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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#105 託す未来、時を越えたエールその十一

「・・・っあっつ!!!!!」


 我ながら、毎度のことながら『穿焔(ウガチホムラ)』を放った後はなんとも締まらない。

 今回は火薬が無かった分腕は吹き飛ばなかったが、それでも右拳が酷いやけどである。それは『自己再生』の効果ですぐに治るものの、物理攻撃以外の痛みにはまだあまり慣れていない。

 とはいえ、火薬無しでもこの威力。以前は『身体強化』に進化していなかったからというのもあるが、それにしても凄まじいの一言に尽きる。なんせ八本の触手全部を消し炭にしてしまうのだから。


『今の凄まじい熱熱・・触手が全て消えっ・・!?あれは一体・・・!?』

『あれはタクの技です・・・僕も見るのは二回目ですが、やっぱりとんでもない・・・!』

(とんでもないどころじゃない・・・あれは将来・・グラーケン以上の化け物になり得る・・・!)


 キキョウはそんなことを考えるも、誰にも伝えることなく自分の胸の中に留める。

 彼はこの戦いが始まる前にちらっと耳にした。タクがこの世界に来てまだ一月しか経っていないという事を。そして、それ以前の戦いの経験は全く無いということも。

 早い。あまりにも成長スピードが早すぎるのではないかと思わざるを得ない。彼のその成長の糧となっている物は何か。彼自身が力を発揮する、その根源となっている者は何なのか。キキョウはそれが分からない。

 類まれなる才?自傷も厭わない驚異的な精神力?食らった魔石の力?

 それらもきっと答えの中の一つなのだろう。だがきっとそれらは、その答えの一部分にしか過ぎない。キキョウはそんな気がした。


『ふぅぅ・・・そろそろ本格的に炎の熱にも慣れねぇと・・・いや、魔石食えば解決・・・?』

『『・・・・・』』


 もしかすれば、キキョウが考えるよりも、もっと簡単で、もっと単純なものなのかもしれない・・・・・




 一方その頃、強化量が倍となり更にパフォーマンスが向上したアリヤとムラメは、先ほどよりも順調に上を目指し進んでいた。


『体が軽いのです!これならムラメもどんどん進めるのです!とうっ!!』

『あんまりはしゃいで足元すくわれないようにね!・・・でも、本当に凄い・・・!』


 グラーケンの魔法により破壊され、そのほとんどが消えた足場だったが、二人は現状残っているわずかなそれを軽々と伝って更に上昇する。

 サーヴァンツの数は未だ減っておらず、現在も増え続ける一方だが、『強化火(エンハンス・)力設定(レギュレーション)』二十五パーセントでも対処が可能だったのだ。五十パーセントともなれば、二人にとってはもはや雑魚同然となる。


「二本目を出すまでもない・・・はあっ!!!」

「ふんっ!せいやっ!」


 アリヤはサーヴァンツの悉くを巧みな剣裁きで斬り捨て、ムラメも得意の短剣で迫りくるそれらを撃墜していく。

 先ほどよりも対処に余裕が生まれていた二人だったが、やはりその数はどうしようもない。

 レリルドのように一気に数百匹単位を殲滅できればよいのだが、生憎二人はそのような魔法もスキルも習得していない。近づいてきたそれらを片っ端から倒していくしかないのだ。


「っと・・・足場が・・・!?」

「次の足場は・・・かなり遠いのです・・・!」


 二人の行く先を阻むものは魔物の群れしかない、だが、阻みはせずとも近づけない地形的な障害が残されていた。

 変わらず乱雑に壁から生えている石の柱は、今現在二人がいる場所からかなり離れている。今の五十パーセント強化をもってしても跳躍では厳しい高さ。

 随分地上から離れたというのに、まだまだ先は長いように感じる。足場さえ残っていればこのようなことを考える前に進んでいたというのに。


『ムラメちゃん・・・覚悟を決めましょ・・・!』

『はい・・・で、何の覚悟なのですか?』

『こういうことをする覚悟っ・・!!』


 アリヤはそう言うと、何の躊躇もなく足場から飛び出した。

 

「えぇっ!?アリヤさん!?」

「はあぁぁっ!!!」


 アリヤは跳躍後速やかに壁を思いっきり蹴り、更に跳躍の飛距離を伸ばす。その勢いのまま次の足場まで難なく辿り着き、上がっていた問題を解決したアリヤだったが、その勢いは止まるどころかさらに増し、どんどん壁を蹴りながら上へ上へと進んでいく。

 まるで壁を走っているかのようなその光景に、ムラメは立ち止まって数秒間絶句しながらそれを見ていた。


「・・・・・アリヤさんも大概だったのです・・・でも・・やるしかないのですぅうっ!!」


 恐怖の入り混じった声を発しながらも、ムラメもアリヤの後を追わんと足場から飛び出した。

 アリヤを見たときに浮かんだ壁を走るイメージ。人間離れしたそれを、ムラメは幼いながらも日々の鍛錬、そして最上位精霊の加護の力を存分に生かして半ば無理矢理成功させる。


「うりゃああああっ!!!(怖いのですぅぅぅぅ!!!!!)」

「・・・・・ムラメちゃんも大概だったわね・・・」


 アリヤはムラメを信じて吹っ掛けたものの、流石に心配だったのでその様子を見ていたのだが、普通に自分の後から壁を走って追いかけてきているので、少し愕然としていた。

 あくまで自分はただ壁を蹴っているだけ。とんでもない神業をぶっつけ本番でやってのけているという自覚が全くないアリヤは、ムラメのそれを見て彼女と同じことを考えているのであった。

 

『ムラメちゃん!そのままいける!?』

『はいなんとかあああ!!!』

『オッケー!あんまり無茶はしないでね!?』

『もう十分やってるのですうぅぅぅ!!!・・・!?アリヤさん!!』


 その時、ムラメが何かに気付く。何かを察知してムラメが向いている方向を見てみると、そこには変わらずこちらを狙うサーヴァンツの群れ。だがしかし、()()()()


「まったくもう・・・滅茶苦茶じゃない!?」


 先ほどまででも悍ましいほどの個体数だったのだ。それが一瞬目を離した隙にどうだ?先ほどまでうっすら見えていたグラーケンの内臓部分。つまり目的の頂上の足場・・・いや、それ以外の全てがサーヴァンツに覆い隠されて全く見えない。とどのつまり、先の道がサーヴァンツで文字通り埋め尽くされているのだ。

 まるでそこが天井かのように群がるサーヴァンツに二人はこの一瞬で集合体恐怖症になりそうなほど物凄い嫌悪感を覚えたが、あいつらに構っている暇など到底無いのだ。

 今も自分たちの下では、他の三人が体を張ってグラーケンを食い止めてくれている。自分たちの強化分をこちらに渡してまでだ。

 ならば、その期待に応えねばなるまい。グラーケンの内部を破壊し、確実に弱体化させることで、三人に結果で答えるのだ。


『ムラメちゃん・・・今度こそ、覚悟はいい?』

『えぇ・・・もちろんです。』


 腹を括り直した二人は、この後更なる苦戦を強いられることとなる。

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