#111 託す未来、時を越えたエールその十七
『それで、そのお願いとは?』
時はほんのちょっと遡り、ムラメはレリルドの頼みを聞き入れる。この絶望的な状況を脱却できる策を持つと思われるレリルドからの頼みは至極単純。時間稼ぎであった。
『うん・・・僕の奥の手で、この触手妖精の障壁の一部を貫く・・・!』
『!?そんなことができるのですか!?』
『うん・・・でもそれを生成するのにはかなりの時間がかかる・・・だからムラメちゃんには、時間稼ぎをお願いしたいんだ・・・!』
『・・・・・十分。十分欲しい。それを生成して放てるようになるまでの時間。その間、なんとかその場を耐えてほしい・・・!』
「闇丸、共に参りましょう!!」
その言葉に、闇丸は言葉を発さずとも行動で応える。
迫りくるサーヴァンツの大群を神速の斬撃で次々と斬り伏せていく。その剣技は闇丸本体の圧倒的存在感とは裏腹に、まさに流麗といった言葉が似合う者であった。
水面を滑るような動きから放たれる静かな斬撃は、サーヴァンツの身体をまるで豆腐のようにするりと抜けていく。
ダリフのような剣技、豪快な力技で相手をねじ伏せることだけが剣技ではない。この剣はダリフとは真逆。どこまでも静かで、それでいて的確に相手の命脈を絶ち切る。
闇丸の刀から発せられるのはシンプルな風切音のみ。一切のブレもなく、最速最高効率の連撃が襲い掛かるサーヴァンツ達の悉くを返り討ちにしていく。
しかし、闇丸をもってしても有り余るほどの個体数は、もはや特攻兵の如くその全てがこちらに向かって突撃してくる。
レリルドから任された役割を果たせているのはいいが、それでこちらがやられてしまっては示しがつかない。だがそれでも、ムラメの中にはまだ余裕が残されていた。
「私も負けていられないのです・・・!!『闇影製作』、双短剣!!」
そうして三度生み出されたのは、ムラメの最も得意とする二本の短剣。闇丸の巨体をすり抜けてきた残党を、ムラメはそれで確実に処理していく。
「絶対に・・・アリヤさんを守ってみせるのです!このままいきますよ!闇丸!!」
「・・・・・・・」
その後、闇丸は再び刀を構え直し、眼前のサーヴァンツ達に再び刃を振るう。その速度は一段階速くなり、一般人の動体視力では刀身が見えない程にまで加速する。
圧倒的強者のオーラを纏った闇丸は、ムラメの言葉により一段階ギアを上げたのだ。
それをムラメの方も理解し、それに合わせて自身も一度深呼吸を挟んで集中力を高める。
「すぅーっ・・・・・このまま耐え凌ぐッ!!!」
ムラメも得物を構え直し、今度は自らサーヴァンツへとその身を前進させる。
そんな中疑似天井の下側では、レリルドは必死にある物の構築式を頭の中で組み合わせる。実際には魔力を武器の形に組み上げるレリルドの『武器生成』にももちろん構築式は必要であり、それは武器の種類によって異なってくる。
中でも今から生成する物は極めて複雑なもので、たった数秒でもレリルドの集中力をどんどん削る。
いつもとは違いレリルドの目の前に展開される大きな魔法陣からは、まるで3Dプリンターで出力しているかのように、それがどんどん形となって表れてくる。
しかしもちろんこれは3Dプリンターではない。今現れているのはそれの天辺に位置する部分であり、床の魔法陣からどんどんそれを伸ばしているようなイメージだ。
だがそれはまだほんの僅か一部分。まだまだ完成には程遠い。
(こいつは生成時間さえ除けば、僕の扱える武器の中で最速最強の一撃を放つことができる・・・!頼む・・間に合ってくれ・・・いや、絶対間に合わせるんだ!!)
レリルドは必死にそれを組み立てる。ムラメに頼んだ十分というタイムリミットは、レリルドがそれを完成させられるギリギリの時間。彼はムラメにだけではなく、自分にもリミットを課していたのだ。
それに深い理由などない。いくらムラメが洞窟居住民最強とはいえ、あまりにも時間をかけてしまったら彼女の身はきっと持たない。だから意識的に急ぐために、自分にも適用される時間制限を設けた。それだけである。
現在一分経過。完成率は八パーセントほど。少しペースが遅い。
魔法陣から少し姿を現したそれは、巨大な砲身の先端のような物。それでも今はただの穴の開いた鉄の円柱でしかない。
(もっと集中するんだ・・・!一度もミスも許されない、だがなるべく急げ僕・・・!)
レリルドはそこから目を瞑る。脳内で更に正確なイメージを作り上げ、それをどんどん組み立てていく。原理を理解し、構造パターンを覚え、組み立てに必要な素材の量すら把握する。武器に対する高度な知識と技術が必要なこの『武器生成』本来であれば剣一本作るだけでも至難の業であるそれで、レリルドは脳内リソースを全て消費する勢いで出力処理を行う。
(あの本に書いてある物では駄目だ・・・!弾が小さすぎる・・・!おそらくタクの世界では無理でも、僕の魔法とあれがあれば・・・!!)
以前それを生成した際には、レリルドの所有している本、『世界の銃の仕組み全図』に記載されていた通りに作った。それでもその威力は考えられないものであり、それを人に向けて放ったならば、相手がよほどの強者でない限り絶対に殺せるほどの力を持っており、それ以降は一度も使う機械などなかった。そしてそれを今、改造して生成しようとしているのだ。もちろん失敗するリスクの方が高い。だけれども本来のそれでは、きっとすぐに疑似天井に一時的に開くであろう穴はすぐに塞がれてしまう。
現在三分経過。完成率三十四パーセント。集中したことにより徐々に巻き返しつつある。より砲身へと近づいたそれは、極めてこの世界では異質なオーラをこの時点で放ちつつある。
その後五分間は、ただ何も考えず、無我夢中でそれを組み立てる。これに関しては内部もかなり複雑なので、ミスに気を付けながら丁寧に完成させていく。
ここまでで約八分が経過した。ここまでの進捗は七十九パーセント。構造が難しい部分で少し手間取ってしまった。
そこから今度はそれの動力設備の生成に取り掛かる。一歩間違えるだけでこの奥の手自体が動かなくなることが十二分にあり得るので、この部分だけはどれだけ時間をかけたとしても必ず完璧に作らなければならない。が、なるべく急ぐことを心掛けながら作業を続ける。
残り一分。完成率九十五パーセント。ほぼ完成と言ってもいいが、最後まで気を抜くことは許されない。確実に出来上がるまでは絶対に油断できない。
「ッ・・・・・よし!・・・完成だ!!!」
十分経過。この時間内にやっとの思いでレリルドが作り上げたのは、細長い砲身。根本の部分はかなり太く、そこから少し直径が縮んだ円柱が伸びているようなフォルム。その下には武骨なデザインの装置。
砲身はその装置の左側に偏っており、上部の空いたスペースには、何やら鉄製の取っ手付きの蓋がついている。そこから出ている何本もの極太のケーブルは砲身へと繋がっており、更にはレバーが二つ。片方は砲身の真下、もう片方は蓋の真下に付いている。
そう、レリルドが生成してみせた物は、彼の考えた仕組みで機能し、音速など軽く凌駕してしまう最速兵器。
独自設計電磁砲『魔動式雷弩砲:インドラ』。そのプロトタイプである。
さぁ、こっから迷走しないように気をつけねば・・・!まだ道を踏み外してはいませんよ・・・!
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