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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#120 託す未来、時を越えたエールその二十六

 もちろん、アリヤの持っているスキルの中に『無限スタミナ』などは存在していない。

 限界のその先、更に向こうへ到達してしまった彼女が先ほど充電が切れたかのように倒れたのは論を俟たない。そしてその疲労、肉体へのダメージは常人の限界突破の比ではなく、本来であれば丸一日眠ったままでもおかしくなかった。

 レリルドが置いていったラザール通りの最高級ポーションの効能は凄まじい。体力、疲労、大抵の傷ならばすぐに回復してしまう。

 目の覚めたアリヤは、そんな代物が目の前にあることにすぐ気付いた。動かすのが精一杯な腕で必死にその薬の入っている瓶を掴み、死に物狂いで手繰り寄せて蓋を開ける。そしてそれを少しずつ、少しずつ飲み込んだ。


 彼女は剣を再び手に取り戦う。この戦いの勝利のために。

 



「一気に片づける!!はぁあっ!!」


 体は全くと言っていいほど軋むことは無く、疲労、筋肉痛の類も一切存在しない。

 この文面だけ聞けば違法薬物のそれだが、このポーションだけは値段が値段なだけはある。普段では一本買うことすらできず、こんなに一度の戦闘で何本も死要することなどできない高級品なのだ。この点に至っては完全にモラウスのおかげである。

 

「・・・・・・・」

「やっぱり凄い・・・私も負けてられないわ!」

 

 アリヤと共に眼前のサーヴァンツ及び触手を上へ向かわせんと捌いている闇丸は、一切隙を見せない流麗の一言に尽きるような剣裁きで悉くを切り裂いていく。

 刀の切れ味もさることながら、闇丸自体の手腕が凄まじいものであることはアリヤも見て分かる。あれだけ大きな刀を振っているというのにブレが一切なく、極限まで音がしない。無駄という無駄を削れるだけ削った途轍もない絶技。アリヤはサーヴァンツを捌きながらもそれに見とれていた。

 その直後、目の前にサーヴァンツとは違う黒い影が二本現れた。

 残りの六本は闇丸が受け持っており、居合の構えから目で追えない程の神速の斬撃を触手に浴びせる。

 瞬く間に六本全てが細切れとなり、近くにいたサーヴァンツをも巻き込んで崩れ落ちていく。

 アリヤはその剣技をじっと見ていた。それだけに一瞬、眼前のサーヴァンツの攻撃が放たれるまでの間の一瞬。

 その後、闇丸の動きに合わせて体が勝手に同じ構えを取る。見様見真似ではあるが、『火焔武装(フレイムアームズ)』により生み出した炎剣を一時的に手元から消し、その左手はマリアの鞘を握る。


「ふぅぅぅぅ・・・・・」


 闇丸から目をそらさず凝視しながら、アリヤは一時的に剣を鞘に納め構える。これも無意識に。

 アリヤの剣技に関するセンスはプストルム、いやアリンテルド全体を見ても相当秀でている。名をはせる実力者の剣技を目で盗み、それを当たり前かのように完璧に習得してみせる。

 そのことについては、かのダリフ・ドマスレットの我流剣技、阿修羅『破道』一之型を一度見ただけで再現してみせたことからすでに明らかであろう。

 だが、流石にオリジナルと同等クラスで再現することは難しい。で、あるから彼女はただまねるだけではない。それら全てを糧とし、己の剣に組み込んでそれを昇華させるのだ。

 

「「・・・・・・・」」


 現れてから一言も発さないサーヴァンツ、うねるだけの触手、そして沈黙するアリヤと闇丸。当然上は騒がしいが、それらを覗けばこの場は静寂に包まれていると言っていいだろう。

 アリヤは鞘に魔力をひたすら送る。それは鞘の中で灼熱の炎へと変貌を遂げ、今もなおその温度を上昇させ続けている。

 彼女の防具『羅紅(らこう)戦布(いくさぬの)』、『緋炎の胴鎧』、『火箭(かせん)のブーツ』の三つに付与されているかなりの数のスキル付与(エンチャント)の中には、それぞれに『炎属性無効』が含まれており、アリヤ自体には熱によるダメージは無い。だがもしもこれらの装備がなければ、彼女は自分の炎の熱により自滅していた可能性もある。それほどの熱が、今鞘の中に籠っているのだ。

 そして刹那、それは放たれる。


「ッ・・・!」


 鞘から抜き放ったマリアの刀身は熱により赤く染まり、爆炎とも呼べるそれがアリヤの目の前で更に激しく燃え上がる。

 その炎は彼女の振るった剣の軌跡を描いているのだが、周りからすれば、彼女の目の前で炎が空中で乱雑に燃え広がったようにしか見えない。

 だがしかし、それは確かに剣の軌跡。紙の上で何重にもペンを走らせたかのように、その空間の一部が灼熱の炎により塗りつぶされたのだ。そしてそれは、その一瞬の間に、どれだけの回数アリヤが剣を振るったのかを現しているが、その回数は炎を見るだけでは分からない。


「・・・・・カハッ・・!?」


 集中している間呼吸すら忘れていたアリヤは、体中の酸素が枯渇したことにようやく気付き、その後急いで呼吸を再開する。

 剣技の方は初見にしては彼女からすれば上出来といったところだろうか。それでも闇丸のそれには遠く及ばないのは事実だが、瞬時にそれを再現せんとするアリヤのトレースは異常なまでの性能である。

 目の前の炎が消滅すると、彼女の前に迫っていた触手二本の先端部分と数十体のサーヴァンツは跡形もなく焼き尽くされ、辺りには黒い灰が舞う。




 そんなアリヤを、闇丸もまたじっと見つめていた。主の命に従うのみで、感情を持ち合わせることのない闇丸が。仮に闇丸に心があるとするならば、闇丸は一体何を思っているのだろうか。

 迫っている無数の触手とサーヴァンツを斬り捨てながらも、その仮面はアリヤをじっと見つめる。

 当然であるのか否か。たった一度見ただけで、自分の技を盗まれたのだから。

 

「・・・・・・・」


 だがその鎧は、ただひたすらに無言を貫き通す。決して喋れないわけではないのだ。ただ、()()()()()()()()()()()だけのこと。

 今闇丸ができるのは、己が主の命にただ忠実に従うだけ。それ以外には何もない。何も必要ない。

 主の為に目覚め、主の為に刀を振るい、主の為に散る。そのための懐刀。闇丸は自分をそのように認識している。

 

「ふうっ・・・よし!闇丸!負けないわよ!!」

「・・・・・・・」


 アリヤはただひたすらに、この場にて闇丸を知り、強くなることだけを今考えている。

 もちろん。本来の使命であるグラーケンを仕留めるまでの時間稼ぎも忘れてはいない。しかし、こんな機会待ったに訪れるものではないとアリヤはちゃんと分かっている。

 

(自分の殻を破れる絶好のチャンス・・!滅多に訪れることのない実戦での成長の機会・・!絶対に逃してたまるものですかっ!!)


 そう考えるアリヤの口角は自然と上がる。先ほどまで限界突破して倒れていたとは思えない程の成長への貪欲さ。揺るがない剣術への愛と強さへの執着が、また一段階彼女を成長させようとしていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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