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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#115 託す未来、時を越えたエールその二十一

 先ほどまでゆっくり、と言っても、弱体化する前と比べてというだけなので、実際にはかなりのスピードでこちらに迫ってきていた触手だが、それが漆黒に染まった瞬間に速度を跳ね上げやがった。

 スクロールバーをマウスホイールではなくドラッグによって動かしたように一気に迫りくる触手に完全に反応が遅れ、俺はキキョウと共に壁へと叩きつけられてしまった。


「っぐぐ・・・何なんだ!?」

「ッチ!!んの野郎・・・動きだけじゃなく属性も変わっちまってる・・・どうなってやがんだ・・?」


 今更だが、キキョウはすでに『感覚遮断』の内、聴覚と視覚を解いており、『縛りによる(ブーステッド)底上げ(・バインド)』の効果は弱まったものの、今現在では思念でなくとも普通に会話が成立する。

 さて、一体いつになったら大人しくなってくれるんでしょうねこの激マズイカ野郎。

 先ほどまでとは明らかに異質。先ほど弱体化した・・つまり、自身のエネルギー貯蔵庫である肝臓を損傷したから、グラーケン自身に備わっている防衛本能的な物が発動したのだろうか?

 アリヤは現在戦線離脱、その他の俺以外の三人も結構削れてきているだろう。そこに加えての奴の形態変化。

 おそらく、俺と八本の触手でやりあってた時が奴の全力に近い状態。そこからの弱体化で体感三、四割の弱体化。つまり約六十から七十パーセント辺りのパフォーマンスだったはずだ。

 だが今は、おそらく百二十・・・いや、百五十くらいか・・・?五割増しくらいの凄まじい威圧感を感じている。色がコンクリからこの漆黒に変化したからという見た目の問題もあるだろう・・・いや、いかにしてはかなりかっこいいのがなんか腹立つが・・・

 あふれ出るオーラはより色もこちらに対する殺気も濃密なものになっており、気を抜いたら一瞬でやられかねない気がしてならない。

 だがしかし、グラーケンの方も、おそらく火事場の馬鹿力モード。これが最終形態のはずだ。

 だってそうだろう。急所をやられて急に強くなる奴が一体どこにいるというのか。少なくとも、いればそいつは真正のドMだ。

 ここまでの急なパワーアップ。おそらくは奴の方も長くは持たないだろう。ならば一気に畳みかけるのが一番・・・なのだが・・・・・


「キキョウさん・・・闇属性の魔石・・多分こいつ効きませんよね?」

「・・・だろうな。物理攻撃は論外、有効であろう光属性の魔法なんてこっちは誰も使えねェ。内臓を一気に破壊しにかかるって手もあるが・・・多分無理だろうな。そん時は、身体の動きを全部止めてだろうと、攻撃された直後に急速に再生を進めるだろうよ・・・クソッ!!!」

「マジどうすっかなこりゃあ・・・!」


 そんなことを考えている間にも、どんどん触手はこちらにその矛先を向け、目にもとまらぬ動きでひたすら襲い掛かってくる。

 その攻撃も全く見えないというわけではないので、なんとか俺もキキョウも迎撃しながら足場を駆け上がれている。


『レル!!そっちは今どんな状況だ!?』

『!?タク!!・・・奴の肝臓に銃弾を撃ち込んだんだけど・・・その直後にこのような有様に・・・!』

『やっぱそうか・・・今は例の足場か?』

『うん。ムラメちゃんと何とか肝臓に攻撃を続けてるんだけど、再生能力が高すぎる・・・!まるで君みたいだよ!!』

『俺をこんな規格外生命体と比べるんじゃねぇ!!!』

『触手妖精以上にきりがないのですぅぅぅ!!!』


 話によると、斬った瞬間に再生しているとか。どこの鬼だよまったく。

 しかし、それほどまで厄介だとは・・・何か解決策はないものか・・・これがゲームであれば攻略サイトを見て終わりなのだが、なぜだかこれはまごうことなきノンフィクション。俺の目の前の現実で起こっているのだ。


「とりあえず・・・レル達と合流するか・・・!キキョウさん!悪いけど先行きます!!」

「おう!俺もすぐに追いかける!!」


 その後、俺は『登る』ではなく、『跳ぶ』を選択した。

 『身体強化』百パーセント、そして『魔晶闘波(ストーン・アーツ)』を上乗せした『闘気飛蝗跳躍(アーツ・ホッパー)』で全力の垂直跳び。

 そのジャンプ力は言うまでもない。凄まじい速度、跳躍距離をたたき出した俺はその最高到達点付近の足場に無事に着地。それを何回も繰り返した。

 ついには触手妖精の群れまでたどり着いたが、こいつらに構っている暇はない。と思っていたら、そこで闇丸が必死に戦っているのを発見した。

 レルの話では、あそこでアリヤがダウンしているらしい。おそらく全力を振り絞って剣を振るったのだろう。


(今はゆっくり休んどけ・・・できれば起きてくれたら嬉しいんだけどな!!)


 流石に自分でも畜生すぎると少し思ったが、レルが枕元にポーション置いてるみたいだし、この世界の人の耐久力おかしいから多分大丈夫だ。

 そんなことより、この数を一人で相手してる闇丸が化け物すぎる。

 アリヤやムラメみたいに両手に武器を持っているのであれば、手数でゴリ押しもいけなくはないだろうが、闇丸の得物はかなりのサイズの刀一本。確実に取り回しが悪いそれをまるで木の棒のように振り回しているのだからえげつない。

 とはいっても流石に数が多すぎるだろう。ここはひとつ、道行くついでに数を減らしてしんぜようじゃないか。


「手ぇ貸すよ闇丸。『闘波散弾射撃(アーツ・ショット)』、『全闘気解放(フル・バースト)』!!」


 拡散し、その場に留まる闘気の玉は、その場にいた触手妖精共を次々と焼き尽くしていく。

 一瞬刀を下ろした闇丸は何かを言いたげにこちらを見ていたが、こちらもあまり余裕はないので気づかないふりをしてそのまま進む。

 それが終われば後は障壁といった障壁もなく、グラーケンの内臓に飛び乗って肝臓を滅多打ちにしている二人の光景が目に映る。

 ぶっちゃけ結構脳が混乱するような絵面だが、まぁそれは仕方ない。というより、グラーケンの内臓の上に飛び乗る勇気の方が凄い。

 確かに直で殴るならそうしなければならないのは分かるが・・・何だろう。生理的に嫌だ・・・


「・・・でも結局乗らなきゃ俺魔法使えないからお荷物だし・・・うぅ・・うらぁぁああ!!」


 気合一閃、俺は二人と同じくグラーケンに飛び乗ったのだが、なんか足元が・・・ぶにゅんって感じで・・ぬちょって感じで・・・グニュンって感じで・・・あぁ、岩の足場が早くも恋しい・・・


「・・・レル、一回足場に戻ってもいいか?」

「駄目に決まってるだろ!?タクも攻撃してみてくれ!僕とムラメちゃんじゃ、多分一発一発の威力が足りない・・・!」

「だぁぁああ!!一気に生命活動止めたるわァァァ!!!」


 一刻も早くこのこの足場から(このたたかいを)離れる(おわらせる)ために、俺は右拳に闘気をこれでもかというほどに溜める。『身体強化』に『魔晶闘波(ストーン・アーツ)』、それに加えて俺のこの変わらない思い!!

 理由はともかく、俺はこの戦いに終止符を打つそのために、今放てる最高火力の一撃をグラーケンの肝臓に食らわせた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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