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NOISE  作者: SELUM
Book 1 – 第1巻
59/69

Op.1-45 – Party

徐々に打ち解けて行く光と沙耶。

 鶴見高校は主に2つの校舎、第1棟と第2棟からなる。正門を通って正面に建設されている校舎は第1棟と呼ばれ、正面の玄関は来賓者、職員用のものとなっている。

 来賓者は靴を履き替えて来賓用スリッパに履き替え、受付でその目的を記入後、ネックストラップを身に付けて目的の場所、例えば職員室や校長室といった部屋へと案内される。


 第1棟の2階では大きめの部屋である職員室へと繋がり、3階には図書室が設置されている。


 職員室は主要5科目のうち、国語 (現代文、古文、漢文)、数学、英語の教員たちが合同でこの職員室を利用する。社会科 (日本史、世界史、公民)、理科 (化学、物理、生物) は第2棟にあり、副教科に関しては体育科の教師は体育館に音楽教員の部屋は第1棟奥側にある別の建物、技術・家庭、美術教員は第2棟に設置されている。


 第2棟は主に学生たちが中心に生活する教室が広がる。1階には昇降口、保健室、購買部などがあり、2階に1年生、3階に2年生、4階に3年生の教室が8クラスずつ設けられている。 


 第2棟・2階から第1棟・2階の職員室前までは渡り廊下によって接続される。渡り廊下を歩いて中央付近に差し掛かると、自販機コーナーが設置され、その周りにはベンチとテーブルが用意されて、昼休みなどには生徒たちがそこで座って談笑するなどしてゆっくりと過ごしている。


 そしてその渡り廊下中央付近から地上へと大きな階段が設置されており、その階段は通称『プリンセス階段』と言われる。


 光、明里、沙耶の3人は2階に降りてそのまま渡り廊下へと進む。自販機コーナーでは数人の男子生徒たちが自販機の前で並び、自分たちの飲み物を選んでいる。

 自販機のレパートリーは市販でよく売っているスポーツドリンクやドリンクウォーター、現在のような寒い時期にはココアといった温かい飲み物が用意され、また、紙パックに入った昔ながらの飲むヨーグルトといった最近ではなかなかお目にかかれないような飲み物まで用意されている。


「並んだら間に合わんくなるよ」


 渡り廊下を歩きながら自販機の温かいコーナーと書かれている飲み物を見つめ、特にココアを眺めていた光に気付いた明里が注意する。


「分かっとーもん!」


 明里の言葉が図星だったのか光は少し語気を強めて否定する。


「本当に〜?」


 沙耶もすかさず参加し、光をいじり始める。明里はニヤニヤしながら光と沙耶の様子を見ている。


「もう! 沙耶ちゃん私のことめちゃめちゃにいじってくるやん」


 光は少しだけ頰を膨らませて前を向く。沙耶は「やりすぎたかな?」と尋ねるかのように明里の方に目をやる。

 明里は首を横に振った後に少しだけ早歩きになって光の横まで向かい、光の頰を指でツンと突き、光も笑っている。明里は沙耶に軽くウィンクし、それを見た沙耶もすぐ側まで早歩きで向かう。


「光ちゃん、今うちのこと『沙耶ちゃん』って呼んどったね」


 光は沙耶の言葉を聞いて横目に見た後に突然、自分よりも背の低い沙耶の顔に身を乗り出しながら近付いて尋ねる。


「ダメだった?」

「かわっ……」


 沙耶は思わず口について出そうになった言葉を飲み込み、「んーん、そんなことないよ」と言って歯を見せながら笑う。光は満足そうな表情を浮かべたままに再び前を向いて職員室へと向かう。


「(また1人、光に惹かれていった子が……。苦労するぞ〜)」


 明里はこれまで光の奇想天外な行動によって苦労してきたことを思い返しながら考える。

 

 明里は沙耶が光の即興演奏を目撃していたことを知らない。沙耶のモチーフが光によって即興された翌年の発表会を最後とし、翌々年からは音大への受験対策に本腰を入れるために発表会への出演を止めることとなった。

 小学校時点では沙耶は光と明里とは同じ学校ではなかったため、交流センターで互いに顔を合わせることはなかったのだ。


 しかし、明里は前々から沙耶から「光ともっと仲良くなりたい」という旨を聞いており、彼女が光に惹かれていることを知っていた。最初は光の容姿からくる興味でいわゆるスクールカースト上位、1軍などと呼ばれる生徒たちの体裁だと思っていたのだが、沙耶の様子を見るうちに少し違うものなのだと気付いた。


 そのため明里は割りかし沙耶の思いに協力的で、2人の間に入ってよく話を振っていたのだが、沙耶の光に対する過剰なまでの緊張とそれに全く気付かないマイペースな光という構図ができあがってしまい、2人だけで会話をするまで約1年もかかってしまった。


 それでも沙耶の頰をほころばせて上機嫌に目を細めている様子と満更でもなさそうな光、何より「沙耶ちゃん」と呼び始めたことで2人の心の距離が徐々に縮まり、うち解けてきたことを明里は実感し、自分まで嬉しくなっていることを感じている。


 何気ない会話を交わしながら渡り廊下を越え、職員室の前へと辿り着いた。


「25Rの結城です。英語の教科連絡員として来ましたー。失礼しまーす」


 光は扉の前でそう言うと引き戸を引いてそのまま入室する。光が用事のある英語の教師たちは職員室の最奥に位置し、入室してすぐにある数学科教師たちの席が広がり、その隣に位置する国語科教師たちの席とは壁で仕切られている。


 そのため、光の声は英語科の教師たちまで届いていない。しかし、これは生徒たちが職員室に入る時の恒例となっており、代わりに数学教師や国語教師が入室の許可を出す。


「丈一郎おじいちゃんとか確実に聞こえとらんよね? お爺ちゃんだし」


 光はよく明里にそう言っており、明里も25Rの英語担当教師・小池の年齢を考えると否定することはできずに苦笑いしてごまかしている。


「あ、宇都先生だ」


 光が担任の宇都に手を振り、宇都は机に座って参考書か何かを手に取りながら光たちに微笑む。


 3人はそのまま英語科の元へと向かい、不在である小池の机の上に置いてあったワークを持って行く。


「授業長引いとるやっか?」

「多分ね」


 授業が終了して既に5分、休み時間の半分が経過しているが、小池がまだ戻ってきていないためにそう予測した。

 小池は2限目は1年生の授業を担当しており、3年生であれば授業後に質問に答えているのであろうが、1年生が質問攻めにすることは考え辛い。恐らくは長い説教やら思い出話でもしているのだろう。


「中野くんのせいでお説教モードなっちゃったんやない?」


 沙耶は光と明里に自分の考えを述べ、2人も頷いて面倒くさそうに溜め息をつき、ワークを運び出す。


「失礼しました」


 3人はそう言って職員室を後にした。



お読み頂きありがとうございます!

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今後ともよろしくお願いいたします:)

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