夏から秋へ
夏キノコから秋キノコへと、境川を取り巻く森林でのキノコ狩りは続いた。
ゴンは荒れ地で コンラッドから狩を特訓されたり、
体を小さくして林を散策したりと大忙しの夏を過ごした。
人族は、キノコ狩りだけでなく、林の中の倒木を集めたり、木材用に育てたい木の枝打ちをしたり下草刈をしたりと これまた忙しく過ごした。
ただ なにぶんにも林業にはなじみのない面々だったので、文献と首っ引きの試行錯誤の連続であった。
「今まで 材木なんて 森に行って適当に切り出して来たら良いと思っていたからなあ・・」ボロン
「製材せずに丸太を使っていたから、伐採した木の乾燥なんてことにも あんまり気を遣わなかったんじゃないか?」ミューズ
「最近は 石材ばかりに頼れなくなって しかも太い丸太の供給も減ってきたから
製材技術も重視されるようになってきてはいるんだけど、なかなかなね。
木材は金に糸目をつけない金持ち相手の販売が中心だったから・・・
注文が来てから 出荷するまでに1年かかっても文句は言われなかった。
庶民は なければないで 古い建物や家具を修繕しながら住んでいるから
商業ベースで育林~製材というのは 考えにくいんだなぁ」ボロン
「僕も あちこち見てきたけど、木の文化・木材加工技術がすぐれていて、
庶民が持ち家を持っていて当たり前って国は 一つくらいしかなかったな。
平和で貧富の差が開くことを好まない民族国家だったけど・・
結局滅びたね。
外国との人やモノとの往来が激しくなった結果、自分たちのアイデンティティを見失ってしまって」ミューズ
「僕たち自然と平和を愛するエルフ同様、森を大切する人々も
多種族の中で生きていくことはむつかしくて数を減らしてしまったのかな?と せつなくなったよ」ミューズ
「かつてある大陸の半分を占めるジャングルの中で生きておった何万人もの民族も
船に乗ってやってきた 石やレンガの建物が大好きな民族によって駆逐され
その文化は、たった30年のうちに跡形もなく消えてしまったなぁ。
木や草で作った建物や道具類はすべて朽ちてあとを残さないから、手入れする者がいなくなれば完全に消えてしまい復元も復興もできなくなるのだ」コンラッド
「とにかく 今ある森や林を大切にしつつ、小規模に手を入れて その結果が良かったのか悪かったのか 経緯をきちんと記録して、適切な手入れ方法を残していこうよ」スカイ
「それで 倒木も 残すところ、除去する所とわけたんですかい?」清明
「だって キノコのためには残したほうがいいかもしれないし
腐った枯れ木が病気の温床になるかもしれないし
そんなの 少しづつ確かめていかないとわからないんだもの」スカイ
「とりあえず 木材や燃料として使える枯れ木は もらったけどな」ボロン
「森林資源を商業価値で測ると あっという間に、取り放題されてなくなってしまうし
人が増えても なんやかんやと切り倒されていくし
むつかしいんだよなぁ、森林の保全って。
いっそ 木々がしゃべって自己主張してくれたらいいのにって思うよ」スカイ
ミューズがクスっと笑って言った。
「僕に竪琴を渡してくれれば・・・」
「エントやドリアードたち、木々の守り人を産み出したところで、
おぬし一人で その者たちをこの先何千年も 人間から守りぬけるのか?」
コンラッドがまじめな顔で ミューズに問いかけた。
「そっかぁ 龍の森にエントやドリアードを産み出すと、
この先ずーと ここにとどまってその人たちを守る責任ができるんだね」ミューズ
「人間たちは 数が増えたり、己の過ちで住処をなくすと 平気で他所に侵入してくるからな。
奴らを ここに立ち入らせぬように守り続けることができぬのなら
か弱いエントやドリアードを産み出すのは無責任だぞ」
コンラッドが重々しく言った。
「僕たちは ちゃんと産児制限もやるけど 人族はだめだよね、その点」ボロン
「え~~~~! ドワーフの数が歴史的に見て一定なのは 産む子の数を調節してたからなのぉ???」
スカイが大声を出した。
「当り前じゃないか。
ドワーフとして、共同体を維持するための人数は確保、
でも 多種族と平和共存できるだけの数以上には 人口を増やさない。
人口をいたずらに増やして資源を食い荒らしたり、収奪的農業で地力を低下させない!
そういう発想のない 人間には ほんと迷惑してるんだから!」ボロン
スカイと声明は あまりの意外さにぽかんと口をあけた。
「だったら なぜ 森林の管理法を知らぬのだ?」
コンラッドが いじわるそうに尋ねた。
「もともとドワーフは 森林の乏しい所に住んでますからね。
燃料は石炭、住居は穴を掘るか、石やレンガ造りで。
だから 逆に 生きている木を切り倒すこともしませんよ。
道を作る時も 基本的に森林は避けてますから。」ボロン
「確かに この国の道で ドワーフが作った道と町は 見事に森林をよけて作られているね。
森から 徒歩1日くらいのところに町や村がある」
スカイも なるほどという顔でつぶやいた。
「徒歩半日程度なら 人間が住み着くと 一世代で森林が消えることに気づいてからは 村なら徒歩1日 町づくりの依頼なら騎獣を使っても2日以上はかかるところに作るように取り決めたんだよ、僕たちは」ボロン
「そっかぁ それで ドワーフの頑固者にかかると 村や町の位置までドワーフギルドの決定に従わざるを得ないってことになったのかぁ」清明
皆の注目を浴びて、清明が言葉を足した。
「よく 依頼をめぐって 領主たちがギルドの外でそう言ってわめいているのを耳にしました」
「確かに 昔から 村や町の位置についての決定権は、そこに住む種族を問わず、ドワーフギルドにあると取り決めがあったからね。
でもまさか ドワーフギルドが森林保護まで考えていたとは思わなかったよ」スカイ
「まあ 僕たちにできることといえば これ以上森林を減らさないことだとは思ってたけど
育てることまでは 全然考えてなかったというか、考えてもわからなくてすぐにあきらめてたんだけど」ボロン
「だったら せっかく神獣様や エルフのミューズさんも 大魔法使いのスカイさんもいることだし みんなで 考えていきましょうや」
清明が いい感じに締めくくりの言葉を言ったが・・
(一番最初に死ぬお前が言うな)コンラッド
(それって 僕たち長寿組に丸投げって話じゃないの)ミューズ
「おれ 森林育成法がわかるほど 長生きできるかなぁ」ボロンが現実的に締めくくった。
 




