふく食べるぞぉ・・!!」
「「了解・・・!!!」」
もはやこの場にツッコミ要員など存在しなかった。仕方ないさ。腹減ってるんだもん。
幸い通貨はアリンテルドと全く同じものであり、とりあえず何の問題もなくその二種類を人数分購入した。
「「「いただきます・・・!!」」」
極限状態の胃袋を刺激しまくっていた肉串は全然パサついておらずしっとりとしていて、しっかりあふれ出す肉汁とまぶされた塩と香辛料の数々が五臓六腑に染み渡る。
サンドイッチの方はもはや安定した味。この店の特性であろうソースがしっかりと素材を殺さずに更に高みへと押し上げており、ただのサンドイッチのはずなのに天に召されそうになった。
「ん~~~ッ!!」
「あぁ・・この幸福感・・久しく忘れていたよ・・・!」
「美味い・・!!なんか涙出てきた・・・!」
「な、泣くほど美味しかったのかい!?あ・・ありがとね?」
屋台のおばちゃんが困惑するほどに舌鼓を打っていたそうで、周りからも何事かと向けられた視線を感じる。
しかしそんなものは関係ない。俺たちの食事はまだスタートを切ったばかりなのだ・・・!
他にも新鮮な果物、骨付き肉、胡瓜の一本漬けのような物もあった。
他のことなど忘れ、美味しそうな物を見つけては買い、買っては食し、食してはまた探す。以降その無限ループはしばらく続いた。
「っだぁ・・もう食えん・・・!」
「久しぶりにお腹いっぱいになったわね・・・!」
「いやぁ・・全部美味しかったね・・・!」
相当大満足で屋台の数々を後にした俺たちは、結局ここがどこか分からないままかなり広い通りに出る。
ここも多くの人々が行き交い、冒険者のような装備をした者が目立ち始めた。
「あれがここの冒険者か・・・」
「みんなかなり強そうね・・・あら?」
「泥棒ーーーっ!!誰か捕まえてーーーッ!!!」
「なんだ!?」
突然街に響き渡る女性の声。その方角に三人で振り向いてみると、いかにもって感じの黒い身なりの集団が、これまたよくある白い布を担いでかなりの速さでこっちの方へと逃げてきている。
すぐさま周りの冒険者が対応するが、そいつらを捕まえるには至らない。身軽な動きで悉くを躱され、冒険者をあざ笑うかのように踏みつけて跳躍する。
それを見た俺はゆっくりと二人のように振り向き、問う。
「・・・やるか?」
「「もちろん!!」」
俺たち三人は掛け声もなしに三人同時に各方向へと飛び出した。
レルは飛び込んでくる泥棒二人を、タイミングを合わせて目の前に生み出した夜空を思わせる強固な壁で食い止め、虚を衝かれた二人をそのまま無力化。アリヤは三人の顔面ピンポイントに剣の腹でダイレクトアタック。そのまま気絶させた。
「クソッ・・何なんだこいつら・・・!?」
「アイツもあの二人の仲間・・・でも・・英鎧騎士団の制服を着てねぇじゃねぇか!?本当になんなんだよ!?」
「あの黒髪・・・目がマジだぜ・・・?」
なんか言ってるようだが、まぁいいや。俺の目の前にいる残りの泥棒は五人。
「・・・余裕すぎるな。」
俺は泥棒共に向かって笑って見せた。
この街に来て早々のトラブル。だがまぁ、それもすぐに終わると思っていた瞬間には、俺はもう泥棒の一人の懐に入っていた。
第四章、開幕。
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