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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#104 託す未来、時を越えたエールその十

 ここまでキキョウは、自身の『強化火(エンハンス・)力設定(レギュレーション)』により、タク、レリルド、アリヤ、ムラメにそれぞれ二十五パーセントずつの強化を施していた。

 状況変化後、タク、レリルドへの付与を解除し、それを他の二人に回したことによって、アリヤとムラメは先ほどまでの倍。五十パーセントの恩恵を受けることとなった。

 上位精霊の加護を受けているキキョウの『強化火(エンハンス・)力設定(レギュレーション)』の効果は、二十五パーセントの状態でも相当の物だった。更にそこから一気に効果を底上げされたことで、二人は生身の状態よりも遥かにパワーアップされることとなった。




『凄い・・!力が溢れて・・・』

『えぇ。ですが、その力の制御にはかなりの精神力が削られます。ムラメも気を付けるんだよ?』

『はい!分かったのです!』

 

 どうやら無事に俺たちの分が二人に行ったようだ。これで俺とレルは完全なる生身。さっきまでのパフォーマンスはもう出せないので、気を引き締め直さないとすぐに脱落の可能性もある。

 俺たちの眼前にあるグラーケンの触手は、先ほどよりも気持ちばかり凶悪になっている様子だ。まるで瞬時にビルドアップでもしたかのように触手の一本一本がその形状を少しずつ変化させている。

 厄介なのが強化パターンが分かれていること。

 八本の内四本は純粋に引き締まったような。触手自体を収縮させて硬度を高めたようなもの。以前に比べて細長く、コンパクトにしなる。まぁ鞭型とでも仮称しておこう。

 次に二本が単純に膨れ上がった触手。先ほど説明した鞭型が細いが質の高い筋肉だとするならば、こちらは剛腕。純粋な物量、質より量を選んだ蛮族のような筋肉。太さが五割増しになっており、おそらくその分スピードは落ちているだろう。仮称は棍棒型。

 残った二つはただただ細く、ただただ鋭い。鞭型の太さの半分以下にまで収縮されており、触手の肉は今でもギチギチと音を立てているほど。先端がとにかく細く、ただ貫くことだけを意識したような形状。槍・・・いや、フェンシングのフルーレのような。そのレベルの細さに感じた。

 計三種類のパターンがあり、先ほどまでと比べても余計面倒くさくなったことはすでにお分かりだろう。


「レル、行けるか?」

「あぁ、僕の『夜空之宝石(カーメルタザイト)』は、師匠の()()()一撃だって無傷で防いだんだ。この程度の触手なんかに負けたりなんてしない!」

「そりゃあ・・・説得力が違うな!!来るぞ!!」


 それら八本の触手が、更に速度を増して一気に俺たち二人に襲い掛かる。

 メインは棍棒型か・・・四本のそれで絶え間なく地を叩きつけ、俺たちを追い詰める。地面はどんどん破壊され、足場の状態が目に見えて悪化していく。

 上から落ちてくるそれらをサイドステップで回避しながらも、俺たちは周囲の警戒を怠らない。何故なら、これだけではないから。


「レル!右から来てるぞ!」

「分かってるよ!はあっ!!」


 レルは真横から振られた鞭型のそれを『夜空之宝石(カーメルタザイト)』で受け止める。棍棒型以外にもあと四本。つまり半分の余力を残しているグラーケン。先ほどまでの八本同時攻撃の時点で相当やばかったのに、今ではそれが可愛く思えてくるほどの性格の悪さだ。

 

「タクの方にも来てるよ!」

「おう!ふぅん!!!」


 俺は襲ってくる鞭型の先端を掌で()()()()、地を思いっきり蹴って跳躍。踵落としを触手に食らわせる。叩きつけられた触手は数秒間反動で自由を奪われる。たかが数秒。されど数秒。この局面では、その数秒がものすごく貴重なのだ。


「・・・ってうわあぁっ!?」

「タク!?」


 そして、一本に集中してしまうと、このように余っている触手(やつ)が牙を剝く。俺は跳躍後の滞空時間のわずかな隙を狙われ、棍棒型によって地面に叩きつけられる。『身体強化』のおかげで何とか無事なものの、体全体が痺れる感覚に襲われる。この洞窟に落とされて間もない頃、一度脱出を試みて落ちてきた穴をジャンプで登ろうとしたのだが、待ち構えていたグラーケンの触手によって振出まで叩き落されるあの感覚、それ以上のダメージであったことは確かだ。

 俺は体の硬直が治り次第すぐさま起き上がり、すでに真上に落ちてきていた二撃目を、頭上で腕をクロスさせてガードする。


「ぬぬぬ・・くくっ・・・!!」


 棍棒型の勢いは留まるところを知らず、俺の足はどんどん割れた地面の中にめり込んでいく。が、突如上部で爆発音が鳴り響き、その触手を退かせる。


「なんだ!?またあの光の玉か!?」

「いや、あれは僕だよ!」

「ん・・・?ロケラァン!?」


 レルが肩に担いでいたのは、間違いなくよくあるロケットランチャーそのものだった。マジでなんでもアリっすねレリルドさん・・・


「まぁ何はともあれ・・・助かった!」

「うん!この調子でいこう!!」


 そしてその後も猛攻撃は続く。棍棒型と鞭型で押し込まれかけたその合間を縫ってフルーレ型が俺たちの身体を貫かんとしてくる。正直非常に厄介である。

 ステップで回避した瞬間、八本の内の一本を弾いた瞬間など、とにかく合間が存在しない。絶え間なく浴びせてくる。さっきなんて特に酷かった。下段を狙ってきた鞭型を躱すために大ジャンプしてしまったため、空中にいる間にレルがヘイトを買っているやつも俺へと対象をチェンジし、空中でハメ殺そうとしてくるので、何回体を捻ったことか。流石に地に足付いていない状況で一気に来られたらやばい。

 ようやく地上に足が着いたと思えば、まるでホーミング昨日でも搭載されているのでないかと思うほどに触手は当分の間俺に粘着し、レルやキキョウには一切目もくれずに俺を叩き潰そうと奮闘しやがった。もしかしたら、俺は敵の意識をこちらへ集中させる才能でも持っているのかもしれない。


「んのぉっ・・・クソイカ野郎が!!これでも食らってろ!!!」


 俺は躱し、いなしながらも『アイテムストレージ』の中を漁る。その中から取り出したのは、炎属性の魔石。購入したはいいものの、ここまでほとんど使うことがなかったので結構残っている。

 ストーン・アーツで右拳を包み込み、その拳の中に握りしめていた魔石をためらいなく砕き、たちまち拳は炎に包まれる。だが、闘気で拳を事前に包んであるおかげで炎は全身に回らず拳で留まり、その力も飛散することはない。


()()!『穿焔(ウガチホムラ)』!!!」


 本来の『穿焔(ウガチホムラ)』・・・と言っても、俺が同種合成獣(セーム・ド・キメラ)に放った即興技なのだが。それはアリヤの持っていた火薬を拳で握りしめ、そのまま拳に『火焔武装(フレイムアームズ)』を付与、俺のスキルによる渾身の右ストレートに魔力により生み出された炎と火薬を掛け合わせた瞬間火力を上乗せして放つ技。

 これはその本家には及ばないものの、それに近いものをアリヤに頼らず一人で放つことのできる。言うなれば『なんちゃって穿焔(ウガチホムラ)』。


「うおらあぁぁぁああ!!!」


ギュギャギェェェエイイイイ!!!!!


 俺が文字通りの最大出力。『身体強化』百パーセントで放ったそれは、一瞬ではあるが、グラーケンの触手()()を炎に包み、そしてそのままそれらを()()()()()()

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