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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#109 託す未来、時を越えたエールその十五

―――そこから数分前。


「~~ッ・・くっそ・・ってぇな・・・」


 『穿焔(ウガチホムラ)』を放った右拳の収まらない痛みに苛立ちを覚えながらも、『自己再生』の効果で少しずつその火傷を癒していく。

 全ての触手を消し飛ばし、僅かながら戦況に隙が生まれた。

 タクは大火傷を負った右拳を抑えながら変な汗をかいている。打撃系の痛みには慣れてきたタクであったが、それでも痛みの種別が変われば、常人と同じく悶えることしかできない。

 本来武器、それが大剣であったとしても、一時的に十分に魔剣同等までとはいかないが、そこそこの性能にまで引き上げるこの世界の魔石。タクはそれを気軽に取り込んでいるが、実際にこの世界以外の魔力を持たない常人がそれを行えば、たった一個でも容易くその命を奪えるような代物。故に、武器に纏わせ使用する際は、この世界の人々もその扱いには十分に注意するほどである。

 そんなものを拳に集約させたものだから、タクのそれに集められたエネルギーはとてつもない熱量を持っており、いかに『身体強化』を発動させた肉体でも、魔石によるダメージには耐えることが出来なかった。

 熱により纏わりつきジンジンするような痛みに襲われ、耐えることは出来るものの、その絡みつくような痛みはあまり心地の良いものではなかった。

 だが次第にその火傷もタクの拳から消えていき、その痛みも引いていく。外傷であればどのようなものでも瞬時に治るのが、この『自己再生』の大きな利点である。


「レル!ちょっと早い気もするが、今から登れ!ここは俺が何とかする!」


 おや?今の台詞かなりフラグっぽかったな?


「・・そうしたいけど、もうすでに触手が再生されつつある・・・登れるほどの隙なんて・・・」

「問題ねぇよあれくらい!それに、上の方がやばそうだ・・・あの謎生物・・こっから見ても相当な数だ・・・早く行かねぇと二人が持たないかもしれない・・・だから急いで行ってやってくれ!」

『二人とも!!・・・落ち着いて聞いてください・・・アリヤさんとの『思念共有』がいま途絶えました・・・!!』

「「!?」」


 キキョウから告げられた悪い知らせは、二人をすぐさま焦らせる。その瞬間上手く頭を回すことができなくなり、その内容をいろいろと聞きたかったが、上手く言語化することができずにいた。

 そんな二人に、キキョウはそのまま続ける。


『『強化火(エンハンス・)力設定(レギュレーション)』で彼女に付与した五十パーセントも私の元に返ってきました・・・これは付与した人物が意識を失ったことを意味しています・・・最悪の事態になっていないことを祈りますが、あの触手妖精の数、そしてこの時点であの場で戦えるのはムラメ一人・・・上の状況は最悪と言えるでしょう・・・レリルドさん。あなたにその五十パーセントを今から委ねます・・・!どうか二人の救援に行ってください・・・!!』

『・・・・分かりました!必ず助けます!!』


 もはやレリルドの中に他の選択肢など存在しなかった。こうなってしまったからには、一刻も早く二人の所に向かわなければならない。

 レリルドは一瞬タクの方に視線を向ける。グラーケンの方に体を向けて構え、いつにも増して真剣な表情のタクがこちらに顔を向ける。帰って来たのは、頷き一回。ただそれだけ。

 だがレリルドには十分に伝わった。「早く行ってやれ。」と。

 だからレリルドは、小さく頷きを返し、迷いなく再び足場を登り始める。

 先ほど『強化火(エンハンス・)力設定(レギュレーション)』二十五パーセントを体感したレリルドは、その自分の身体能力の変貌に驚愕する。

 二十五パーセントでも凄まじいものであったというのに、これはそれの更に上を行く。先ほど以上に体が思ったように動き、レルの肉体はどんどんその高度を上昇させていく。

 体を慣らしながらの全速力での上昇。それは極めて難しいものであったが、それでもレリルドは無理矢理にでも進んでいく。もちろんムラメの心配というのも大きな理由だが、それ以上にアリヤの身に関してレリルドは、何よりも、誰よりも心配していた。

 体の疲労と抱えきれない程の不安により、彼の心拍もどんどん上昇する。

 途轍もない速度で、先ほどまでとは比べ物にならない速度で進むレリルドであったが、それでも彼にとってはそれすらも遅く感じてしまう。いや、実際には速いと思ってい入るが、一刻も早くアリヤの安否を確認したいレリルドには、この登る時間すら今は途轍もなく惜しいのだ。


(登るのは二回目なんだ・・・!足場を迷うな!一気に駆け上がれ!!・・・アリヤ・・無事でいてくれ・・・!!)


 触手は再びタクが全て引き受けてくれた。触手妖精は今二人の元に全て集まっている。今レリルドを阻む障壁はどこにも存在しなかった。

 そこからどれほどの時間が経過したのかは彼は知らなかったが、初見で登った時間よりもそのタイムはかなり知人でおり、それでもなお先ほどの最高到達地点すらも超えて、現在せりあがっている触手妖精サーヴァンツにより形成された疑似天井の下側にまでたどり着いたのであった。




「くそっ・・なんて数だ・・・!」


 レリルドは到着してその後、絶え間なく疑似天井に向かい弾丸を放ち続けているのだが、一向に道が開く気配を見せない。

 間違いなく数は減ってきているのだが、それでも先ほどまでの間に増え続けたそれらは、彼の銃撃をもってしても突破が困難なほどの肉壁にへと変貌していた。

 

『ムラメちゃん!大丈夫かい!?』

『今のところはっ・・・大丈夫・・っです!!!』


 ムラメも疑似天井の上側で、果敢にサーヴァンツを相手取る。

 アリヤに近づけまいと選択した二又槍が、的確にサーヴァンツ達を貫いていく。

 長物ながらもその攻撃のスパンはとても短く、向こうからすればもはや槍の雨。精霊の加護、『強化火(エンハンス・)力設定(レギュレーション)』、そして彼女自身の覚悟。様々な要因で底上げされた彼女の戦闘能力は、グラーケン討伐に参加した他の四人と比べても見劣りしない程のものだった。

 この短期間で成長したムラメの必死の足搔きは、確実にアリヤの身を護る盾となり、サーヴァンツを阻んでいる。

 

「はぁぁぁあああっ!!!」


 二又槍に貫かれ、骸と化したサーヴァンツは、もちろんその身を地へと落下させる。だがしかし、それすらも疑似天井によって地へと墜落するのを防がれている。結果、どんどん疑似天井の上に死体が溜まっており、更に不気味な光景を生み出す。

 それでもなお疑似天井のサーヴァンツ達はゆっくりと上昇を続ける。仲間の死などどうでもいいといった様子で。


「くっ・・・全員まとめて倒してやるのです・・・!アリヤさんには、指一本触れさせません!!!」


「開け・・開け・・・開けぇ!!!」


 上と下で、レリルドとムラメの二人は、揺るぎない覚悟を持ってしてサーヴァンツ・フィーラーの圧倒的な物量へと挑む。

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