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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#118 託す未来、時を越えたエールその二十四

「っし・・チャンスは一度きり・・!行くぞ!!!」

「「「おう!!!」」」


 たったの一秒未満。その一瞬のためだけに、目の前の理不尽にも全力で抗い続ける。

 ユカリにの力を七年間も奪い続けたグラーケンの闇属性魔法の熟練度は、光属性のそれとも大差ないほどの質を誇っており、外套膜の内側から、次々とサーヴァンツ・フィーラーとか言う触手妖精を再び生み出し、自らの手駒、内臓、および最奥の結晶を守る盾とする。

 

「サーヴァンツ達は僕たちに任せて!!」

「絶対に邪魔なんてさせないのです!!!」


 まず飛び出したのはレルとムラメ。手慣れすぎている武器生成で、二人ともが片手直剣を生み出す。

 勢いよく切り込んだ二人の後についていき、足場の悪いことこの上ない内臓の上を走る。

 目の前の斬撃の嵐の前に散っていくサーヴァンツ達を視認しながらも俺は二人の後を追いかけ、キキョウは自らの全力で一気に飛び上がる。


「・・・っらぁぁぁあああ!!!!!」


 まるでロケットかの如く飛び上がったキキョウは、そのまま少し上の直腸と思われる場所へと着地し、そのままそれを伝って先へと進む。


「そらぁあっ!!・・・クソッ!!!」

「やっぱり、これ以上の弱体化は望めなさそうにないね・・・!」

「それでも、やり切ってみせるのです!!!」


 俺たちの目の前に肝臓が露わになっているというのに、それを攻撃したとて今は無駄というのは何とも歯がゆいものだ。それでも一ミリも無い希望を持って攻撃を試みたが、結局焼け石に水。こちらが気付かぬ間に再生を終え、ダメージというダメージは入っているようには見えない。

 その時だった。グラーケンが突然何やら見たことのない攻撃を放ってきたのは。

 ボボボボボと放たれるのは、先ほどの光の玉とは真逆の真っ黒の球体のようなもの。

 だがその速度は光の玉のそれとは段違いのスピードでこちらに襲い掛かってくる。

 それは味方のサーヴァンツすらも飲み込みながら、もうすでにこちらの目の前に来ている。


「・・ッ!危ねぇッ!!!」

 

 俺は咄嗟に目の前の二人を左右へ吹き飛ばし、その玉が俺の右腕に直撃する。


「つっ・・グウッ・・・!!!」


 俺の右腕はさも当然のように吹っ飛び、黒い玉はそのまま壁へと衝突し、轟音を上げる。

 俺はすぐさま振り返ってその様子を見る。少しの土煙が消えて目に映ったのは、まるでカラーボールを壁に投げつけたかのような。コンクリートの上に水風船を落としたかのような光景。それを見た途端。俺の中で完全に消え去っていたイカに関する常識がすぐさま蘇ってくる。


「・・・しまった・・完っっっ全に忘れてた・・・!!!普通忘れねぇだろこんなの・・・!!」

「タク!!!」

「一体何を忘れていたのですか!?」


 そう。どっちかと言えばそれはタコのイメージが強い気もするが、もちろんイカにも備わっている・・・いや、なんなら俺たちはそれを()()()()・・・!今の今までどうして忘れていたのやら。

 おそらく、触手のイメージが強すぎたのだ。だからこんな簡単なことを見落としていた・・・!


「イカ墨だ・・・!思えばこの位置、丁度イカの墨袋がある位置だ・・・!奴は自分のイカ墨を凝固させてこっちに向かって一気に発射してる・・!威力は御覧の通り。光の玉同様、一発喰らえばお陀仏なのは全く変わらない・・・!」


 たかが墨に属性があるとも正直思えんが、この世界は本当に何があるか全く予想ができない。とて、気を付けてたって俺には結局どうすることもできないのだが。

 でも、意外と気に入っていたこの黒いジャケットの袖も一緒に吹っ飛んでしまった。せっかく新調した装備が、この戦いですでにボロボロになってしまった。


「俺の一張羅をこんな風にした罪は重いぞ・・・!死をもって償えクソがぁぁぁ!!!」

「怒るとこそこなのですか!?」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!!とにかく、あれにも警戒しながら先を急ごう!!」


 今俺たちが目指している場所は、心臓。

 位置としては、この目の前にある馬鹿でかい肝臓の少し上。そこで今もなおドクドクと動き続けている。

 その心音はこちらの身体にも響いてきており、たかが一臓器であるというのに、その迫力は相当なものである。

 

「キキョウさんは・・・もう結構上にすすんでるなぁ・・・」

「何か相当焦ってるようにも見えるな。」

「ムラメたちも急ぎましょう!!タイミングを誤れば、全てが水の泡なのです!!」


 しかし、それにしても目の前のサーヴァンツが多すぎる。途中にいたあの群れの数も相当なものだったが、これはそれよりもかなりの数がいる気がする。ただ単に密度が高いだけかもしれないが、この圧迫感が続くのはあまりよろしくない。グラーケン(こいつ)も今かなり必死のご様子で。

 

「一気に畳みかけてやろうぜ!!」

「うん!」「はい!」

「「「はぁぁぁぁあああああ!!!!!」」」




 その頃、キキョウはただひたすらに向かった。妻のいる場所へ。妻の入った結晶のある最奥へ。それを壊すために。

 絶対に嫌だというのに、頭のどこかで妙に納得している自分がいる。だが今もこうして、身体はユカリの考えを肯定するかのように止まらない。それどころか、登るスピードを更に増している。


「・・・ユカリ・・ユカリ・・・ユカリぃ!!!」


 もはや彼自身、どうすればいいのかなんて考えられなかった。だがやらなければ、この悪夢は今後永遠に終わることは無いだろう。

 未来を捨ててユカリとの過去を選ぶのか、それとも子供たちの未来を選んでユカリを切るか。

 究極の選択、という言葉は、何気ない日常のいろんな場面で使われる言葉だ。

 それが今、本来の意味となってキキョウに襲い掛かっている。そんなもの、選べるはずもないのに。


(・・・うぅ・・どうすれば全員が報われる・・・?本当に・・・この手でユカリを・・・そうするしかないのか・・・?)


 あら?随分浮かない顔じゃない?


「!?」


 その時キキョウに話しかけてきたのは、ユカリの思念。何気ないその言葉に、キキョウはまた涙腺が壊れかける。


「・・・ユカリ。」


 と言っても、そんな気がするだけなんだけどね。あなたの事は、なんとなく分かっちゃう。

 ・・・何も迷うことなんてないでしょ?私はこうしてあなたと今話しているだけでも十分・・・


「そんなわけないだろう!!!?」


 キキョウは一旦立ち止まりユカリの言葉をありったけの声量で遮る、そして、彼女へと自らの、心の底からの思いを訴える。


「・・・君はいつもそうやって自分を犠牲にする・・!七年前も、きっと助かる人間の中に自分を含めていなかった・・けれど君は残った!!私たちを助けるために!!・・・もう十分だろう!?もういいじゃないか!!ユカリがそろそろ報われたって!!なんで私は・・・・・いつも君に何もしてあげられないんだ!!!!!」


 キキョウは天に向かって、最奥で輝く決勝に向かって必死に叫んだ。流れる涙を無視して。無力な自分への怒りと、ユカリに生きていてほしいという思いを込めて。


 ・・・・・もう・・・


「・・・?」


 もう、私はあなたからたくさんの物を貰った。たとえそれが形のないものだとしても。私の心はすでに満たされている・・・


「・・・ユカリ・・・・・」


 今の私の願いは、このグラーケンの悪夢を終わらせてほしいということ。そしてもう一つは・・・・・これからどんどん成長していくムラメが、ずっと幸せに生きること。だけど私はそれを叶えることは出来ない・・・だからお願い・・・!あなたに・・キキョウさんにしか頼めない!!代わりに、私の夢をかなえて・・・私の未来は・・・・・あなたに託します!!!!!


「・・・・・ユカリ・・・もしいつの日か、私がそっちに行くことがあれば・・・また一緒に・・・一緒にいてくれるかい・・・?」


 涙を拭い、決意の固まった目を、ユカリはもちろん見ていない。だが、それを彼女は感じ取った。その思いを。しっかりと託せたことを。


 ・・・・・はい・・喜んで・・・!


 キキョウは再び最奥を目指す。まず初めに、この悪夢を終わらせるために。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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