張り出し岩とゴースト
(2/9)
ボードに乗ったミューズが先導し、フェンリル姿のコンラッドがしんがりを務め
二人の間に挟まれるようにしてボロンを乗せたゴンは 旋回しながら温泉の下の大地へと降りて行った。
ちなみに ボロンは腹ばいになってゴンの胴着にしがみついていた。
「この状態だと、周りが見えないから高所恐怖にはならないね」ボロン
「せっかくの胴着を引っ張って 伸ばさないでね」ゴン
「そのあたりも考慮した伸縮魔法をかけておいたから大丈夫だよ」ミューズ
下から見上げると、湯舟の半分がキノコの傘のように張り出し、
張り出し岩のふちから ぽつりぽつりチョロチョロと水が滴っていた。
温泉の湯は 大地に触れるころにはすっかり冷めて水になっていた。
「暗いなぁ ここには常設した光石はないのかい?」
ボロンはコンラッドに尋ねた。
「ない。古の龍たちは そういえば皆大人だったから 気温を気にすることなく
最初にわしが示した当たりまでまっすぐ飛んで行っていたからな。
温度的に ゴンにとっては まだ下まで降りてくるのは早すぎたかな?」
「それって どれくらい前の話?」ミューズ
「ずいぶん前じゃ。おぬしに初めてであった頃よりもっと前の話だ」
コンラッドはミューズの質問に答えた。
くしょん、ゴンが小さくくしゃみをした。
「水でぬれると体が冷えるね」ゴン
「それはいかん。 いったん上にあがるぞ。
今度はわしが先頭、ミューズがしんがりだ」
コンラッドはフェンリルの姿でヘッドライトを頭に巻いてボードにのり
壁に沿うように ゆっくりと斜めに上昇していった。
そのまま張り出し岩の下を潜り抜け、温泉の奥側にある壁の向こうへと飛んで行った。
温泉の奥側の壁の向こうのがけは湾曲していた。
がけにそって再び高度を下げると、温泉のあった張り出し岩や台地よりも低い位置に
第2の張り出し岩があり、その張り出し岩の下には、台地とその奥に広がる大きな洞窟があった。
コンラッドに先導されて 一行は その第2の台地におりたった。
ボロンは素早くおり 胴着を脱がせ ゴンの全身を拭いてやり、
以前スカイに頼んで作ってもらっていた ゴン用発熱毛布でゴンの全身を覆った。
暖かいスープも飲ませた。
コンラッドとミューズはボードを収納した。
コンラッドはミューズをボロン達の護衛に残し、周囲の偵察に出かけた。
湿ったゴンの胴着はそのまま収納した。
「ごめん ここではコンラッドの許可なく僕はまだ 魔法が使えないので 君の服をすぐに乾かせなくて」
ミューズがあやまった。
「気にしないで。爆発するよりはよいから」
ゴンの返事にミューズは苦笑い。
・・
第2の台地は洞窟に向かって下り坂になっていた。
一行は コンラッドに先導され、ゴンを真ん中にして歩いて行った。
洞窟に入ると 奥のほうがほんのりと明るく見えた。
「あれっ?」ゴンは声を上げた。
コンラッドは背中にボロンを乗せたまま、すたすたと洞窟の奥に向かう。
洞窟の突き当りだと思ったところは横に広がっていた。
そこで向きを変えてさらに進んだ。
進むほどに暖かくなってきた。
壁は ところどころ光っている。
さらに奥へと進むと、床は平らになったが 天井が少し下がってきた。
そして壁全体が光っている。
ゴンはとりあえず 発熱毛布を脱いで収納した。
コンラッドがひょいとわきにそれたと思ったら、その奥には別の洞窟があり湯気が立ち込めていた。
「この奥には沸騰した湯釜があるから気をつけろよ」コンラッド
「すごい 天然サウナだ」ミューズ
再び光の部屋(と壁全体が光っている洞窟に名前を付けた)に戻った。
この光の部屋はかなり広く、サウナの部屋やお風呂の部屋、水のある部屋、暗い部屋といくつかの洞窟につながっていた。
「すごい! ここには誰が住んでいたのですか?」ボロンがたずねた。
「よくぞ 訪ねてくれたな!」暗い部屋からゴーストがフラ~と出てきた!。
このゴーストは お伽話に出てくる一反木綿を半透明にしたような形をしていた。
「はじめまして でいいのかな?」コンラッドが挨拶した。
「うむ はじめまして。
わしは ゴーストの三角だ。」
「私はにょろん」足のないオタマジャクシのような形をした白いゴーストも出てきた。
「私はにょろにょろ」足のないサンショウウオ型の白いゴーストが上半身だけ闇の洞窟から突き出した。
ほかにも「ごにょごにょ」だの「にゅるり」だのと名乗りなのながら
白いのや半透明のいろいろな形のゴーストたちが顔だけ出しては引っ込んでいった。
「ようこそ ゴーストの館へ」三角がべコリとお辞儀をしてみせた。
にょろんもにょろにょろも 闇の洞窟にもどって 顔だけのぞかせている。
「おじゃましてます」ミューズもお辞儀をかえす。
「もしかして おまえさんがもともとの家主かな?」三角
「それにしてはずいぶん長い間留守にしてたわね」にょろん
「以前 わしがここに出入りしていた時は ここにいたのはノームだった」コンラッド
「私たちがここに来た時には もう誰もいなかったわ」にょろにょろ
「我々は 妖怪の国から来たのだ。
我々のいた妖怪の国は人間たちが起こした戦争のせいで 水爆とやらにふっとばされてのう、気が付いたら この洞窟にとばされておった。」三角
「ここは 静かで変化がないから退屈でね、
でものんびりと 毎日居眠りして過ごすにはちょうどいい。
あなたたちは ここで暮らすの?
それとも遊びに来ただけ?」にょろん
「休暇を過ごしに来たのだ」コンラッド
「だったら あなたたちがやることを見ていてもいい?
私たち ほかの生き物が生活しているのを眺めるのが趣味なの
争うのは嫌いなの
でも追い出されるのもいやだわ」にょろにょろ
「御覧の通り わし以外のものは この光に満ちた部屋に長くいることができぬのだ。
わしとて そんなに長くこの明かりの中に居たいとは思わん。
だから そこの洞窟をわしらの住処として暗いままにしてくれれば
それでよい。
そして できれば洞窟からこうやって お前さんたちの活動を時々のぞき見させてくれれば満足だ。」三角
「だけど 君たち 次元の裂け目を通って元の世界や ほかの世界に行こうとは思わないの?」ミューズが訪ねた。
「最初のころはそれを試みた者もいたがな、誰も戻ってこなかった。
それに隙間風が吹くのもうっとうしいから 穴はきれいにふさいだよ」三角
「ということは おぬしたち 実体化して物を動かせるのか?」コンラッド。
「そういう覇気のある者たちはとっくに出て行ったし、最後のものが出かけるときに次元の穴をふさぐようにわしらは頼んだのよ」三角
「そりゃまたどうして?」ミューズ
「出ていけるいけるということは 入ってこれるということだろう。
次元の穴から第2の水爆なんか飛んできたら嫌だもの」にょろにょろ
「それで お前さんたちが最初についた場所はどこなのだ?」コンラッド
「わしらがねぐらにしているその暗い穴の奥だ。
御覧のとおり わしらは明るい所に全身をさらすことを好まない。
わしとにょろん以外は 穴の外まで出てこなかっただろう。
小さな子供たちは 光を浴びると溶けるのだ」
「なるほどねぇ」ミューズは念入りに ゴースト達が出てきた穴の奥を探った。
「ここは 居心地がいい。
それに この部屋はずーっと明るいままだ。
明るい所を横切るなんて嫌だね」ごにょごにょ達が口々にいった。
「暗い部屋から 明かりの下で動く者たちを見ているのは面白いけどねぇ」三角
「暗い所で居眠りしているのも好きよ」にょろん
「ならば 家主の権利を引き継ぐものとして宣言する。
お前たちがそこの暗い部屋を使うことは許す。
そこ以外の場所に行くときには わしの許可を取るように。
ただし わしらやわしらの仲間を害することはいかなる時も許さん。
わしらに関して他言無用
よそから何かやだれかを呼び入れることは認めん
何者かがやってきたら必ず速やかに報告すること
この地はわしらのものであって おぬしたちのものではない」コンラッド
「いいよ それで」
「暗い部屋の使用許可ありがとう」
ゴーストたちは 口々に同意とお礼の言葉を言ってお辞儀をして 暗い部屋にもどっていった。
三角たちのいるところを ゴースト部屋と名付けた。




