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NOISE  作者: SELUM
Book 1 – 第1巻
55/69

Op.1-41 – Improve (2nd movement)

圧倒的な光の即興、そしてそれに憧れを抱いた沙耶は……?

 光はインプロヴィゼーションへと突入した。


 そもそもこれは即興によるパフォーマンス。演奏が開始された時点でインプロヴィゼーションである。しかし、そう判断せざるを得ないほどに完成度の高い自由即興演奏を披露していた。


 いつもならば技巧的に演奏する光ではあるが、この時の即興演奏はそれだけではなく、ハーモニーが考えられていた。光は小学生ということもあって複雑な音の構成について学んでいない。

 また、この時はバッハ嫌いということもあって3声や4声といった内声を利用したメロディーの構築を全く知らず、聴くこともほぼしていなかった。


 それでもこの時の光の即興演奏においては明らかにそうした技術も駆使されていた。ただ速弾きを見せる演奏ではなく、観衆に美しい音色を響かせ、緻密に重ねられた和音を聴かせた。


 |シ♭ シ♭ ソ –|シ♭ シ♭ ファ– |


 沙耶の提示したモチーフが浮かび上がる。その一瞬に光の表情が緩んだ。


 先に見せた沙耶の兄・裕一郎や代表に選ばれていた2人の女子高生が披露した即興ではそのモチーフが独立して浮かび上がってしまっていた。それは少し不自然で折本の言いつけを意識するあまり、曲としての完成度が下がっていた。


 しかし、光の場合、それを自然と即興に溶け込ませていた。光はわざとらしく沙耶のモチーフを繰り返すことをせずに元々そうした楽曲であるかのように即興していく。


 明里は光の演奏する様子を笑顔で眺めていた。発表会までの間、明里は光に言われて指導者のように振る舞い、いわゆる"ごっこ遊び"として参加して遊んでいた。


 ところが、この演奏前に自分が光に告げた、「私の即興弾いてよ」という言葉から「今日はお客さんだ」という思いが強くなり、1人の客として、光のことが大好きな1ファンとして、最大の理解者である幼馴染みとして、光の即興に真っ直ぐに向き合った。


 誰かのために演奏する。この強い思いは光にモチベーションと創造性を与え、即興に鮮やかな色彩を施した。


「すごっ……」


 沙耶は小さな声で思わず呟いてしまった。また、それは母である智花や父・達也も同じ思いを抱いていた。


 自分が何の気もなく適当に書いた音の羅列が自分と同い年の女の子、しかもさっきまで泣き喚いていた者が信じられないような演奏を、しかも即興で編み出してしまっている。


 沙耶はこの即興は自分のために弾いてくれているのではないかと感じるまでになっていた。勿論、知り合いでもないため有り得ない。そんなことは理解している。しかし、自分が出したモチーフが光の小さな手によって美しく変化していくその様子に錯覚してしまったのだ。


#####


「今村さん?」


 沙耶は光の言葉に我に返る。目の前には数年前、自分が書いたモチーフを1つの作品として完成させた女の子が不思議そうに自分を見つめていた。


「あ、ごめんね。ぼーっとしとった」

「分かるよ。寒い日の朝って何だかぼんやりしちゃうんよね」


 全く違う内容で勝手に理解されてしまった沙耶だが「うん、そうだよね」と適当に同意してごまかす。

 光は「ホッカイロあげる」と言ってリュックの中からホッカイロを取り出し、沙耶に手渡す。沙耶は「ありがとう」と礼を言ってそれを受け取る。


 光は満足そうに笑った後に前を向いて朝読書のための本の、栞を挟んであるページをめくり始める。


 そんな彼女の背中を見つめながら、袋に入ったままのホッカイロを沙耶は握りしめる。勿論、熱を帯びているはずはないが、光の手の温かみがまだ残っており、数年前に信じられない演奏を披露したその手の温もりを沙耶は大事そうに感じとる。


 あの即興演奏の後、沙耶は光に話しかけることができなかった。演奏前に「上手なはずがない」と決めつけていた自分を恥じる気持ちと彼女に対して抱いた憧れが緊張を生み、声をかけることができなかったのだ。


 あれ以来、沙耶は再び音楽に興味を抱いた。そしてもっと近くで、音楽を通して光と触れ合いたいと感じるようになった。しかし、ピアノでは、同じ楽器ではそれは不可能。


 沙耶は光の演奏する音楽が一般的に"ジャズ"と呼ばれるのだと知り、また、サックスはその代表的な楽器だと知った。


 それから沙耶は「光といつか一緒に演奏したい」という思いを抱き、中学から吹奏楽部に入部し、サックスを演奏するようになり、今では

お読み頂きありがとうございます!

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今後ともよろしくお願いいたします:)

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