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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#106 託す未来、時を越えたエールその十二

 サーヴァンツの身体で形成された疑似天井。その場所までいち早くたどり着いたのはもちろん先陣を切っていたアリヤだった。

 炎を纏わせた愛剣で、登って来た勢いのままに強烈な突きを放つも、感じたのは何とも言えない手応え。

 全く手ごたえが無いわけじゃない。かといってこの天井のような何かの全体的な耐久値があったとして、それがほんの少しでも削れたという実感があるわけでもない。気味の悪い矛盾の混じった感覚。

 

「何なのこれ・・・っ!?くっ・・・!」


 その後も何度も斬撃を浴びせるものの、その結果が変わることはなく、挙句の果てに天井になってもなお攻撃してくるとは思わなかったサーヴァンツの触手攻撃により不意を突かれ、反応が遅れたもののなんとか自分と触手の間に刃を入れることができたアリヤだったが、いかんせん体勢が悪く、その時にいた足場から身を弾き出されてしまう。


「アリヤさん!!」

「なんの・・・ッ!!っと・・・」


 アリヤは何とか空中で体を捻り、真横にあった壁を思いっきり蹴る。近くの足場には戻ることができなかったものの、なんとか現状残っていたムラメより少し下にあった足場に着地することができた。


『だ・・大丈夫なのですか!?』

『これくらいどうってことないわ。それより・・・かなり困ったわね・・・』


 一刻も早くこの先へたどり着きたいというのに、阻む壁があまりにも分厚すぎるのだ。

 目視は出来ていないが、おそらく今この瞬間にも奴らは増え続けている。敵の残機・・・つまりこの天井の耐久値はほぼ無限に等しい。それに加えて先ほどまでと同じく攻撃してくるのだから厄介だ。

 

(これを突破するためには一体どうすれば・・・多分一体ずつ斬っても全く意味がない・・・グラーケンは光属性なのに()()()こいつらは闇属性・・・つまり今私の手元にある闇属性の魔石も効果なし・・・)

 

 アリヤ、レリルド、そしてタクは、今三人それぞれが闇属性の魔石を手元に保有している。これは自分たちのグラーケンに対抗できる数少ない有効だとなり得るもの。タクが自身の体内に魔石を取り込んだ後、五人がかりで個別に集めた者である。

 ちなみに、そのほとんどはタクの『アイテムストレージ』の中に収納されている。


(突破するためには、レルみたいにとんでもない威力の何かでこれら全部を吹き飛ばすか、どこか一点を狙って一瞬風穴を開けて、その隙に突破するか・・・)


 前者に関してはほぼ不可能と言ってもいい。

 自分は規格外の存在ではない。アリヤはそれを嫌というほどよく実感している。フレイリア、ダリフ、レリルド、タク。アリヤの周りには常識の域を外れた強者がたくさんいる。

 天賦の才など持ち合わせていないアリヤは、ただ愚直に剣を振り、周りから技術を盗み、研鑽を重ね、それのみでここまで強くなった。だが彼女にとってそれは、()()()()()()()()。なのである。


 となれば後者だが・・・


(あれをやる・・・?でも、やればキキョウさんの強化があったとしても、それでも多分しばらくの間反動で動けなくなっちゃう・・・・・考えてる時間は無い・・・わね・・・・・)

『ムラメちゃん!!』

『は、はい!!』

 

 あることを決心したアリヤは、ムラメへと思念で呼びかける。突然脳内で話しかけてきたアリヤに多少驚いたムラメだったが、すぐに落ち着きを取り戻してアリヤへと返す。


『アリヤさん、何か思いついたのですか?』

『・・・今からあの天井もどきを無理矢理こじ開けるから、私の後に続いて。』

『・・・つ、ついにアリヤさんもタクさんみたいなこと言い始めたのです・・・!』

『レルもいないし、それしか思いつかないの!・・・結局、私には(これ)しかないのよね・・・!』

『・・分かりました・・・!お願いします!!』

『あ、あと私多分この後しばらく動けなくなるから、動け次第追いかけるけど、それまで頑張って!』

「・・・はぇ?」

『じゃあ・・行くわよ!!!』

「ちょ・・ちょっとぉ!?」


 あぁ、アリヤさんもタクさんに染まりつつあるのです・・・

 そう半ばあきらめながらふと考えるムラメであったが、もうすでにアリヤは動き出している。細かな詳細は全く分からないが、自分の後に続け。そう言ったアリヤの言葉だけを信じるしかなかった。

 そして必死にアリヤの背中の真後ろにまで近づく。ムラメが来たことを確認したアリヤは、再び勢いをつけて疑似天井へとその身を進める。


「さぁ・・一気に突破しちゃいましょ!!『火焔武装(フレイムアームズ)』、『勇者の双炎剣(ツイン・ブレイヴ)』!!!」


 そしてアリヤ、この日、この戦闘が始まってから初めての二刀流へと移行。マリアが炎にその刀身を包むと共に、アリヤの左手には右手のそれと同じ形状の炎が握られる。


(まずは初撃・・・こじ開けられる場所を見つける・・・!)


 凄まじい熱気を放つそれらを駆け上がりながら構えるアリヤは、群れの中の僅かにある隙間を凝視して探す。

 今もなおうごめいているサーヴァンツ達をじっと見つめるのは少々精神衛生上よろしくは無さそうだが、この状況でそんなことは言っていられない。こうしているうちにも、どんどん体は疑似天井へと近づいているのだ。

 このままでは、二重の自動ドアの一つ目を開いた瞬間に急ぎ足で前へと進み、その勢いを緩めることなく二つ目の目の前に来たはいいものの、センサーが反応せずにそのままぶつかってしまうような・・・もちろんアリヤはそんなこと知る由もないしそんな例えを考えてもいないのだが、とにかくそれに近しい状況になってしまうのだ。


 接触まで残り十メートル。隙間があるにはあるが、どれも「これだ!」となるようなものではない。一瞬でもいい。サーヴァンツの身体以外に突き刺せる場所を。

 残り五メートル。それに近しいものが眼前にいくつか存在している。あとはこの中のどれに剣を突き刺すのかが問題だ。

 残り三メートル。もうそろそろ突きの構えをしなければぶつかってしまう。この数か所のどれが最適解なのだろうか。

 残り一メートル。もう考えている暇はない。選択はした。あとは賭けに勝てるかどうか・・・!


「はぁぁぁあああっ!!!」


 残りゼロメートル。刀身はサーヴァンツをすり抜け根元まで突き刺さった。運命は味方した。欠けに勝ったのだ。あとは己が力で道を切り拓くのみ。


「せぃやぁぁあああああ!!!!!」


 アリヤは少女とは思えないパワーで突き刺した剣を前方へと振りぬかんと力を籠める。キキョウによる強化。しっかりと手入れした刀身の切れ味。そしてアリヤ自身の技量により隙間は一時的に拡大し、ほんの一瞬、疑似天井のウィークポイントが完成する。


「一気にこじ開ける!!!もう一回・・・外れなさいリミッタァァァァァ!!!!!」


 アリヤはこの瞬間、後先を一切考えずに自分の安全のために脳がかけている制御装置(リミッター)を無理矢理解除する。もうすでに彼女の意識は、強制的にゾーンへと突入している・・・!

魔法がメインのはずなんですけど、この人達物理ばっかっすね・・・?


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