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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#117 託す未来、時を越えたエールその二十三

「・・・・・は?」

「ん?破壊・・・?ってことは・・・」

「その・・・中に入ってるユカリさんって人は・・・」

「・・・・・まず助からねぇだろうな。」


 淡々と告げられたその言葉の意味はとても重く、キキョウを心から絶望させるものだった。 

 それにしても、この力の根源だって?つまり、これ全部、グラーケンがユカリから奪った力で行使してるということになるぞ・・・?

 その結晶は今もなおその輝きを衰えさせることはなく光続けている。美しい紫色のそれは、まるで夜空の一番星かのような、煌びやかながらも、なんとも優しい光。

 だがしかし、それがユカリの力、何らかの彼女のエネルギーのようなものが奪われているのだとしたら?


 ・・・七年前、グラーケンは私を殺さずに、自らの体内へと取り込んだ・・・唯一の弱点である闇属性を克服するために・・・私の肉体を結晶の中に封じ、その形を保ってまで・・・


「このイカ・・・クソだな・・・!」

「・・・でも、なんでそれでユカリの身体を壊す理由があるんだ!!何か別の方法が・・・」


 あなたなら分かっているでしょう?それが十分な理由だって。


「・・・くぅっ・・!!!」


 キキョウは苦虫を嚙み潰したような表情を更に強張らせる。自身の歯をこれでもかというほどに食いしばりながら、必死に他の方法が無いかを、同様で上手く回らない頭で思考する。


「それで・・その理由というのは、どういったものなのですか?」


 ムラメは姿形なく、声しか聞こえない自分の母親らしい人物にへと問いを投げかける。

 ユカリはそれに対し、まるで宿題の問題が分からない子供に教えるかのように、丁寧に説明する。


 さっきまで戦っていたあの灰色の状態のグラーケンは、間違いなく光属性。闇属性に強く、そしてそれ以上に闇属性に弱い。刀で斬ろうが火で炙ろうが、この化け物には通用しないの。それはもうよく知っているわね?


「は、はい・・!」


 でもある日、この洞窟で最強のこの生物は、自分に対抗しうる者達が現れたことを知ったの。それが、私やあなた達、洞窟に住まう民。つまり、洞窟居住民(アンダーグラウンダー)の存在。でもそれは、ただ単に闇属性の魔法を操るからじゃない。


 ムラメやキキョウら洞窟居住民(アンダーグラウンダー)は、生い立ちや得手な属性関係なしに闇の精霊の加護を受け、そして闇属性の魔法を操る。その力は小さいとはいえ、このグラーケンがそこまで危険視する物なのだろうか?


 それは・・・()()()()()


「人間だから・・・ですか?」

「つまり・・・どういうことだ?」


 人間は魔物とは違って知恵があるでしょ?グラーケンも一応知性はあるみたいだけれど、それは人間には遥かに劣るものみたい。

 その始祖である長老さんは、この地の主の存在を知り、まず初めに闇属性の魔石がタクさんある場所を探した。そして運よく見つけたのが、あの大きな魔石の壁。

 そして、それを自分たちの居住区のバリケードとして機能する場所に今も住まっている。壁の向こうの人間の存在は、グラーケンにとって不安要素の何物でもなかったようね。何の不自由もなくこの地に君臨し続けた王は、少しの悩みのタネすらも忌々しいものに感じた・・・ってとこかしらね。


 絶対的独裁者は、圧倒的自己中心的思考の元このエンゲージフィールド全域を支配していた。

 そこにどこからか現れたこの世界でも数少ない知恵を持つ種族。自分より遥かに小さいのに、直接戦えば一瞬にも満たない速度でその体を潰すことなど容易いというのに、その厄介な知恵によってそれは阻まれていた。

 そのどこか歯がゆい状態は、グラーケンにとってとても心地の悪いものであり、たとえ向こうがこちらに害がなくとも、グラーケンからすれば害虫のそれに等しい存在。

 人で例えるのならば、突然部屋に現れるゴキブリ。向こうが特に危害を加えてくるわけではないが、こちらがそれを視認した瞬間に生理的嫌悪感が働き、その際沸き上がる絶対に仕留めるといった感情。

 だが、その際のグラーケンに、その闇属性の魔石の壁を突破する方法は存在しなかった。

 同じ場所に相当数一塊になっている魔石は、通常のそれよりもその中に保有しているエネルギーの量、質は遥かに高い。それ故に、グラーケンはその突破口となる物を探した。何年も、何十年も。

 そして、ついに現れたのだ。今から七年前。元々闇属性に適性があり、それに加えて上位精霊の加護を受け、更にまだ洞窟居住民(アンダーグラウンダー)になりたて、力が体に浸透しておらず、その時のグラーケンでも吸収できる可能性が十分にあった絶好の獲物。そう、ユカリである。

 その存在を自前のセンサーで察知したグラーケンは、すぐさま行動を開始した。

 ユカリらが居住エリアから離れたその短い間に、当時のユカリ、キキョウ、ムラメ、そして長老の四人の前に現れたのだ。

 そして結果はグラーケンの計画通り。ユカリを捕獲したグラーケンはその時根城としていた場所まで、叫ぶキキョウなどそっちのけで戻ったのだった。


 ・・・・・そうして私はそのままグラーケンに取り込まれて、今はこうして近くの誰かに思念を送る以外の自由が全く効かなくなっちゃった・・・成長したユカリを・・この目で見たかった・・・


「ユカリさん・・・いや・・お母さん・・・・・」


 ユカリは一通り説明した後、弱々しく自分の望みを吐いた。それは紛れもないユカリの本心。


 とにかく、私の入った結晶を破壊すれば、グラーケンは闇属性の力を失う・・・!でも、それはきっと一時的なもの。この七年間で、グラーケンは私の力を自分の物にほとんど変えている。これは私の勘だけど・・・恐らく約一秒未満。属性が元に戻って、グラーケンもきっと硬直する。その瞬間に何とかしてグラーケンを仕留めて・・・!!


 少し前。グラーケンがとうとう魔石の壁を破壊した時・・・久しぶりに少しだけ()を感じられて、嬉しかった。この七年間、ずっと一人だったから・・・・・


「・・じゃあ、また一緒に暮らせる方法を、今から探そう!!まだ何とかなるかもしれない!!そう、逆に光属性の魔石なら!!この洞窟は広い!手分けして探せばきっと・・・その他にも、きっといろいろ手段が・・・!」

 

 キキョウは必死に訴えかけるも、ユカリがキキョウの言葉にうんと言うことは無かった。


 ・・・・・グラーケンはそれを予想して・・かどうかは分からないけど、洞窟中の光属性の魔石をすでに全部破壊しちゃった。もう、他に方法なんてないの。お願い、あなた。


「・・・・・・・本当に・・・それしかないのか・・・・・」


 ・・・えぇ。結局、私はグラーケンにほとんど力・・魔力、体力、生命力すらも奪われている・・・私の力が全て奪われたら、グラーケンは更にここから手が付けられなくなるし、私の命も尽きる・・・もし何らかの方法で私が助かったとしても、その先はたぶん・・・・・もう長くない。


「くぅっ・・!ううっ・・ぐっ・・・!!!」


 キキョウはその場で俯き、涙を零す。とどのつまり、グラーケンを倒したとて否とて、ようやく再開できた最愛の妻と、また離れることになるのだ。今度は、永遠に。

 嫌だ。そんなの嫌だ。その単純で切実な願いは、機キキョウの判断を鈍らせる。

 刹那、走馬灯のように彼の中で蘇る、ユカリとの思い出の記憶。

 苦楽を共にした。共にいっぱい笑って、共にいっぱい泣いて、時には喧嘩もしたりして。それでも歩幅を揃えて十数年の短い時を一緒に歩んできた記憶。

 そうしてキキョウは決意した。せめて、ならばせめて・・・・・!


「・・・・・タクさん。」

「・・・はい。」

「・・・・・・・私が、ユカリの入っている結晶を壊します・・・!せめて、私の手で・・・妻を解放してあげたい・・・!!!!!」


 溢れて止まらない涙を必死で拭いながらも、覚悟を決めた目の色が揺らぐことは無かった。


「・・・・・よろしくお願いします。グラーケン(こいつ)仕留める役割は、絶対に果たします・・・!!!」

「必ず倒しましょう・・・!」

「お母さんも、見ていてください!!あなたの娘ムラメは、最後まで勇敢に戦って見せるのです!!!」


 皆・・・・・ありがとう・・・


 過去の因縁を今、この未来で晴らす。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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