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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#102 託す未来、時を越えたエールその八

 レルがスタート地点に戻ってくるというアクシデントはあったものの、俺達五人は何とか離脱者を出すことなく再び態勢を整える。

 それと同じ時くらいだろうか。たまたまか、それともグラーケンの判断なのか。とうとう奴は最後の矛を抜く。

 それすなわち、八本目の触手。

 キキョウの話では、触腕では攻撃してこない。つまり、グラーケンの物理系の最終段階。七本から一本増えただけ。それだけだというのにグラーケンから感じるプレッシャーは先ほどまでより何倍も膨れ上がる。まるでパズルのピースがぴったりと嵌まったように。欠けていた大切なパーツを再び組み込んだ機械のように、グラーケンの戦闘スタイルの極致ともいえるそれは、ある種、奴の最強の型なのだろう。


「レル、もう一度登る前に、ちょっとだけ手を貸してもらえるとありがたいんだが。」

「うん。もちろんだよ。」


 俺とレルは背を合わせてグラーケンの方へ向く。誰かが隣にいるだけで、ここまで安心感を得られるとは。なんとも頼もしい限りである。

 俺は拳を、レルは片手剣を構えグラーケンに立ちはだかる。

 いざ勝負。と言わんばかりに先制攻撃を仕掛けてきたのはグラーケン。八本の触手は先ほどまでのそれとはまるで違う速さでこちらへと向かってくる。

 奴からすればただの突きだが、俺達からすれば極太のレーザービームに等しいそれの初撃を何とか皮一枚で躱す。隣の触手は地面をどんどん抉っていき、それは留まることを知らない。もしあれを喰らっていたら、あの先端に俺達がいたわけで、その末路はもちろん生き埋めまっしぐらであろう。

 だが、初見さえ躱してしまえばあとはこっちのもの・・・


「ってうぉおっ!?」

「くっ・・!なんて複雑な・・・!」


 先ほどまでの触手攻撃は、いわゆる物量で攻めるタイプ。

 長尺、超質量の塊で正面から敵を叩き潰すことが目的であろう攻撃方法。本来であれば一度でもまともに食らえば一瞬でお陀仏のそれを軽々振り回し、押して押しまくるもの。

 そして今の攻撃も物量に関しては変わっていない。というより更に増えているが、なんというか、洗練された攻撃へと変貌したと言えばいいだろうか。

 極太の鞭が極太のレイピアになったような感覚。八本の触手が様々な方向からひたすら乱れ突きを放ってくる。しかもその速度は七本捌いていた時よりも遥かに上。ただでさえ何度が高かったというのに、五割増しくらいで捌くのが困難になっている。

 流石に俺の『身体強化』のようなものは発動していないようで、回避してから側面を殴れば今までと同じように触手を弾くことができる。だがしかし、回避するタイミングがいまいち掴みづらい。

 グラーケンは魔物のくせに相当器用だ。おそらくこのバラバラのタイミングは()()()。所々フェイントも入れてくるあたりかなり性格が悪い。

 

「レル!大丈夫か!?」

「っ・・!今のところは・・・ねっ!」


 レルも果敢に『夜空之宝石(カーメルタザイト)』で攻撃を防いでいるが、かなり厳しそうな様子である。ぶっちゃけ俺も相当キツい。

 今のところは何とか回避とパリィを続けられているが、気を抜いたらすぐに捕まりそうだ。


『アリヤ、ムラメ!あとどんくらいだ!?』

『残り四割ってとこかしら・・!ごめんなさい、もう少しかかりそう!』

『また触手妖精の数が増えてきたのですぅ!?』


 どうやら向こうも苦戦を強いられているようだ。確かにあの個体の数は反則レベルだと思う。一体一体はそこまでだろうが、やはり数の暴力というものは恐ろしい。それに加えてアリヤの話によれば、その連携も相当のもののようだ。残り四割とて、相当の時間がかかりそうなことは考えなくても分かる。


『とりあえずこのまま全員落ち着いて対処を・・・ん?』


 なんだ?今グラーケンの身体が一瞬硬直したような・・・?

 FPSとかに例えれば、一瞬のラグ。よくアマチュアゲーマーが言い訳に使う文言だが、現実にそんなものは無い。

 隣のレルの怪訝そうな顔を見るに、きっと同じ違和感を覚えているのだろう。

 正直、先ほどまでのフェイントとほとんど変わらない。だが、その一部、ほんの一部が違うような。


ギュガギュイィィィィイイ!!!!!


「・・・何だ?」


 直後、グラーケンが矛を収める。いや、触手による攻撃を中断した。

 一度収められた触手は、再びその姿を現すと、ゆっくり、ゆっくりと壁に向かって這わせ始めた。


『タク・・・これは・・?』

『分かんねぇ・・・知らない間にHP全部削った?いやありえないか・・・』


 再生能力にも限度があるとかそんな所かと一瞬考えたが、その程度で倒せるのならば、きっと若いダリフ一人であろうが討伐できるはずだ。仮にそうだとしても、おそらく触手が再生しなくなるだけで、本体自体は死なないだろうし。

 となれば、今グラーケンは何をしているのだろうか?この空間すべてを侵食するかのように全方向に八本の触手を広げていく。地を這う触手はとうとう壁に到達し、そんなことお構いなしで更に上へと伸ばしていく。言い方は悪いが、なんか直立した茹で蛸みたいだ。触手は直角だが。針金でも仕込んだか?


『まぁ、絶対なんかあるわな・・・!』

『皆さん!警戒を怠らないように!!!』

『下からどんどん伸びてくるのですぅ!!』


 アリヤもムラメも一時的に登るのを中断し、次に起こりうるグラーケンのアクションに備える。

 さぁ、一体何が来る?


『・・・まさか、とうとう来るのか!?』

『レル、何が?ってまさか・・・』


 俺は数日前、レルが言っていたことの一部を脳内再生する。


 あいつはおそらく光属性の魔物だって。だからそれ系の魔法を放ってきてもおかしくない。


 そう。おそらくそれだ。ここはあくまでも魔法で溢れている異世界なのだ。ここまで魔法を使ってくる魔物はいなかった。雷岩魔の洞窟にいたあの岩の魔物・・・もしかしてあれが雷岩魔って名前!?

 ・・・とにかく、似たようなものを使ってくる奴はいた。だがアレはあくまで魔石によるものであり、あれ自体が魔法を放っていたわけではない。故に、魔物が放つ魔法がどれ程の物かを俺は知らない。

 少し経つと、グラーケンの身体が更に発光を始める。洞窟にここまで影響しているのだ。そのままでも十分に明るいグラーケンだが、その身体は更に眩しくなる。

 じんわりと点滅を始める身体からは、アリヤが炎属性魔法を行使する際のような雰囲気を感じる。つまり、もう発動は始まっている。


「頼むから回避不可能のやつとか即死攻撃とか自爆とかは勘弁してくれよ・・・?」

「この状況で自爆は無いと思うけど・・・でもおそらく、とんでもないものが来る・・・!」


 光の点滅はどんどんテンポが上がっていき、点滅しているのかどうか分からない程のテンポとなった瞬間。




 それは放たれた。

そうです。あれが雷岩魔かみなりがんまです。(今更)


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