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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#113 託す未来、時を越えたエールその十九

 天を突き上げる一筋の光を視認することは、疑似天井の上でサーヴァンツと交戦していたムラメにも容易な事だった。

 レリルドが試行錯誤の上作り上げた常識の範囲内に存在しえないそれは、彼が机上の空論を現実にしたものであり、この世界で驚愕しないものは極稀だということが想像できる。

 耳を塞ぐ時間すらなかったムラメは、突如起こった轟音に心臓が跳ね上がるような感覚に襲われる。だがしかしそれはサーヴァンツ達の方も同じであり、レールガン発射直後、個体全てが一瞬の間硬直した。

 思わず下を覗いたムラメは確かにその目で見た。自分たちが、アリヤがかろうじて突破してきた疑似天井に開いた大穴を。レリルドの隣に鎮座している謎の巨大な物体を。

 未だに、シュゥゥ・・バチバチと音を立てているそれは、おそらくレリルドが言っていた奥の手。しかしそれは武器には到底見えず、魔法とは程遠いものであったため、概要を全く知らないムラメはひどく困惑した。


「・・・・・ぁ。」


 言葉が思った通りに発せられない。目を見開き、開いた口は彼がここまで登ってくるその瞬間まで開いたままだった。


「・・っと!!遅くなってごめん!大丈夫だった!?」

「・・・っ!は、はい!私よりアリヤさんを!!」


 だがそんなことよりも、優先すべきはアリヤだと、ムラメは考えを切り替える。

 アリヤは今もなお横穴の奥で横たわっており、目を覚ます気配は一切感じられない。

 レリルドは彼女の元へとすぐさま駆け寄ったが、彼女の容体には一切変化が見られなかった。


「・・・ちゃんと息はしてる・・おそらく、無理をさせ過ぎた体を脳が無理矢理アリヤを眠らせたんだ・・・それほどまでに自分の身を削ったという何よりの証拠だ・・・!」


 そう言いながら、レリルドはコートの内側から一本の小瓶を取り出す。それを眠っているアリヤの隣にコトリと置く。


「・・・レルさん?それは?」

「ポーション・・・回復薬だよ。流石に眠ってる間には飲ませられないけど、彼女の手元に置いておけば、きっと自分から飲んで回復すると思う・・・さて、と。ムラメちゃん。そこの・・えぇっと・・・」

「?闇丸の事ですか?」

「あ、そう!闇丸!もし可能であればだけど、あれに触手妖精を引き付けておいてほしいんだけど・・・いや、アリヤ最優先でお願いしたい・・!」

「分かりました!闇丸!聞いての通りなのです!!」


 ムラメが闇丸にそう告げると、闇丸は了解と言わんばかりに自らの刀を構える。

 一切の隙も感じさせないその構えは、辺り一帯の空気を一変させるものであり、もし仮に闇丸が人間であったのであれば、「気合は十分だ。任せておけ。」といったところだろう。


「・・・僕たちは急いで上に向かおう。これ以上タクとキキョウさんを待たせる訳にはいかない・・・!」

「・・・了解なのです!!」


 二人は互いの目を見て頷き合い、そこから一気に横穴を飛び出した。それを追おうとしたサーヴァンツの個体も一定数存在したが、それを目の前の鎧武者のオーラが阻む。

 「先へ進まんとするのであらば、我の屍を越える他存在しえない。」と言わんばかりの威圧感と殺気を放つ闇丸を、サーヴァンツらは無視して進むことができなかった。




 もうすでに例の足場をはっきりと視認できており、キキョウの『強化火(エンハンス・)力設定(レギュレーション)』、加えて闇丸がサーヴァンツの全ヘイトを請け負ってくれているおかげもあって、今度こそ何の障害も無い、極めて順調に駆け上がる。ここまで突破してきたのだから、実質ウイニングランと言っても過言ではない。何せ、グラーケンの内臓部分は、もう目の前にあるのだから・・・!


「うぅ・・・近くで見るとかなり気持ち悪いのです・・・!」

「たしか・・あの中で一番大きなものが、タクの言っていた肝臓に当たる部分らしいけど・・・あれか!」


 レリルドとムラメは、ここにきてついに目的のものを発見する。

 内臓群の下側。位置的に彼らに近い部分に存在するひと際大きい部位。ついに辿り着いたグラーケンのエネルギー貯蔵庫。

 非常にグロテスクであるそれは、微細な輝きを点々と漏らしている。


「レルさん!あれ!」

「うん・・たぶんあれが、グラーケンが内に溜めている魔力・・・魔力炉とは別・・・?いや、あれ自体が魔力炉なのか?」


 人とイカ。そもそもの種族が違うので、そこまでイカの生態について詳しくないレリルドからすれば何とも言えないが、かなりの魔力をそこには有しているのは見て取れる。

 

「ムラメちゃんはそのまま進んで!」

「え!?レルさんは!?」

「僕は奴に、()()()()先制攻撃を仕掛ける・・・!!」

「分かりました!先に行ってます!!」


 あれだけ規格外なレリルドの攻撃を見てきたのだ。近づいてきたとはいえ、まだ目的の肝臓までは一キロ以上離れているのだが、もはやムラメは驚かない。驚いても無駄だということをすでに悟っているからだ。

 そうして次にレリルドの手中に収まったのは、一丁のスナイパーライフル。

 その名をバレットM82。全長約一・四メートル。有効射程距離二千メートルを誇る狙撃中である。

 それを軽々しく担いで構えたレリルドは、備え付けられたスコープを除き、肝臓へと照準を合わせる。

 触手、サーヴァンツは共に現在使用中。もはやグラーケンに、それを防ぐ有効だとなり得るものは存在しなかった。


「さぁ・・・そろそろ大人しくしたらどうだいッ・・・!」


 レリルドは、一切のためらいもなく引き金を引いた。

 放たれた銃弾は、見事に肝臓の中心部へと命中し、そこから光と魔力が溢れる。


ギィイィィギュォォォェェエァァギュギィィィィイイイ!!!!!!!


 今までで一番大きな咆哮を上げたグラーケンは、その巨体を激しく痙攣させる。 

 人間であったならば、肝臓自体に痛覚が存在しないため、このように瞬時に暴れるといったことはおそらくない。だがしかし、グラーケンは人ではない。自身の力の源に当たる部分が損傷したことを瞬時に察したグラーケンは、暴れながらも全力でその部位の再生を試みる。

 そしてその間、他の部分に充てていたリソースを、肝臓を治すことに使う。

 そうなれば必然。当初の考え通り、グラーケンの実質的な弱体化が発生する。




「うらぁぁあっ!!!・・・!?」

「・・・ようやくたどり着きましたか・・・!!」だ


 レリルドを送り出した後も、変わらず触手を引き付けていたタクは、その瞬間に異変に気付く。

 グラーケンの触手の威力が、スピードが、質感が、全てが弱まったのだ。

 そしてそれは二人にとって、レリルド達が本来の作戦に成功したということを意味している。


『ッ・・・!キキョウさん!!』

『えぇ!今がチャンスです!!私たちも一気に駆け上がりましょう!!!』


 タクは躊躇なく闘気で一時的に周りの全ての触手を弾き飛ばし、キキョウと共にようやく上昇を始める。

グラーケン戦も、いよいよ最終局面に突入しました・・・!


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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