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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
112/189

#110 託す未来、時を越えたエールその十六

 このまま撃っていてもきりがない。

 弾丸を放つレリルドの思考は、そのようなことを彼の頭に巡らせる。

 この数分間。無尽蔵の魔力を活かしサーヴァンツの数を減らせてはいるものの、一向に道が開く気配がない。そしておそらく、増殖するスピードは先ほどよりも早くなっている。撃たれたサーヴァンツは生命活動を停止させ落下していくが、そいつらがいた場所が瞬時に他のサーヴァンツによって埋められていく。まさに再生する壁のようだ。

 どれだけ撃ち落としても、絶えることのないその個体数は、一刻も早くこの場を切り抜けたいレリルドの焦りをゆっくりと、そして確実に加速させている。


(もう、()()を使うしかないのか・・・?)


 それは、誰も知らない、彼のみぞ知る自身の奥の手。それは意図的に周りに隠しているわけではない。それの威力は今はなっている銃弾の非ではない。だが、()()()()()使()()()()()()()()()()()故に今まで使う場面が無かった。けれどももしかすれば、それであればこの状況を突破しうるかもしれない。レリルドは一瞬そう考えた。


(だけど、用意する間、ムラメちゃんに相当な負担を負わせてしまう・・・)


 それを()()放つには、相当な時間を要してしまう。その間、目の前の触手妖精を全てムラメに引き受けさせることとなってしまう。レリルドは思考を回す。

 だがしかし、このまま撃っていてもらちが明かないのは事実。タクとは違うのだ。ムラメにだって体力の限界がある。そのため、自分が先へ到達する前に、ムラメが力尽きてしまう可能性も十分存在するわけだ。

 

(・・・一体どうすれば・・・?更に連射速度の高いものへと切り替える・・・?でも、結局開いた穴も増え続ける触手妖精で埋まるのは時間の問題、それもほんの僅かな・・・これを突破するためには、強力な一撃であいつらを一気に吹き飛ばすしかない・・・!)


 その後、彼はふとあることを考える。

 アリヤも、同じ事をしたのだろうか?同じことを考え、自分とは違う方法でこれを突破して見せたのか?

 事実、彼女はこの疑似天井の突破に成功している。その後力尽きたものの、その真実だけは揺らぐことは無い。

 同じことが、自分に出来るだろうか?

 レリルド自身、アリヤよりも剣の腕が劣っていることは自覚している。

 得物をとっかえひっかえする自分とは違い、彼女は己の剣の腕のみでここまで来たのだから。そしてその自分の一番の強みで、この障壁を突破して見せたのだ。果たしてそれが、自分にもできるのだろうか?

 否。()()()()()()()駄目だ。剣術でこの場を抜けるのは、今の自分にはとてもじゃないが出来るようには思えない。ならばこちらも、自分の得手で、今放てる最高火力で突破する以外にあり得ないのだ!


『ムラメちゃん。お願いがあるんだ・・・!』

『・・・・・お聞きいたします・・・!』


 その言葉を受け取ったレリルドは、ムラメに諸刃の剣とも呼べる起死回生の手段を話す。




「『闇影製作(エンシャドウ)』、岩砕槌(ロック・クラッシャー)!!!」


 ムラメが次に自身の闇で生み出すは、彼女の体格に似つかわしくない巨大なハンマー。それは、平たいはずの面の部分が円錐状に伸びており、まさに一点集中型と呼べる者だった。その重量は、強化されていないムラメであれば一センチも持ち上げることのできない代物であり、ムラメ自身もあまり使用したことのない物。だがそれは、今ムラメが一番必要だったもの。


「う・・・りゃああああっ!!!!!」


 その直後、ムラメがスタートを切る。が、向かった先はサーヴァンツの間反対。守るはずのアリヤがいる方向。つまり、この空間の壁側。この足場の根本。

 

「アリヤさん・・・っすみませんっ!!」


 ムラメはそう眠っているアリヤに告げると、倒れている彼女の一歩手前まで助走をつけ、両足飛びで軽く自分の身を上へと引き上げる。そのままアリヤの身体の真上を飛び越え、ハンマーを構える。

 その構えは、まるで槍の突きを放つために限界まで引いたような。だがムラメはその柄をしっかりと握りしめており、本来ムラメの顔の前にあるはずのハンマーの頭の部分は、彼女の背中側に存在した。そう。彼女はハンマーを逆手に持っているのだ。しっかりと脇を締め、小さな体全体を使って、その大きな得物を。

 

(どうか・・上手くいきますように・・・!)


 ムラメはそのように心の中で祈る。何を隠そう。ムラメはこの行動を今まで一度も取ったことがないのだ。つまり初見。ぶっつけ本番。

 だがその土壇場で、ムラメはいつもでは考えられない程の集中力を見せる。目を大きく見開き、対象の壁をしっかりと見つめる。どのタイミングでそれを放つか、放つ角度は、ハンマーを振るうために必要な時間は。そんなことをこの僅かな時間の中で必死に考える。

 ミスをすればこの今自分たちがいる足場が崩れてしまう。そうすれば、下から迫ってくるサーヴァンツ達の大群の中に落ちることとなる。そうなれば、二人が助かる可能性は間違いなくゼロパーセント。

 そんな緊張感を有しながらも、ムラメの意識は目の前の壁のみに向けられていた。

 そしてその直後、そのタイミングは訪れる。

 

「っ・・・らぁぁぁああ!!!!!」


 瞬間、放たれた岩砕槌(ロック・クラッシャー)は壁に対してぴったり九十度で接触する。その集中力が生んだ完璧な一撃は、ムラメに確かな手ごたえを感じさせた。

 そのまま壁には亀裂が走り、それは瞬く間に広がっていく。

 刹那、この空間、その小さな一部分に、新たな空間が一つ完成する。それはそこそこの広さを有しており、一般家庭の個室程度はあるだろう。

 ムラメがこの穴を、サーヴァンツ達に背を向けながらもわざわざ堀ったのには理由がある。

 まず一つ。アリヤの身柄をその奥へと移すため。先ほどまでの状態では、サーヴァンツに複数の方向から回り込まれれば、アリヤを守り切れない可能性があった。しかし、今拓いたこの横穴であれば、入口以外からサーヴァンツがやってくることは無い。グラーケン本体の触手に関しては下でタクが受け持ってくれているので心配する必要はない。とにかく、これによりサーヴァンツ達の向かってくる方向を制限することができた。

 そしてもう一つ。


(くら)(くら)き深淵を司りし我らが精霊よ―――」


 ムラメはアリヤの身体を奥へと移すと、すぐさま詠唱に入る。そう。この横穴、この絶妙な広さの空間は、万が一グラーケンが触手をこちらへ放ってきても通れない程の大きさ。それでも、()()()()程度であれば、余裕を持って置いておくことが可能なのだ。

 ムラメ一人では心もとなかったこのレリルドと合流するまでの防衛戦。だが、奴さえこの場へと『召喚詠唱(サモンコール)』できたならば、その戦況は一気にひっくり返る・・・!

 再び姿を現すは純黒の魔法陣。そこから現れたのは、黒き仮面の鎧武者。その姿勢は左膝と左拳を地に付き、もう右膝を立ててその上に右腕を乗せる。その構えには堂々たる迫力と、主への深い忠誠心が感じられる。


「契約の腕輪は此処に在り。その力を以てして我が剣となり、我が盾となり、そして我が救いの手となれ!『暗影武者:闇丸』!!今回は手加減など無用!その(つるぎ)を存分に振るい、我が恩人をなんとしてでも守りなさい!!!」


 その命を聞いた闇丸のオーラが爆発的に強くなる。

 闇丸が普段自ら制限している枷を外すのは、主の命があるときのみ。そしてその時は、自らの全てを懸けてその使命を果たすときなのだ。

 闇丸は人間ではない。そして魔物でもない。生物としての命を持たない闇丸は、此度も主のために己の鞘から愛刀(とも)を抜く。

やっと明言されました闇丸の中身。人間でも魔物でもない闇丸は一体何なのか、しっかり語られるのは当分先になるかと思われます。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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