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NOISE  作者: SELUM
Book 1 – 第1巻
50/69

Op.1-39 – Empathy (1st movement)

光の講師・折本からの視点。

「あの、先生! 光ちゃんがどこにもいないんです!」


 私の生徒の1人である、中学生の男の子が少し突っかかりながらも、最後まで弾き通したショパンに拍手を送っている間、スタッフの女性から耳打ちさた。


 講師である私、プログラムを読み上げる係をお願いしている女性スタッフ、アシスタントの女性の3人はステージから見て右側に椅子と机を並べてそこに着席し、生徒たちの演奏を見守っていた。


 そんな中、ロビーで受付作業をしてくれていた2人の女性が私たちの後方にある扉を静かに開けて、1人の生徒が行方をくらませたという信じ難い知らせを届けてきた。


 その生徒の名前は結城光。


 当時まだ小学校5年生と幼いながらもこれまで私が教えてきた生徒の中でもピカイチの才能があり、この年から毎回プログラムを終盤に持ってきて、更に自由即興演奏の代表として選抜し続けた。


 そんな彼女が突然姿を消したという。次の生徒の演奏が始まるところであったが、流石に心配になった私は1度静かに会場を出てロビーへと向かい、詳しい話を聞きに行った。


「先生!」


 ロビーに出て少し進んだところに開けた空間があり、そこにはソファーやベンチが設置され、そこに座ってくつろぐ一般人に混じって演奏を終えた私の生徒数名が休憩していた。


 そんな中で馴染みのある若い女性の声が聞こえ、そちらの方を向くと光ちゃんのお母さんである舞さんが落ち着かない様子でこちらに駆け寄ってきた。


「光ちゃんがいなくなったって本当?」


 私はすかさず先ほど聞いた知らせの確認を取った。お母さんのその様子から事実であることは明白でやはり「そうなんです」と少し声を震わせながら私の問いに答えた。


 この少し前、小ホールの後ろの方にある扉から出ていく光ちゃんの姿を私は目撃していた。舞さんによると、トイレに行ってくると言って会場を出てそのまま帰ってこないのを不審に思ってトイレへと行くとそこには光の姿は無かったという。


 受付の女性に聞いたところ、トイレに行ったのは確かに目撃したものの、その後は知らないという話だった。また、警備員に聞いても光ちゃんくらいの身長の女の子は日頃からこの交流センターにはたくさん訪れているため、これといった情報は得られなかった。


 「不審人物に連れ去られていたらどうしよう」と気が気でない彼女を慰めながらも最悪の状況が私の頭を()ぎった。


 そんな時に光ちゃんの幼馴染みでよく光ちゃんの演奏を見に来ていた可愛らしい女の子・明里ちゃんが、光ちゃんはお父さんが戻ってきていないことが悲しくて何処かへ行ったのではないか、といった推測を私たちに話してくれた。


 どうやら休憩時間の合間に光ちゃんのお父さんは急用ができて交流センターから病院へと向かってしまったらしい。


「あー、光ちゃんすごく張り切ってたものね」


 私はこの発表会まで「お父さんに素敵な演奏を聴かせるんだ」と張り切り、気分屋でレッスン日によって波のある演奏をするその少女がここ1ヶ月は只ならぬ集中力とその才能が調和し、とても小学5年生のものとは思えない演奏をレッスンの段階から披露しており、私はその底知れなさに恐怖すら覚えたものだった。


 私はスタッフに呼ばれ、小ホールに戻らなければならず、光ちゃんが無事に見つかるようにと祈りつつ中へと戻った。



お読み頂きありがとうございます!

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今後ともよろしくお願いいたします:)

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