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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#121 託す未来、時を越えたエールその二十七

 一歩その頃、タクたちも順調とまではいかないが、それなりのペースでグラーケンの心臓を目指していた。

 先ほどから全く同じ光景が続いており、登り続けているという点も、必死で余裕がないというのにも関わらず、少し退屈だと思わせる要因の一つなのだろう。

 もっとも、この戦いが楽しいかどうかと聞かれれば考え物だが。


「相変わらずサーヴァンツの数が全く減らないのです・・・!」

「それでも、確実に奴の心臓まで進んでいるよ・・!」

「奴さんそろそろかなり焦ってんじゃねぇのぉ!?」


 というか、レルの『夜空之宝石(カーメルタザイト)』・・やっぱり性能ぶっ壊れすぎだろ・・・

 大抵の攻撃に余裕で耐える頑強な盾。汎用性もそこそこ高く、安心感が凄い。現に俺もたまに入れてもらってるし、現時点で高威力の墨玉を何十発、何百発と食らっている。それでも壁が黒く塗りつぶさるるのみであり、全く壊れる気配すら感じさせない。

 そしてレルにはこの他にも銃生み出したり、突然剣出すわ盾出すわ・・・異世界転生系主人公ですって言われても納得するしかないような能力の数々。間違いなく現時点で俺の中の絶対的に回したくない人間ランキングトップ3に入っている。もちろん一位は言うまでもない。

 そんなことはさておき。あれからグラーケンもようやっと命の危機を感じ始めたのだろうか。墨玉の連射速度は上がり、サーヴァンツの数に至っても、触手妖精製造ラインの生産量がえげつなさすぎて増えまくる一方だ。割と数が増えたところでどうってことはないのだが、ただ単純に道を阻まれるのが面倒くさい。


「下のアリヤと闇丸にもかなり負担かけてるからな・・なるべく急がねぇと・・・」


 ちらっと下を見ると、今もなお二人(片方人間かどうか不明)が高速の触手と無数のサーヴァンツを食い止めてくれている。

 炎の剣と美しき刃文の刀の斬撃が走り、対象を悉く切り刻んでいく。おそらく連携しているわけではないのだろうが、二人(片方以下略)の間には何かコンビネーションのようなものを感じる。何やら構えとかのフォームが若干似ているような・・・?かなり遠目で見ているので詳しくは分からないが。


「ここからでも剣の速さがはっきりを分かるのです・・・!」

「流石アリヤだよ・・・先ほどまで眠っていたのにも関わらず、そのパフォーマンスは全く衰えていない・・・!」


 もう少しじっくりと見てみたいところだが、生憎そんな時間を稼ぐために二人は今頑張ってくれているわけではない。意識を再び心臓へと向け、わずかに緩んだスピードを一気に引き上げる。


「何があるか分かんねぇしな・・・レル、ムラメ。俺は先に心臓まで行く。」

「え・・?先に行くって・・・どういう・・・」


 レルには悪いが、今は説明している暇すら惜しい。さっきまでアリヤと闇丸の観戦してた奴が何言ってんだというツッコミは現在受け付けていないので悪しからず。


「『闘気加速(アーツ・ブースト)(ダッシュ)』ッ!!」

「んなっ!?」

「速ぁっ!?」


 闘気を移動速度上昇のためだけに振った俺の速度は、そこから更に数段跳ね上がる。

 先ほどまでの『身体強化』。それもレルとムラメに合わせていた分出力をかなり抑えていたそれと比べるまでもないほどのスピード。

 一向に慣れる気配のないこの直腸の足場を高速で進むのはかなり難しい。が、たどり着くための効率は相当なものだ。


「僕らの速度とあまり変わらないから、おかしいと思ってたんだよ・・・」

「やっぱり、タクさんは規格外(タクさん)なのです・・・!」

「っしゃ・・・こっちに来やがれ墨玉ァァァ!!!」


 俺はただ闇雲に飛び出したわけではな。もちろんキキョウが予想よりも遥かに結晶までたどり着いて破壊するタイミングが万が一ずれてしまうのを恐れてというのもあるが、奴らからのヘイトを俺に集めるのも理由の内の一つだ。

 おそらく今のグラーケンにとっては、俺が一番の危険な存在である。サーヴァンツを蹴散らしながら進んでいる俺は、奴にとってはさぞ恐怖だろう。そうなれば、真っ先に俺を潰しにかかるだろう・・・!


「・・・やっぱり、所詮魔物の脳みそだなぁ!!」


 予想的中。全ての注目、敵意が俺にへと向く。何故そんなことが分かるのかって?恐ろしいほどのプレッシャーに包まれている感覚に襲われているからだ。だが生憎、一か月前と違って、俺はそれに対抗できる力を持っている。人間様舐めんな。


「うぉぉらぁぁぁああ!!道を開けろぉぉおおお!!!」


 襲い掛かるサーヴァンツの無数の触手。何百、何千ものサーヴァンツから放たれるそれの十倍以上の本数のそれは、もちろん回避なんて不可能だ。実力さなどではない。ただ単に物量で押し切られるからだ。

 だがしかし、結局は量より質。何万何十万もの雑魚い触手の包囲網ったって、俺からすればただの向こうの悪あがきにしか見えない。


「はぁぁぁあああああ!!!!!」


 向こうはレベルは違えど触手の束。物理攻撃なんて聞かないし、もし一塊になられたものなら、おそらく筋繊維のそれと似たようなものとなり、通常のやり方で突破するのはかなり骨が折れるだろう。であらば、そんなこと誰がさせるものか。


「『闘気(アーツ・)・・・・・波動砲(キャノン)!!!!!」


 俺は真上に迫ってきているサーヴァンツの大群に向けて、最大出力の闘気を放つ。

 もちろんそれでも真上に撃つと、結晶やキキョウもろとも吹き飛ばしてしまうおそれがあるので、角度だけは気を付けてある。

 真上を九十度としたならば、俺が放った角度はおよそ十度。ほぼ真横である。

 位置的に現在グラーケンの身体の中心から少しずれた場所にいるため、見た感じ六割くらいのサーヴァンツを巻き込むことに成功した。もちろん『闘気波動砲(アーツ・キャノン)』によって被害を受け風穴が開いた外套膜、肝臓、、その他損傷した各内臓はすでに修復されており、これには思わず舌打ちしてしまった。

 

「あれだけいたサーヴァンツが・・・半分以上消えたのです・・・!?」

「僕もたまに色々言われるけどね・・・タクは・・・正真正銘の化け物だよ。」

「・・・ッ!!まだまだァァアアア!!!」


 見えてる範囲で手が届く奴全部倒す!

 片っ端から顔を潰し触手を引き抜き、五体満足で下へと落ちていく骸は存在しなかった。

 そして気が付いたことには、もう心音は目の前に・・・・・


「・・・さぁ・・準備万端、いつでもオーケーだ・・・!」


 俺が踏みしめる地の数歩先には、力強く血液をこの凄まじい巨体全体に巡らせている心臓がある。

 つられてこちらの心臓の音も加速するが、そんなことが全く気にならない程の、全てをかき消すような重く響くハートビート。俺は拳を握り締め直し、眼前のそれだけに集中する。

 絶対にミスは許されない。ミスれば全てが水泡に帰すこの極限状態。そんな中でも、自然と俺は大きく取り乱すことは無かった。


「さぁ、キキョウさん・・・いつでもどうぞ・・・!」


 決着は、もうすぐそこまでに迫った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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