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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#114 託す未来、時を越えたエールその二十

「・・・しかし、グラーケンの野郎が弱体化したのはいいけどよォ、よくもまぁあんな触手妖精の大群を抜けられたもんだな。だが気は抜かねェぞ・・・奴を確実にぶっ殺すまではなァ!!」

「・・・・・・・」

「あ?タク、どうしたんだよ?」

「・・・・・いえ、なんでも・・・」


 間近で見ても、やはりよく分からない。

 キキョウは一時中断していた『絶魔人化(デモン・ノイド)』なるものを発動させて、()()()()()()足場を駆けあがっている。

 彼曰く、その『絶魔人化(デモン・ノイド)』は、言うなれば以前聞いた『強制覚醒』の上位互換。

 『強制覚醒』はキキョウの持つ三つのスキルを彼独自の技術で統合したものだそうだが、これに至っては何と更に三つ。計六つのスキルに加えて精霊の加護で得られる恩恵の力も全てこのスキルに使用しているらしい。なんで同種合成獣(セーム・ド・キメラ)よりもごちゃごちゃしてるんですかね・・・・・

 いや、そんなことは正直どうでもいい。いろいろ知りたいことは山ほどあるが、今は飲み込んでおこう。だが、なぜここまで急に性格が変わるんだ?

 実はこっちが本性で、いつものあれは猫かぶってたとか?

 ぶっちゃけ、スキルの内容とかに関してはどうでもいい。それは習得したキキョウの努力の賜物であると言えるから。


 以前レルに聞いたことがある。この世界のスキルとは、何もしたくても与えられる特殊能力などではない。それは本人の行動、何らかの技量によって習得できるものであると。

 とはいえ、それにも例外は存在する。それがライルブームにもあったスキルショップだ。

 金という対価を支払うことで、すぐさま新しいスキルを獲得できるというもの。

 しかしそれは、ただ単に()()しているだけ。

 確かにスキル自体は手に入るけど、それを扱うだけの技量がなければ、それこそ宝の持ち腐れ。だから、日々の鍛錬をしっかり大切にしなければならないんだ・・・というのは、レルの言葉である。


(だとしても、突然人間性が変わるのはちょっとな・・・)


 知り合いが突然口調や雰囲気が変われば、誰だって困惑する。

 今の俺の頭の中にあるイメージは、一学期に少しづつ仲良くなった真面目で大人しいタイプのクラスメイトが、夏休みを経て二学期、ガングロ金髪リーゼントでヒップポップパーリーピーポーしているというもの・・・いや、陽キャへの偏見が酷すぎるか・・・?

 とにかく、まるで本当に魔人になったようなキキョウの姿にはまだ慣れない。

 などと考えていると、下から伸びてくる八つの影。


「まぁ・・・そりゃ来るわな。」

「ったく!!しつけェ野郎だ!」

 

 弱体化したとて、硬直するわけではない。弱まったとて、攻撃が止むわけではない。

 迫りくる八本の触手は二人を追いかけるが、もうすでに遅い・・・そう思っていた。その次の瞬間、二人に悪寒が走る。

 何やらぞわっとした感覚に襲われた二人は、ここまで見向きもしなかった触手に完全に目を奪われることとなった。

 コンクリートのような色のグラーケンの触手・・・いや体全体に、どんどん黒と紫を混ぜたようなオーラが巻き付いていくような。それはグラーケン全体を覆い、最初にそのオーラが発生した場所から、どんどん奴の身体の色が変化していく。




―――ほんの少し前。


 グラーケンの肝臓を打ち抜いたレリルドは再び上昇を開始し、あっという間にムラメの元にまで追いついた。

 

「いやぁ・・・もはや何でもありなのです・・・」

「ムラメちゃんの実力なら、きっとすぐ同じくらいの遠距離攻撃を使えるようになるよ。」

「ムラメはレルさんとは別方向で強くなります・・・」


 あまりにも短い談笑を終え、二人はとうとうその場所へと足をつける。

 目的の場所。グラーケンの内臓部分にまで伸びる足場。地上から何百、何千メートル離れているかも分からないその場所からは、地面すら小さく見えるというのに、グラーケンのサイズは一貫として変わらないように見える。いや、実際に変わっていないのだが。

 そのとんでもない大きさを保つグラーケンの内臓も、また近くで見ると凄まじく、そして悍ましい。

 二人はグラーケンの内臓など見るのが初めてであったため、そこらの魔物の物とは比べ物にならない程のそれに驚愕させられる。

 

「・・・大きい・・!」

「しかし改めて・・・よくあの小さな弾丸が効いたものだな・・・それほどに少しでも傷が付いたら駄目な部分なんだろうけど・・・」


 レリルドが先ほど使用したスナイパーライフル、バレットM82で使用されている銃弾も決して小さいものではないのだが、いかんせん対象が大きすぎるのだ。奴からすれば待ち針が刺さった程度の物であろうが、その効果は確かなものだった。そう、あまりにも。


 結果、それが文字通り、『トリガー』となってしまったのだ。


 その瞬間、二人は確かに見た。グラーケンの外套膜の内側、その最奥で光る紫色の何かを。

 それのある場所があまりにも遠かったためにそれが何かは分からなかったが、その位置だけははっきりと分かる。紫色のそれが今、さながら発光ダイオードかのように光り始めたのだから。


ギュロロロロロギュガギュィィィイイイ!!!!!


 グラーケンの咆哮と共に、その光はその場から解き放たれる。

 それは輝きを失う代わりに力を増幅させ、オーラとなってグラーケンに絡みついていく。


「ッ!?一体何が!?」

「グラーケンの光が・・・消えていくのです・・・!!」


 体を淡い光が包んでいたグラーケンの身体は、突如として闇の如き黒へと染まり、その光を消す。

 この世界に誕生して以来、初めて迫る命の危機。それがグラーケンに、最後のトリガーを引かせることとなった。

 漆黒の身体、今もなお変わらず光る金色の目玉。纏うのは光属性の物とは真逆の、正真正銘()()()のオーラ。そしてそれは、彼らの持つグラーケンへの有効打、闇属性の魔石による攻撃が意味をなさなくなってしまった事を意味している。


「ギュドゥギュギガギュォィィイイイイ!!!!!


 闇の衣を纏ったグラーケンは、先ほどよりも遥かにその不気味さを増している。まるで闇そのものと対峙しているかのような感覚が二人を、いや、今グラーケンと戦っている四人を襲った。

 絶望に次ぐ絶望、その先に待っていたのは更なる絶望だった。

 南の王としての矜持が、一時的にとはいえ窮地に陥ったグラーケンを奮い立たせてしまったのだ。


 刹那、王の最後の反撃が始まる―――

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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