洞くつの上
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時の流れを確認するために、キッチンに時計とカレンダーをつけた。
カレンダーの余白には その日にあった出来事を書き込むようにした。
特記事項がなくても 毎日夕食後には、必ず日付の所に斜線を入れて消していった。
そうでもしないと ほんとに月日の経つのも時間の経過も分からなくなるのだ。
日中と言っても陽はささぬ地中だが、時を現す慣用句として地上での言葉をノーム達も使っていた。
「だって ほかに 言いようがないのだもの」とは 大ちゃんの弁
さて 日中はグループ別に活動する日が多かったが、
朝食(7:00)と夕食(17:00)は必ず全員そろってとることになっていた。
そして 夕食後の時間はできるだけ同じ部屋を使うことにして
就寝時間は大人は夜9時、ゴンとゴンの添い寝係は夜7時だった。
19:00になると 光の洞窟の明かりを半分におとし、
7:00には 光を明るくした。
・・
コンラッドは、最初一人で、洞窟から上に伸びる割れ目の探索を行っていた。
一つには ミューズやボロンが洞窟のこまごまとした整備や、ワームの観察・ゴンのテントづくりなどで忙しくしており
ノームもゴンの遊び相手と食事作りで忙しかったからだ。
ゴンのテントに関しては 洞窟の中にこもっているなら 寝ころび部屋をゴンの寝室にすれば不要なのでは?という意見も出たが、
ゴンが みんなと同じ部屋で毎晩寝たいといい、
人族は 長期滞在なら 寝ころび部屋よりも落ち着いた寝室が欲しいと思い、
今後洞窟の外の探検に泊りがけに行く時のことも考えると保温性の良いテントがあったほうがいいということで、人族の寝室にも置ける保温テント兼用寝具制作となった。
ちなみに早寝の幼龍の就寝時(19時)にはノームが付き添い、
21時になるとフェンリルとボロンがノームと交代して ゴンと一緒の部屋で寝て
大ちゃんは ミューズと一緒の部屋に移動して就寝
朝の6時過ぎに目覚めたゴンは、朝食までの時間 寝室でボロンやコンラッドに盛大に甘えまくる毎日であった。
一方 コンラッドの地中探索は、フェンリルの勘がうまく働かず、
コンラッドは しばしば迷子のなっては転移で振り出しに戻れ状態になってしまった。
そこで ミューズに応援を求めたもののらちが明かず、二人は困り果てた。
「あのさ、僕は一人で1か月も地下を歩いてドラゴンの卵を見つけ出した実績があるんだけど」
ゴンとノームが寝室にひきあげたあと、ボロンは 二人に声をかけた。
「お主 その1か月はさまよっていたのではないのか?」コンラッド
「何をバカ言ってるんだい!地図が書けるくらい正確に把握しているよ。」 ボロン
「うわぁ それって君の特殊能力? それともドワーフ固有の秘密の才能?」ミューズ
「なんだよそれ」ボロン
「僕 探索して転移先を見つけることできるけど、転移した先と転移元との位置関係なんてわかんない。」ミューズ
「実のところ わしはここの位置と 梯子の上端があった洞窟の位置関係とかが分からぬのだ。
そもそも 大洞窟との位置関係もわからん。
それゆえ ここへ来た順路をそのまま往復しなくては 地上との行き来ができん。
だから 光の洞窟か第2の張り出し岩につながる割れ目を少しでもさかのぼって、地表のポイントを感知できるところに行きたいのだ。
そうすれば こことの往来が2回の転移できるようになる。」コンラッド
「光の洞窟と梯子の上端があった洞窟との位置関係なら わかります」ボロン
「まことか?」コンラッド
「私はドワーフですよ。いくら 地上での生活がメインでも 地面の下での方向感覚は衰えていません」ボロン
「すまぬ。
ならば 光の洞窟と台地の浴場との関係を 送ってくれ」コンラッド
ボロンが素早く 位置関係を頭の中に浮かべると、コンラッドはボロンを連れて台地の浴場に転移した。
「助かった これで 次からは わし一人でも楽に転移できる」コンラッド
「では 次に ここから 上への転移ポイントを作るのを手伝ってくれるか?」コンラッド
「どういうことです?」ボロン
「大洞窟を使わず 地表の任意の点から地底世界に転移できるようになりたいのだ。
一つには わしの魔力の節約のため
位置関係が分からずマッピングできておらぬ空間の転移はとにかく疲れるのだ。
もう一つは 大洞窟の秘密を守るため。
大洞窟を むやみに通路として利用したくないのだ
あそこは あくまでもドラゴンの秘密の場所だ。
あそこを知るのは わしとお主とミューズのみでよい。」コンラッド
「以前 あなたがノームを地上に連れ出したときは どのルートを使ったのです?」ボロン
「ドラゴンが 地底世界の上端まで連れて行ってくれてそっから転移した。
ここから そこにつながる道がないかと探っているのだが うまくいかん」コンラッド
「だったら 僕たちで地底世界の上端まで登ったらどうですか?
スカイボードもあるし、ゴンも発熱胴着を着て地底世界をもうちょっと飛び回りたいのではないかなぁ?」ボロン
「だが 上部の割れ目に転移陣を設置したいのだ。
その方が 転移が安定するし ローコストですむ」コンラッド。
「念のために聞きますが、あなたは地上のどのあたりに転移陣を置きたいのですか?」ボロン
「転移陣なしで わしが発動する形式にしたいが、場所的にはそうだなぁ城周辺の任意の場所、場合によっては堺川を越えていてもかまわんよ。」コンラッド
「わかりました。
ちなみに ここから地上までの構造図は欲しいですか?」ボロン
「お主とわしの間の秘密ということなら」コンラッド
「私は ゴンのことを第一に考えていますが」ボロン
「あの子が 機密の必要性を理解するようになったらな」コンラッド
けげんな顔をするボロンにコンラッドは説明した。
「成龍の頭の中をのぞくものなどおらぬだろうが
幼い者の無邪気さを利用したり 世間知らずをだまして機密情報を抜き取り悪用する者は人族ならありふれておろうが」コンラッド
「たしかにね」ボロン
「龍や神獣を滅ぼすのは 狡猾な人族よ」コンラッド
「たしかに。
もっとも 警戒しすぎて 孤立して消滅ってのも 最近ちらほら聞くような気がしますが」ボロン
ムムム コンラッドがしかめっ面をした。
「自分たちの生活圏を犯されてから孤立主義をとると そうなるわさ
最初から 外部との交流を制御した独立主義をとることが国を守る必須なのだ」
とまあ、コンラッドとボロンの間で いろいろ話し合って・・・
ボロンとコンラッドは、スカイボードを使って、光の台地から上へ 上へと登っていくことにした。
壁面をざっと見て回ったあと
光の洞窟につながる張り出し岩よりも 斜め上の亀裂までコンラッドに連れて行ってもらって、亀裂の中の探索はボロン一人で行うことにした。
「要するに ドラゴンが立てるくらいの大きさの洞窟を見つければいいんでしょう?」ボロン
「うむ」コンラッド
「だったら そこについたら 私が呼びますから あなたは 待っていてください。 その方が 探索とマッピングに集中できますから」ボロン
コンラッドは最初のうちこそ 亀裂の入り口でボロンを気遣いながら待っていたが
やがて 探索はボロンにまかせて 自分は送迎役に徹して
ボロンの探索中はゴンと一緒に過ごすことにした。
ボロンはあちこちの亀裂の中を探索して、ドラゴンサイズの洞窟を5つ見つけ出した。
その都度 コンラッドはボロンの位置を目印に転移しては
ボロンからマッピング情報をもらった。
3・4・5番目の洞窟からは コンラッドが地上に転移することは可能であった。
コンラッドは 探索魔法で地上への転移が可能であることを確認すると
ボロンやミューズを連れて実際に転移し、
ボロンから教わった三角測量法を応用し、
地上とそれぞれの洞窟との位置関係や転移のしやすさを把握した。
2番目の洞窟からは第2の張り出し岩への転移がたやすく
4番目の洞窟は 全体の中で一番大きな洞窟であった。
コンラッドは、ドラゴンといっしょの地上へのルートを
第2の張り出し岩→2番目の洞窟(中継点)→4番目の洞窟(中休み場)→地上と定めた。
当面は 転移陣を置かずに コンラッドが輸送してくれるそうだ。
それとは別に ドワーフ・ノームの背丈ギリギリの平たい洞窟も、ボロンは発見した。
この「平たい洞窟」からは地上へも光の洞窟へも一度の転移で行くことができた。
のちに この「平たい洞窟」に転移陣を置いて、地上と光の洞窟との荷物の運搬ルートとした。




