#10 獣人殲滅戦線その四
「いてててて・・・まだキツイか・・・・・」
『身体能力強化』の底知れぬ可能性を知れたのは大きかったが、現段階では三十%以上を出すとなるとかなり無理をする必要がある。
それもそのはず。タクはこの世界に来てからまだ二日目。初回発動時の十%に対応しただけでも大したものなのだ。
「あなた昨日の倍、いや三倍位速く動いてたわよ!?ほんとに魔法使ってないの!?」
「ん?あぁ。あれは俺のスキルだ。『身体能力強化』ってやつ。」
「『身体能力強化』っていったら、師匠みたいな大剣使いや、重戦士みたいなパワータイプがよく使ってる普通のスキルじゃないか!?」
「だが、アルデン様から授かったんだ。同じスキルでも、その中身の格が普通の奴らとは違うんだろうな。」
現時点で常時発動可能なのは、やはり十%辺りだろう。昼間も激痛に耐えながらかなり無理をして四十五%が限界だったのだ。常用可能と制御可能とではかなり違ってくる。今後のためにトレーニングはしっかり行った方が良さそうだ。
「しかしタクよ。さっき三十%とか言っていたが、普通『身体能力強化』は出力調節なんて融通が利くもんじゃねぇ。本来それは使用者が何の問題もなく制御できる限界まで身体能力を引き上げるっていうスキルだ。お前みたいに、自身の限界を無視して体を壊すくらいに能力を引き上げることなんて普通はできねぇんだ。一体どうやったら限界以上のコントロールなんて出来んだ?」
「うーん・・・・・なんとなく?」
「できるか普通!!!」
ツッコまれてしまったが、しょうがないじゃないか。本当になんとなくなんだから。
「あはは・・・こんな反応する師匠初めて見たよ・・・・・」
「ふふっ。ちょっと面白いかも!」
レルは苦笑い。アリヤに関してはなぜかうけていた。余裕のないダリフがよほど珍しいのだろう。
「それにしても、結構奥まで来たけど、発生源はいったいどこなんだろう?」
「確かにそうね・・・獣人達もなんだか増えてきた気がするし・・・」
「多分もうすぐだ。気色の悪いオーラを感じる・・・・・ッッ!!!!!!」
瞬間、ダリフは前方に急に出現した悍ましい数の獣人の気配を察知する。
「お前ら!今すぐ俺の後ろに付け!!!」
「「「!?」」」
突如ダリフが叫び何事かと思ったが、俺たちはその意味をすぐに理解したのだった。
「「「「「ガルルルルルアァァァァァァァァァァァァ!!!!!」」」」」
現れたのは先日狼と見間違えた犬獣人が可愛らしく思えるほどの露出した筋肉、見るからに鋭い爪、あらゆるものを嚙み千切らんとする大きな牙。そしてある見方によってはとても美しい、ある見方によってはナイフをいきなり突き立てられたかのような圧のある灰色の体毛。
狼の化け物。狼獣人の特徴に相違なかった。
『ダリフさん!皆さん!報告します!』
「こんな時に・・・!どうしたバッカス!」
頭の中に直接響いてきたのは、現在司令官として全部隊を指揮しているバッカスさんだった。漫画とかである念話!こういう感じなんだすげぇ!
『今皆さんの前に現れている最上位級狼獣人は現在も急速な増殖を繰り返しており、このままでは、街を防衛している後方まで流れ込む可能性があります!どうかその場で仕留めていただくようお願いします!』
「チッッ!確かに一匹ならともかく、何百匹もの灰色相手は後衛にはキツイか・・・!」
ダリフは苦虫を噛んだような表情を浮かべる。そもそも最上位級狼獣人は中規模の街程度ならば一匹で滅ぼしかねないような存在なのだ。
「ダ・・リフ・・・ドマス・・・レット・・コロス・・・・・プストルム・・・ホロボス!!!」
「しゃ・・・喋った・・・!?」
「小父様の以前言っていた通り・・・まさか本当なんて・・!?」
二人も驚きを隠せていない。それも当然。本来魔物は意思のない獣に等しい。喋るなど以ての外なのだ。
というか、さっきこいつらなんて言った・・・?ダリフを殺す?プストルムを滅ぼす?
「なんでこいつらそんな明確な目的を・・・?」
「おそらくこいつらを増やしている奴の命令だろう。目的がプストルム・・・いや、アリンテルドの侵略ならば、真っ先に俺を殺せば後は楽勝だろうからな。」
ここにきてまで自己評価高すぎませんかねぇ!?
「とりあえずこいつら消してさっさと黒幕シバきに行くぞ!」
「はい?消すってどうやって・・・」
「し、師匠・・・まさか・・・!」
「タク!急いで小父様から離れて!!!」
「へ?」
その直後、狼は一斉に俺たちに襲い掛かってきた。流石に腹を括らないとまずいと思った次の瞬間・・・
「ふぅぅぅぅぅぅ・・・・・」
「・・・深呼吸?」
その時俺は瞬時に悟った。これダリフさん集中モードだ。さっきまででもヤバかったバケモンの集中モード。つまり確実にヤバい。
「遠くに逃げてる暇はないわね・・・レル!盾をお願い!」
「わ・・分かった!」
すぐさまレリルドが生成したのは超特大の盾。普通の人間には持てはしないサイズだ。
レリルドはそれをダリフの背に向けて、地面へと思い切り突き刺した。
「さぁタク!アリヤ!盾からはみ出ないように!」
「お、おう・・・」
レリルドもアリヤも非常に真剣な顔つきをしている。どんだけエグイの来るの・・・?
「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
刹那、伝わってくるダリフの尋常ではない闘気、緊張感、そして何よりもそれが自分に向けられていないことへの安心感。
「我流剣技 阿修羅『破道』二之型ッ!!!『狂い月の撃滅』ッッ!!!!!」
「なっ・・・・・!」
レりルドの盾から顔を出し俺は驚愕した。ダリフの背に、阿修羅の化身とも呼べるものを見た。いや、実際にはそんなものはいない。だがそう見えてしまったのだ。それほどのオーラ。
直後ダリフが放ったのは強烈な横薙ぎ。広範囲、超高威力。ぶ厚すぎるその斬撃は、目の前の狼達を飲み込み、次々と消し去っていった。
その間の衝撃はとてつもなく、本当に吹き飛ばされてもおかしくなかった。レルとアリヤがあそこまで焦っていた理由が本当によくわかった。
体感三秒。時間にしてほんの一瞬の間に、ダリフは目の前の最上位級狼獣人、見えるだけで数百匹の化け物を単独で消滅させた
本来六道に破道なんてものは無い。我流剣技という名前の通りならば、ダリフが独力で編み出した型。威力にもてる力、技術を全振りし、敵を滅ぼすことに特化した万物を破壊する剣・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・」
俺は驚きすぎて声が出せなかった。開いた口が塞がらないというのはまさにこのことだろう。この男がどうしてここまで自己評価が高いのかが分かった。この人マジもんの化け物だ。絶対に敵に回すようなことはしないでおこう。絶対にだ。
「よーし!一気に片を付けるぞ!お前らしっかりついてこいよー!」
先ほどの覇気を全く感じさせない笑みでそう言うと、ダリフは全速力で狼獣人の出現した方角へと走り出した。
アルデンがわざわざ俺を呼び出したってことは、このダリフでさえ敵わない程魔神が強大な敵であるということなのだろう・・・なんというか・・・・・。
「先が思いやられるな・・・・・」
さっさと黒幕を倒し、旅と並行でトレーニングを開始して、世界滅亡のリミットまでになんとしても最大限スキルを活かせられるようにすると、俺は心に誓った。
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