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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#116 託す未来、時を越えたエールその二十二

 ・・・・・しかし、現実は残酷かな。


「・・・!?嘘だろ・・・・・」


 俺の渾身の一撃は、確かにグラーケンの肝臓を捉えた。手応えもちゃんとあった。

 衝撃に耐えきれなくなった肝臓は瞬く間に破裂し、中に溜め込んでいたあらゆるものをぶちまけた・・・はずだったのに・・・


「そんな・・・でも、今タクは確かに・・・!!」

「ムラメもしっかりとこの目で見ていました!!確かにグラーケンの肝臓は破壊したはずなのです・・・!!!」


 だがいま俺の拳に当たっているそれは、間違いなくついさっき吹っ飛ばした肝臓。しかもそれは傷一つ存在しない。

 ・・・再生したのだ。グラーケンは触手、本体、その他の臓器さえも止め、肝臓だけにその意識を集中させたのだ。そして破砕し飛び散った肉片、魔力を何かしらの方法で修復し、()()()()()()()()()()。それがあたかも一切効いていないかのように。

 そんなことが可能なのか?明らかに生物としていろいろ間違っているのではないか?

 そんなことを心の中で問おうが、もちろんグラーケンからは一切の返答も帰ってこない。


ギュギギギギギギギギギ!!!!!


「ぐあっ・・・!?」

「うぐっ・・!」

「うぅぅぅ・・・!!」


 突如グラーケンから発せられたのは、今までとは違う超音波のような物。頭だけではなく全身がキーンとするような感覚に襲われる。

 そしてあろうことか今俺たちがいるのはグラーケンの外套膜の内側。外側の足場ならまだしも、ここではそれが反響して響き渡り、こちらへの被害は外側とは比べ物にならないだろう。

 体を硬直させられた俺はその場にて何とか持ちこたえた。隣のレルも問題なさそうだ。


「・・・・・おいレル・・・ムラメどこ行った・・・!?」

「んなっ・・・!?」


 レルの近くにいたはずのムラメの姿が見えない。この時は気づかなかったが、俺たちが今立っている場所はグラーケンの内臓に位置する場所。当然ただの地面ではない。生物の上に立っているのだ。

 そして生物であるのならば、多少なりとも動きがある。もちろんこの床にしている場所とて例外ではない。

 ここも僅かではあるが蠢いている。そこにグラーケンの意図が介入しているか否かは問題ではないが、些かタイミングが悪すぎる。


「ぁぁぁああああぁぁぁああああ!?!?」

「ムラメちゃーん!!」

「くそっ・・俺が行っ・・・キキョウさん!!!」


 下を覗けば落下していくムラメの姿。そして、予想よりも遥かに速くこの場所へと現着したキキョウの姿があった。

 キキョウの魔人の眼はしっかりとムラメを捉え、その後彼の脳はムラメを受け止めるために最適なルートをたたき出す。

 壁を反射するように地を蹴りながら進み、ここぞというタイミングで足場のない空中へと飛び出した。

 キキョウは空中でムラメをしっかりとキャッチしたが、その身についた加速は止まらず、グラーケンへとまっすぐ向かっていく。

 

「丁度いい。テメェは足場にでもなっとけぇ!!!」


ギュラギギィィィィィイイイ!!!!!


「うぅっ・・・!!」

 

 キキョウは足を前方に出し、グラーケンの身体に自ら向かう。その位置は奴の眼球の真上辺り。グラーケンからすれば、あまり当たり所がよくない場所。そこを思いっきり蹴りぬいた。

 グラーケン自体の弾性で跳ね返る力を利用し、ムラメを抱えたキキョウはそのままその力に身を任せ、元の石の柱へと無事に戻る。


「ムラメ、大丈夫か!?」

「は、はい・・・って、お父さんが魔物みたいになってるのですぅぅぅ!!!?」


 実のところ、ムラメもキキョウのこの姿、『絶魔人化(デモン・ノイド)』発動状態の彼の姿を見たのはこれが初めてであったため、今日の中でも上位レベルで驚いていた。


「・・・とにかく、今は説明してる暇はねェ!急いでタクたちの所まで登る!!しっかり捕まってろ!!!」

「は、はい!!」


 キキョウはそのままムラメを抱え足場を登っていく。途中もちろん触手が襲い掛かっては来ていたが、『絶魔人化(デモン・ノイド)』により更に性能を上げた『強制視力向上』の効果は凄まじいものであり、すでにこの時彼はその八本の複雑な攻撃全てを見切っていた。


「・・ハァッ・・・ハァッ・・・!!」

「だ、大丈夫なのですか・・・?」

「・・・問題ないッ!!うおらぁぁぁぁあああっ!!!」


 しかし、この力を保つ限界が来るのはもうすぐそこだ。正直言って、キキョウは『絶魔人化(デモン・ノイド)』の訓練などろくに行っていないのだ。

 そもそもこの討伐作戦自体が突拍子のないものであったため仕方がないともいえるが、もし訓練していたとして、性能、持続時間が向上するかと聞かれれば微妙な所ではある。

 先を急ぐキキョウの姿は、まるで生き急ぐ青年のようで、ムラメはそれをただ抱えられながら眺めるのみであった。

 そうして二人も無事にタクとレリルドのいる最上層までたどり着き、今戦える四人全員が揃った。


「キキョウさん。こいつの肝臓ぶっ壊したんですけど、殴った瞬間に再生しました。多分この形態変化の正だとは思うんですけど・・・」

「・・・・・シンプルな最後の抵抗なら分かりやすい・・だが、属性まで変わるのにはどんな理由があるんだ・・・ッ!あの触手妖精も闇属性・・!最初から関係性が存在してたってわけか・・・!」

「なるほどなのです・・・!でも、光属性のグラーケンが、一体なぜ・・・・・」


 ・・・・・それは、私の力・・・


「「「「!?」」」」


 四人は、その聞き覚えのある女性の声。今の今まで全く話しかけてこなかった誰かの声が、今四人の頭の中で響き渡る。


「あ・・あ・・・あ・・・」


 そして数日前、その現場にいなかったキキョウは、この声を知るはずがない。それだというのに、唇を震わせ、目をこれでもかというほどに見開いている。


「・・・ユカリ?ユカリなのか!!!?どこにいるんだ!?生きていたのか!?」

「ユカリ・・・ってことは・・・」

「「・・・?」」


 その話を聞いていた俺は、キキョウのその同様の意味を瞬時に理解する。

 だが二人は、それが何なのかを知らない様子できょとんとしていた。レルはともかく、ムラメまでレルと同じようにしているのは、おそらくキキョウがそれをムラメに話していないからなのだろうか?

 ともかく、その声は以前のものとは比べ物にならない程に流暢にこちらへと話しかけてきており、俺たちはしばらく理解を追いつかせるので必死だった。


 この化け物は・・グラーケンは私の力を利用して、自分の属性を反転させているの。この黒い姿も、あのサーヴァンツ・フィーラー達も、全て奴の魔法に私の力を組み込んだもの。


 サーヴァンツ・・・というのは、あの触手妖精の事であっていると思うが・・つまり、結局光属性だったグラーケンは、闇属性に適正のあったユカリさんの力を利用して自身の属性を一時的に変更している・・・ということか?


 このままでは、あなた達の攻撃は全て効果を持たないものになってしまう。だから、グラーケンを光属性に戻して、その隙に一気に仕留めるしか方法は無い・・・


「けど・・一体どうすればいいんですか?」


 レルがそう声の主、ユカリに問うと、少しの間の後に答えが返ってくる。


 ・・・・・グラーケンの身体の内側、その天辺。紫色に輝いている結晶が見えるかしら?


「あぁ、確かにそんなもんあったな・・・」


 その中に私の身体・・・つまり、グラーケンのこの力の根源となっているそれが入っている。


「・・・!?じゃあ、ユカリの身体も無事なのか!ということは・・・また・・三人で・・・!」
















 それを・・・・・・・破壊して。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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