#11 獣人殲滅戦線その五
そんなこんなで、俺たちはダリフ無双物語に振り回されながらも更に森の奥に進み・・・
「お、このオーラ!間違いなくアイツだなぁ?」
そこにいたのは何とも奇妙な人影。身長はおそらく百十センチ程度。小太りな体に生えているのはその体に不釣り合いな枝のように細い腕と足。健康とは思えない冷たい色の肌。謎にしっかりとしているスーツに革靴。小さめのサングラスなどと、マフィアの小物感がすごい奇妙な姿の男。
「ホ、ホヒュヒュヒャァア!?あの獣人共を一撃でェエ!?」
うーわ笑い方気持ちわるっ。
「キョヒョヒョォオッ!さぁすが『修羅』と呼ばれるほどはありますねぇえええ!ダァリフドゥゥマスレットォウッ!!」
奴は顔に冷や汗を浮かべながらも、その気味の悪いにやけ顔を崩さずにいた。
「誰だテメェ!前触れもなく獣人を嗾けてきやがって!あんな数でまとまった行動をする複数種類の獣人なんて聞いたことがねぇ!もしあんなの今までに発見されてたら国、いや、世界的な大問題だ!一体何なんだお前は!?」
「ケヒァヒュヒュヒョ!これは失礼失礼。まだ名乗っておりませんでしたねぇえ。私は、人呼んで『死体マニア』!カースウォーリアーズのカロナールと申しますぅう!」
見た目言動だけでなく通り名さえも悍ましいとは・・・ちょっと予想はしてたけど・・・
「ではでは・・・あれらの獣人に関して説明して差し上げる前に、私の完璧な芸術をお見せ致すぃいましょおぉおォ!!!」
「な・・・何よあれ・・・」
カロナールがその場で指をパチンと鳴らすと奴の隣に巨大な魔法陣が出現した。そこから出現したのは、異常ともいえる化け物。怪しげな紫色のオーラに身を包み、先程出現した狼獣人のそれを優に上回る巨体。見ただけでわかる異常なまでの筋肉量。そして見るも無残な張り裂けた腹。狼獣人でも大概だったのに、まだ上がいるとは。今回の一連の戦闘だけでも、ソシャゲのインフレを一気に凝縮したような内容の濃さ、出鱈目さである。
「ケフフフフ・・・これは狼獣人で作った同種合成獣・・・材料に使用したのは中位級の死体五つのみ・・・それだけでここまでの芸術作品を作り上げた!私の知恵と技術の神髄とも呼べる代物ですぞぉおオ!」
「中位級?こういうのって最上位級とか使うんじゃないのか?」
「おおぅ・・・イイイィィィイイ着眼点ですねぇえぇええ!!!黒髪のあなたァ!見ィ所がありますねえぇえ!!!」
ふと気になって質問してしまったが、まさか褒められるとは思わなかった。まぁ方向性はアレだが、自分の好きなことに興味を持たれたと思っているのだろう。まぁその喋り方と肩書だけで、誰も聞く耳なんて持っちゃいなかっただろうし。なんなら今こいつ一人だし、味方にも嫌われてるんじゃ・・・・・っていかんいかん。こんな外道に同情の念を送るところだった。
その後もカロナールの解説は続く。
「最上位級の獣人で同種合成獣を作るとなれば、それはそれは強力な個体が出来上がるでしょう・・・しかぁぁァァァし!その大きすぎる力を制御し、使役するのは、このカロナールでも無理に等しい至難の業・・・そして同種合成獣は生み出した獣人とは異なり思考能力が無い・・・つまり、文字通りの暴れることしか能がない化け物・・・『脳無魔獣』と化してしまうのですゥ・・・それはあまりにも後の対処が面倒、何よりも、美ィィィ学がありませんッ!!!」
そこで感情をさらけ出して力説していたカロナールのにやけ顔が戻り・・・
「しかし・・・心配することはありませんよぉぉおお!私の技術にかかれば、ただの合成程度で終わらせはしません。私の大いなる魔法『死人形魔改造』があれば、足し算は、掛け算になり得る・・・中位級の狼獣人でも、灰色の階級なんて軽々超越しうる作品を作り上げることができるのですゥ!!!」
話を聞く限り、こいつはただの変態ではなかった。あらゆる生物の骸を自在に組み替え、己の僕とする。分野が違っていれば、間違いなくそこらの天才などをはるかに凌駕するほどの存在。俺の中でのこいつの評価が、『やべぇ変態』から『えげつない変態』へとランクアップした。
するとダリフがカロナールに問いかける。
「でも聞く限り、獣人が無限に湧き出てくる理由がいまいちわかんねぇな・・・ただ一つを除いて。」
「・・・ケヒッ!」
「そういえば小父様、さっきの無限湧きについての説明・・・まだ続きを聞いていませんでした・・・一体どうやって・・・・・」
そうアリヤが問いかけると、ダリフは笑みを崩さぬカロナールを睨みながら口を開きだした。
「まぁ・・・実際は限りなく無限に近い。だったがな・・・・・以前聞いたことがある・・・『死体内増殖複製』。おそらくそれがこいつの使った気色のワリィ魔法の名だ。」
「師匠・・・それはどういった魔法なんでしょうか・・・?」
「あぁ。本来死体に魔法をかけても何の意味もない。死んだ者が戻ってくることはどんな状況でもあり得ない。だが、それはあくまで人間の場合の話。こういう獣人なんかは、死んでもしばらく細胞は生きてるんだ。その何億、何兆もの細胞を活性化させ、強制的に急成長させることで、あたかも無限に召喚しているかのような状況を作ることができる。普通なら混乱どころじゃすまないだろうからな。
そして急成長させた細胞に、他の獣人の遺伝子でも組み込めば、狼獣人をくっつけたバケモンとやらからでも、比較的使役しやすい胡狼獣人、犬獣人なんかを生み出せるってワケだ。まぁそんな芸当、相当の手練れにしかできないだろうからな。どうだカロナールとかいうクソ野郎!それがテメェの魔法のタネだ!」
ダリフの推理を聞いたカロナールは感心したように拍手を送る。
「さすがの洞察力、考察力ですねぇ。ダリフ・ドマスレット。しかしこちらの制作情報が知られていたとしても、こちらとしては無問題。この同種合成獣をこの場で作った時点で、あなたたちは詰んでいるのですよ。そしてこうやって話をしている間に、何か異変に気づきませんでしたかァァ?」
「はぁ?異変なんて・・・」
異変なんて気付くはずがない。いや、本来なら気付くはずなのだが、目の前の化け物に意識を持っていかれていたのだ。辺りに見える敵は、カロナールと同種合成獣のみ。辺りは静まり返っており、風で木々の揺れる音が聞こえる。遠くからは、先ほどの獣人の残党と思わしき叫び声と・・・人間の悲鳴。
「・・・ッ!まさか・・・!」
『ダリフさん!!!』
ダリフの一瞬遅れた嫌な予想が的中してしまったのだ。
『先ほど増殖が止まり、犬獣人、胡狼獣人共に順調に撃破し、残り個体三千辺りで獣人に異変が見られ、ちゅ・・宙に浮きだしたんです・・・そこから奴らは気味の悪いオーラを纏い、一塊に集められたんです。そこから全個体がぐちゃぐちゃになったと思えば、とんでもない大きさの化け物が現れて・・・!そ・・その大きさ・・・約三十メートル・・・魔力も増幅しており、ここにいるものでは幹部の一部を除き対処ができない状況です・・・!現在『サカラ』リーダーのデイモンドさんと、『カルラ』リーダーのアールズさんが何とか食い止めていますが、いつまでもつかどうか・・・』
「畜生!なんで気付かなかったんだ!バッカス!すぐに俺が加勢に戻る!無理をせず、絶対に死者を出すな!いいな!」
『はっ!了解しました!』
「・・・・・そういうことだお前ら!俺は今からプストルムの方に戻る!これから言うことは俺からお前たちへの命令は二つ!『カロナール及び同種合成獣|の討伐』、そして最重要事項、『無事に帰ってこい』!以上。これが今決めたお前らのテストだ!この程度倒せなきゃあ魔神討伐なんて行かせられねぇ!気張れよ若造共!」
「はい!」
「これしきの事・・・乗り越えて見せるわ!」
「てか今決めたんだな・・・・・よし!レル!アリヤ!気合い入れていくぞ!」
この世界で初のボス戦ともいえるこの戦い。勝利の最低条件は・・・大金星だ!!!
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