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NOISE  作者: SELUM
Book 1 – 第1巻
54/69

Op.1-41 – Improve (1st movement)

折本が驚愕する光の即興演奏!

 光が自由即興演奏を開始してから2分ほどが経過し、その中で1つの物語を紡ぎ出していく。沙耶の出したモチーフへと繋がるイントロの創出、その後、そのモチーフを拡張してテーマを創り出し、Aセクション、Bセクションと明確な意図を持って組み立てられるその構成。


 それら全てがまだ幼い、この11歳の少女が生み出していることに会場は未だに信じられないという感情で溢れかえっていた。


 光が演奏する即興はまるで前々から準備されていたかのように緻密に構成されていた。


「(これまでのレッスンで何度か即興をさせてみたけど……。ここまでの完成度の演奏は無かった。あの子の中で一体何が? 直前までのことを考えればここまでの演奏、それどころか演奏すらも拒否するほどだったのに……)」


 折本はこの会場の中で光の即興演奏に最も驚愕している人物の1人であった。特に彼女は直前にあった光の騒動、そしてその時の精神的な不安定さを実際に目撃していた。

 

 発表会などで光の演奏を見た他の講師たちは折本によく称賛の言葉を並べる。その中には光の物怖じしない、堂々としたその演奏姿から『緊張せず、メンタル的に強い女の子』と言われることが多々ある。


 実際、緊張せずに立派に難曲たちをこなしてしまう姿は小学生ながら既にある種の貫禄すら感じさせる。それもあってこの時に光をプログラム後半に回し、即興演奏も任せたのだ。


 しかし一方で折本は、光は非常に繊細な心の持ち主であることを理解してる。これまで何度か光の発表会姿を目撃してるが、彼女の潜在能力(ポテンシャル)を考えればまだまだできるという評価を折本は下している。


 光は微妙な環境の変化やちょっとした出来事で精神的に不安定になることが多く、それが演奏に大きく影響する。その振れ幅は大きく、この時のように演奏することすらも拒否して帰ってしまうことがある。(流石に発表会という場においてこの時ほど大きな騒動になったことは無かったものの、レッスンではこれに似た状況に陥ったことを折本は何度か経験していた)


 正直、折本はこの発表会前まで光がこれまでに無いほどの素晴らしい演奏を披露してくれると期待していた。それほどまでに発表会までの1ヶ月間のレッスンは凄まじく、演奏の度に彼女の天井を更新していった。


 そしてそのためのモチベーションであった父の離脱があった時点で折本は内心諦めてしまっていた。


––––今日はもう演奏することはないだろう


 そう思い、残念ではあるものの今後何度もある演奏の機会にとっておこう、そう思っていた矢先だった。


 突如、戻ってきた光は無言で即興を始め、その演奏は折本の想定を遥かに凌駕していた。既にベテランとなったピアノ講師生活においてここまで心が震える即興演奏を、しかもたった11歳の女の子が披露してしまった。 


 折本は考えるのを止めて光が紡ぐ音の物語に浸ることを決めた。



お読み頂きありがとうございます!

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