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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#108 託す未来、時を越えたエールその十四

「やりましたよアリヤさん!!ついにグラーケンの姿が再び見えました!あれを突破したのですよっ!!」

「う・・・ぁ・・・よかっ・・・」

「っ!?」


 疑似天井の先、次の足場に何とか飛び乗った二人だったが、その瞬間、すでに満身創痍となっていたアリヤは、その場でガクリと膝から崩れ落ちる。


「アリヤさん!!しっかり!!」


 怒涛の連撃の後半、その時点でもうすでに彼女は指一本動かす力すら残っていなかった。それを無理矢理動かした反動が今帰って来たのだ。

 もちろん、命を失ったわけではない。ただ、当分は目を覚ますことは無いだろう。文字通り死んだように眠るアリヤの息を確認したムラメはひとまず安堵するも、問題はまだ解決していない。

 本来の自分たちの役目は、いち早くグラーケンの内臓部分にまでたどり着き、奴のエネルギー貯蔵庫である肝臓を損傷させ、弱体化させること。やっとの思いで疑似天井を突破したはいいものの、それでも今はまだそこまでたどり着く道中に過ぎないのだ。

 本来であれば、早く先を急がねばならない。ムラメたちを阻む最大の障壁は突破した。距離も残り二割を切っており、すぐそこにまで迫ってきている。しかし、阻む壁は一つではなかった。いや、実際にはあの一つだったかもしれない。だが、()()()()()()()()()()()()()すらも、道行く二人に襲い掛かってくるのだった。


「くっ・・・一体・・どうすれば・・・」


 下から上昇してくるのは、先ほどまで天井の一部と化していたサーヴァンツ達が、ゆっくりと上昇を進めている。

 だがそれも当然のことと言えよう。侵入者に門を突破され、そのまま棒立ちの兵がどこにいようものか。

 アリヤとムラメが通って来たトンネルはすでに塞がっており、逃げる隙などどこにもない。まるで床がせりあがってきているかのように感じる。

 これがムラメ一人であればこの後の行動は決まっていた。サーヴァンツに飲み込まれる前に足場を登り切り、グラーケン本体を攻撃すれば役割は果たせる。

 だがしかし、今はアリヤがいる。己の全身全霊を振り絞って道を切り拓いてくれた功労者を、ましてやここまで共に上がって来た仲間をそのままにしておくことなど出来るわけがない。それでも彼女は自分ではまともに動くことすらできず、ムラメが担ごうにも、重量問題はどうってことは無いのだが、いかんせん二人には対格差がある。それに加えこの不安定な足場。抱えてこのまま進むのはかなりのリスクがある。

 こうして思考を続ける間にも、サーヴァンツ達は二人を食い止めんとゆっくり迫ってくる。

 その個体全ての視線は二人をしっかりと捉えており、赤く鋭い眼光は、ムラメの恐怖心を煽る。


「・・・更に上から・・・!?」


 したばかり見ていても仕方ないと、ムラメは上方へと視線を向ける。それでも、絶望的な状況には変わりなかった。

 先ほどまでいなかったサーヴァンツが、上にもあふれ始めている。

 それらは天井の一部となっていたそれではない。サーヴァンツの奥へと視線を集中させると、グラーケンの外套膜、その内側から更に湧いて出てくる触手妖精の群れ。疑似天井にされていたやつらだけでも絶望的な数だったというのに、そこからまだ増え続ける。改めてグラーケンの無尽蔵の魔力量に驚かされながら、アリヤという現在のパートナー。そして、この状況ですら突破しうるかもしれない希望をムラメは何度も見やる。だがその瞼は開く気配すらなく、ただ静かに眠るのみであった。


「うっ・・・・・いや、抗えムラメっ・・・!!」


 絶望を振り払い、ムラメは平常心を取り戻す。

 何を弱腰になっているのだ。そもそもここまでたどり着けたのは誰のおかげだ?

 まだまだ未熟な自分の力を底上げしてくれたのは、父であるキキョウだ。

 グラーケンの最強の武器である触手の攻撃を引き受けてくれているのはタクだ。

 初めて触手妖精に襲われた時、その時点でかなり苦戦した。その際に助けてくれたのはレリルドだ。

 突如触手妖精によって作られた疑似天井。突破不可能としか思えないそれをかいくぐることができたのは、今自分の目の前にいるアリヤのおかげだ。

 ここまで登ってくるまでに、どれだけ助けてもらった?自分は一体何をした?

 ムラメは再び考える。自分一人では、ここまで登ってくることすらできなかったのだ。そして断言した。自分はまだ何もできていない。

 このままこの戦いが終わってもいいのか?否。


(次は・・・ムラメの番なのです!!!)


 ムラメは辺り一帯のサーヴァンツを見渡しながら、深く一回深呼吸。覚悟を決めたムラメが生み出すは二又槍。それを握りしめ構える。


(射程を伸ばして、少しでもアリヤさんに近づけないように・・・!)


 ムラメの頬を、一粒の汗が伝う。恐怖心を全て取り払えたわけではない。だがそれ以上に、何もできないまま終わってしまえば、今後ずっと悔いが残る。その確信が、彼女の意思を曲げずに今もなお保っている。


(・・・・・とは言うものの、流石に一人で捌ける数ではないですね・・・)

 

 現在のサーヴァンツの数は、数千・・・下手をすれば万を超える。この数に全方向から集中攻撃されようものなら、それは流石に成す術がない。

 さぁどうしたものかと考えていると、ふと頭の中に情報が送り込まれる。

 

『ムラメちゃん!念のため頭を守りながら伏せて!!』

『れ・・レルさん?一体・・・』

『今はとにかく早く!!』

『は、はい!!』


 それは声。それも、先ほど自分とアリヤと三人で登っている最中に落下し、一度地上まで戻ったはずのレリルドの物だった。

 今現在は、下でタクと共に触手を食い止めていたはずだとムラメは考えるが、今は言われた通りに従うのが先決かと、一旦その疑問を取り払いそのまま足場に伏せる。

 その直後この空間全体に響き渡る銃声。放たれる弾丸はサーヴァンツを貫いていき、ムラメは先ほどと似たような光景を見ることとなった。

 だが、先ほどよりも弾の数が段違いだ。


『こ・・これは?』

『フフ・・・FA-MAS。ベレッタ ARX160と同じくアサルトライフルだけど、その発射速度はベレッタのそれよりも上。それを二丁持ち・・・全長約七十六センチ、重さ約四キロ・・・』

『いえ・・そこまでは聞いていないのですが・・・』

『っと・・・そんなことを言ってる場合じゃなかった!!とにかく思念が通じてよかった!・・・・・二人とも無事なのかい!?アリヤは今どうなっているんだい!?』

『・・・私は大丈夫なのです・・・アリヤさんも無事ですが、私たちのために無茶をして、今はダウンしてしまっています・・・!』

『・・・・・そうか・・・(アリヤ、ありがとう・・・)


 レリルドは、心の中でアリヤに心からの感謝を述べる。


『・・・となれば、急ごう。アリヤがその状態なら、今二人はそこから動くのは難しそうだね・・・僕は今触手妖精が群がっている場所の下にいる。このまま数を減らしながらなんとか突破するから、それまではアリヤを頼んだよ!』

『・・・はい!必ず守ってみせます!!!』

レルさん割とこの世界ではタクよりチート能力かもしれない・・・


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