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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第三章 ビギニング・ジャーニー
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#99 託す未来、時を越えたエールその五

『っふう・・・!結構減らせたかな・・・?』

『十分すぎます!ムラメにも少し余裕ができました!』


 約五分間、およそ三千五百の弾丸を絶え間なく放ったレリルドは、一度射撃を中断して呼吸を整える。

 レリルドがベレッタを使う以前を百パーセントとするならば、現在は約三十パーセントの数の触手妖精が残っている。今だ増え続けているそれらだが、ひとまずはこの場は乗り切った。

 だがそれでも個体数は三桁を下回ることはなく、数が多すぎるという点では一切の変化はないのかもしれない。

 数が減ろうともその猛攻は止まらず、足場踏破は極めて難航していた。


「捌くのにはだいぶ慣れてきたけどっ・・!やっぱりこの足場じゃ動きづらいわねぇッ!!」

「でも、いつもより体が思うように動く分、頑張らないとねっ・・・!」


 迫ってくる触手を切り刻み、文句を垂れながらも三人はひたすら上へと進む。

 内臓に届きうる足場までは残り四割。すでに半分を切っており、スタート地点からは随分と離れてしまった。

 進行具合としては悪くない。レルの射撃があったおかげで、大きく劣勢に傾いていたこの状況も少しずつ変わりつつある。

 触手妖精の攻撃への対応には三人ともすでに慣れ始めている。最初はかなり苦戦していた様子のムラメも、二本の短剣で確実に迫ってくる触手を捌いている。

 ここまで順調なのは、きっとキキョウの強化魔法のおかげだろうと三人は感じている。

 最上位精霊の加護を受けているムラメの影に隠れてはいるものの、キキョウのそれも上位、洞窟居住民(アンダーグラウンダー)の中でもかなり上に位置するレベルの加護をキキョウも授かっている。

 その効果は四分の一でも凄まじいものであり、それはいつもの動きよりも更に数段階上のパフォーマンスを実現している。

 いつもよりも体は軽く、手に感じる武器の重みも半分以下のように感じる。肉体の強度も上昇し、移動速度、跳躍力、動体視力、聴力等も向上している。まさに、タクの『身体強化』の下位互換のようなものだ。


「でも・・・やっぱりおかしいのです・・レルさんがあれだけ倒したというのに、一向にグラーケンの内側から出てくる量が減らないのです・・・!」


 ここまで触手妖精と仮称していた魔物は、増殖しているといった方がおかしくないくらいに収まることなく増え続け、先ほどまで三十と言っていた個体数は、この時点でもうすでに四十パーセントほどまでに回復している。

 まるで溜まった水を放出し続けるダムのように、その流れは一向に途絶える気配はない。

 グラーケンの内側では、ここまでの魔物を格納して置けるのか、いや、流石の化け物である奴でも、あまりにも不自然すぎる。そういった考えが浮かんだのは、レリルドだった。


『もしかして・・・グラーケンが生み出している・・とか・・・?』

『それなら納得もいくけど・・・光属性のグラーケンが闇属性の魔物を・・・?』

『相反する属性の魔物を生み出し従える・・・そんなことができるのでしょうか・・・?』


 ムラメも知らない地下洞窟の魔物、腕に生やした触手、共通点も存在し、その可能性はあるが、その真偽は定かではない。

 魔物の中には、仮設のように体内から僕を生み出すもの、分身を出すもの、一瞬で子供をこさえ、その子供に戦闘を強制させる個体も存在すると、レルもアリヤも見たことは無いものの、ダリフの話で知識としては頭に入っている。

 だが勿論それらは、本体と属性が変わることなどまずありえない。

 本体が炎属性ならば炎。雷属性なら雷。その法則に突然変異などなく、今まで例外も確認されたことは無い。

 だがグラーケン(こいつ)は違うというのだろうか?この巨体、おそらく保有している魔力の量は計り知れないほどの量だろう。魔物は生命維持に必要となる要素の一つに魔力がある。最低でも、その肉体を保つほどの魔力は有していることは間違いない。

 この触手妖精がもしもグラーケンと一切繋がりのない魔物だとすれば、必要となる膨大な魔力は、一体どうやって賄っているのか。少なくともここら一帯の魔力は、グラーケンによって全て奪われてしまうだろうに。

 であらば、間違いなくこの二種類の魔物には何かしらの繋がりが存在するのは間違いないだろう。その裏にどのようなからくりが隠されているのかはまだ分からないが。


『つまり、こいつらを何とかするためには・・・』

『・・・グラーケンを倒すしかないということになるね・・・!』

『もう無茶苦茶ですぅ!!』


 ムラメの言う通り、本当に無茶苦茶だ。グラーケン単体でも相当なのに、この無限に湧き出てくる触手妖精。加えて更に魔法の警戒。ここまで登ってきているのだ。そろそろ何かグラーケンが仕掛けてきても何らおかしくない。

 

『・・・じゃあ、一気に上がろうか!』


 レリルドはベレッタから再び片手剣へと装備を変更し、更に勢いよく駆け上がる。

 しかし、彼の一瞬が、その意識を切り替える一瞬が、そのコンマ数秒間の隙を生んだ。

 勢いよく足場を蹴り、次の足場へと飛び移ろうとした瞬間、突如として石柱を踏みしめんとした足は空を蹴り、その流れで自由落下が始まる。


「んなっ!?」

「レルさぁぁぁぁあん!!!」


 そこにあるはずの足場はレリルドの視界には存在せず、彼の体は意思に反し地の底へと落ちていく。

 彼が足場に乗っかる直前。レリルドを三人の中で最も危険な存在だと判断していた触手妖精、サーヴァンツ・フィーラーの群れは、その一部で彼の動きを完全にマークしていた。

 この空間に乱雑に散らばっていた群れの一体は、彼が伝ってくるであろう足場を予測、その下で待機しながら、他のサーヴァンツから定期的に情報を受け取っていた。

 そしてレリルドがその足場を踏むほんの直前、その完璧なタイミングで自身の触手によってそれを破壊。今に至るわけである。


「うわぁぁあああぁぁああああ!?」


 かつて体験したことがないような落下速度。レリルドは突然降りかかって来た現実を受け止めることができず、パニック状態に陥った。

 彼の身体は今何もない空中にあり、近くの足場にも運悪く届かない位置に存在した。

 成すすべがない、いや、思いつかないレリルドは、そのまま登って来た壁の足場を横目に急降下していく。




『タク!!!レルが足場から落下した!!お願い!!助けてあげて!!!』

「何だってぇ!?」


 正直、こっちも触手七本の相手がキツくなってきたところだが、このままではレルが俺と同じ末路・・・つまり、全身骨折内臓ぐちゃぐちゃ。地面に叩きつけられた瞬間、あっという間に見るも無残な姿に大変身・・・って、それは流石に笑えない!!


『落ちてくる場所は!?』

『この空間に突入した場所の間反対!!』

『こっからも間反対じゃねぇか!!!』

『タクさん!!どうかお願いします!!!』

『言われなくてもッ!!!』


 あれだけいのちだいじにって言ったのに、どうせ内臓に向かって更に勢いつけて駆け上がろうとしたんだろ多分!

 とはいえこの触手を搔い潜って、間反対まで向かうのは中々難しいが・・・やらなきゃレルが死んでしまう。ミスは許されない・・・!!!

今更ですが、キキョウの『強化火エンハンス・力設定レギュレーション』は、簡単に言えばゲームでいうところの全ステータスアップです。

キキョウは自身が強化できる範囲の中で、誰にどの程度の強化を施すのかを自分で調節し、それに応じたステータスアップを対象者に施します。

ちなみに、そこら辺の冒険者のバフとは、二十五パーセントであっても格が違います。上位精霊・・・・なのでね!

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