#9 獣人殲滅戦線その三
(やっと)敵キャラ登場です。
―――獣人発生一時間前
呪属性魔法士団『カースウォーリアーズ』アリンテルド派遣部隊部隊長カロナールは、アリンテルドの中心地から少し離れたプストルムの街周辺の森林地帯へと単独で足を運んだ。
「ケヒヒッ!先ずはプストルム・・・ダリフ・ドマスレットの首ッ!」
カロナールは自ら漏れる笑みを抑えずにはいられなかった。奴さえ始末すれば、この国の上層部など後でどうとでも支配できる。この国を我らの手中に収め、民を贄としてあのお方へ捧げる供物を用意するのだ。それこそが彼の使命であり。生きる喜びであり、最大の快楽なのだ。
そして彼は、早速プストルムを制圧するための準備を開始した。
「今こそ出でよ我が僕!醜き欲望の礎となるがよい!傀儡召喚!!!」
カロナールが召喚したのは黒毛の獣人。中位級の狼獣人の死体が五体。
「ケヒヒヒヒィィィッ!!!!!さああぁって!ここからがオ・タ・ノ・シ・ミですよおぉおぉっ!」
実際、カロナール自身の強さはそれほどではない。腕力は皆無、武器もろくに扱えない見た目相応の小物だ。しかし、内に秘めたる尋常ではない程の魔力量。そして自らの悪趣味の産物である呪人形操術という死体を操作、合成、改造する技術。人の道を踏み外し、行使することが許されるはずのない禁止魔法。
それらの研究、実験を常人では狂うほどの回数繰り返し、その結果、アリンテルドの支配を師団から任されるほどに実力をつけていったのだと本人は自覚している。
「はァァァァッ!死人形魔改造!!!」
直後、死体が浮きあがり、それらにカロナールの魔力が注がれる。獣人の亡骸を怪しげな紫色の光が包み、すべてが空中の一か所に集められた。集められた死体は引力に引っ張られるかのように一塊となった。やがて獣人の肉体の方が耐え切れなくなり、空中で血が弾け、その場に留まった。
そこからカロナール自らが魔力を操作し、思い描いた形へと仕上げていく。
そして完成したのは、元の狼獣人の三倍の体躯。中位級の毛色が鮮やかに思えるほどのどす黒い純黒。牙や爪、体毛に至っても硬度は合成前の比ではない。これがカロナールの生み出した作品。狼獣人の同種合成獣である。
「ホッホオオオォウ!最高の芸術うぅぅううう!!!まだまだ作品にみがきをかけてゆきますよおぉおおぉおお!!!!!」
「グ・・・グググ・・・・グオオオオオオォォォォ・・・オオオオオオアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
カロナールが合成獣に魔法をかけると、獣人は断末魔のような悲鳴を上げ、もがき苦しんでいる。
暴れても意味はない。獣人の体は以前宙に浮いたままなのだから。
カロナールが獣人にかけた魔法の名は『死体内増殖複製』。死体の死滅した細胞を再び活性化させ、その細胞一つ一つを急成長させ、死人形魔改造と並行して発動することで、一つの細胞から化け物へと変える。よみがえった細胞たちは数種類の獣人となり、合成獣の腹を突き破った。
細胞の数は成人一人当たり三十七兆個と言われているが、カロナールの生み出した同種合成獣の細胞の数はその四百倍を優に超える。つまりはほぼ永久的に獣人を野に放つことができるということだ。一秒間に合成獣の腹の中を突き破って出てくる獣人はおよそ十四体。一分当たり八百四十体の犬獣人を出現させることができる計算だ。
ちなみに稀に胡狼獣人や狼獣人が誕生する。その気になれば出現させる獣人を全て狼獣人にすることもできるのだが、魔力消費が激しすぎるのと、出力コントロールが効かなくなる恐れがあるので低確率で生まれてくるくらいがちょうどいいとカロナールは考えている。
時と場合によっては、犬獣人一億体を使役するよりも、一匹の狼獣人を制御する方が難しいこともある。それが灰色の最上位級であるのならば尚更だ。
一億という馬鹿げた数でも、犬獣人に至っては、使役するのはさほど難しいわけではない。狼獣人、胡狼獣人等と比較すると下位互換でしかない犬獣人は、魔力による操作も容易い。ニンドでは猛獣使いの使役魔法の練習台にされているくらいである。
つまりこの場合、必要なのは使役する為の魔力のみ。普通であれば何千、何万もの獣人を一度に従えるなど無理な話だが、カロナールはその分野では天才だった。
魔力供給の効率を従来の魔法構築式よりも格段に引き上げ、一体分の魔力で、犬獣人であれば約千匹使役可能。膨大な魔力量と研究による効率化により、もはや操作系魔法で彼の右に出るものはニンドには存在しなかった。
その二つの観点からもしも数値を出したのならば、普通の人間とは次元の違う結果が現れるだろう。例えるならば、一般人が昔の百二十ギガバイトのハードディスクドライブ、カロナールは二テラバイトのエムドットツーソリッドステートドライブといったところだ。
「我が僕共よ!この先に在りしプストルムを目指せ!その目に映る生物を全て八つ裂きにしろぉお!建物は跡形もなくせえぇぇぇえ!我が欲するものは魂!我が崇拝し主に献上するべき供物を用意するのだぁあああ!!!」
「グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」
カロナールが声高々に叫ぶと、獣人たちはそれに呼応したように進軍を進める。目指すはプストルム。目的はそれの滅亡。こちらの戦力は無限に等しい。どんなに優れた冒険者が集まったところで、このレベルの数の暴力・・・いや、数の殺戮とも呼べる我らの勝利は絶対に揺るぎはしない。
よっぽど、相当の不確定要素でも居なければ。
「魂を献上したのちにはそれらの器・・・死体は必要ない・・!この作戦を成功させた暁には、あのお方への忠誠心を示すことができ、更には研究材料も大量に手に入る・・・もしもアリンテルド最強と名高いダリフ・ドマスレットの死体を手に入れることができたのならば・・・・・・・」
既に勝利を想像しているカロナールは、棒立ちになっているだけで涎をだらだらと流し、興奮のあまりにやけが留まるところを知らない。今の彼には、理性も欲望も制御することができなかった。できるはずがなかったのだ。
「ヒョホホホホホホホホおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
気味の悪いその声は、暫く止むことはなかったと言う・・・・・
敵をどうしようか考えていて、ふと
「滅茶苦茶気色悪いキャラにしよっと!」
ってなりましたが、構想したのが本編文章よりも倍位気持ち悪かったので多少抑えました。
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