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NOISE  作者: SELUM
Book 1 – 第1巻
63/69

Op.1-48 – Bento Time (2nd movement)

3人での昼食。いつも以上に楽しい昼休み時間を過ごす。

「美味しい!」


 口の中に入れた食べ物をしっかりと噛んで飲み込んだ後に光が嬉しそうに呟く。沙耶はしっかり食べ終わった後に言葉を発する光に「お行儀良いな」と感心する。


 食べ物を口に入れながら話すなというのは小さい頃からよく言われることであるが、それが守れない人は大人であっても多く見受けられる。


 沙耶と兄・裕一郎は小さい頃から両親に口酸っぱく言いつけられており、気を付ける習慣できている。それでも時折、裕一郎はついつい食べながら話してしまい、「汚い」と妹の沙耶や母から注意されている。


 光も明里もその辺りの常識的なマナーは小さい頃から厳しく躾られており、沙耶も含めた彼女らの育ちの良さ、両親の子供たちに対する教育方針が一貫していることが(うかが)える。


「おー! 森野ー!」


 窓際で食事をしている光たちとは正反対、廊下側で食事を摂っている、中野、西野、外薗(ほかぞの)加藤(かとう)井尻(いじり)の5人が廊下を通りかかった別クラスの生徒に話しかけている。

 

 口に食べ物が入ったまま頰をハムスターのように膨らませながら声をかける騒がしい男子グループに対して沙耶と明里は明らかに不快感を示した表情で溜め息をつく一方で、光は鶏そぼろ丼に夢中で2人は対照的にニコニコしながら食べている。


「(気にしていない、と言うよりかは眼中にないって感じやね)」


 恐らく今の男子たちの行いが目の前でされれば光も不愉快な表情を浮かべるだろうが、大して興味のない男子たちよりも今は鶏そぼろご飯にしか注意を向けておらず、何かと目立ちたがり屋な彼らは全くもって光の眼中にないといった様子に沙耶は少しだけ笑ってしまう。


「(それにしても光ちゃんってこんなに表情豊かやったっけ?)」


 沙耶は今日、しかも午前中だけでこれまで知らなかった光の表情を一気に沢山見られたことに驚くと同時に勇気を出してもっと前から仲良くすれば良かったという後悔の気持ちが押し寄せる。


 これまで沙耶が見てきた光は明里や廊下ですれ違う仲の良い女子生徒との会話でこそ笑顔を見せていたものの、明里と席が離れている殆どの時間では物静かにしており、また、その容姿も相まって話しかけ辛い雰囲気を漂わせていた。


 いわゆる『可愛い系』と『美人系』の違いであるが、前者は比較的話しかけ易さを感じさせるが、後者は高嶺の花感が出て話しかけ辛いといった印象を持たせてしまうことがある。

 

 光は正に後者のタイプで相手が同じ高校生であっても少し緊張感を持たせてしまうのだ。また、光自身も慣れるまでは人見知りを発揮する性格であるためにぎこちない雰囲気がお互いに流れてしまう。

 そのため、明里はその緩衝材の役割を果たすのだが、沙耶はこれまで打ち解けることができずに光の本質まで触れることができないでいた。


「広瀬、あのさ……」


 さっきまで廊下側で騒いでいた西野がいつの間にか明里の側まで来て突然話しかける。明里も沙耶も少し驚いて肩が一瞬浮き上がるものの、光は我関せずといった感じでマイペースに弁当を食べ続け、校庭の方を眺めてサッカーゴールのゴールポストに留まる小鳥たちを見つめている。


「何?」


 明里は西野の方を振り向いて尋ねる。彼の表情は、先ほどまで馬鹿笑いしていた様子が嘘のように神妙な面持ちである。


「あ、えっと……、何もないわ」


 西野はそのまま何も告げずに元の場所へと戻っていく。


「どうしたとやっか?」


 明里は光と沙耶に不思議そうに尋ね、2人とも少し困惑した表情で「さぁ?」とリアクションする。


 明里はその時、西野が漂わせていた空気感に引っかかりを感じいたものの、そのまま談笑を再開し、時間が経つとその違和感は消えていってしまった。


「掃除行ってくる」


 楽しい昼休み時間は終わりを迎え、掃除時間が近付いたために光は教室に、明里は昇降口、沙耶は中庭とそれぞれの掃除の持ち場へと向かっていった。

お読み頂きありがとうございます!

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