テレポーテーション
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ボロンは無期限休職願いを書いた。
無期限休職とは実質退職と同じだが、退職金や退職時の各種諸手当が出ない代わりに、
再就職を希望したときに 優先的に空席に雇用されるシステムである。
ただし その空きポストが必ずしも自分の望み通りになるというわけではない。
その無期限休職願を ゴンは 一番近い町のギルド書類受けに放り込んだ。
街の位置とドワーフギルドについては、 ボロンの記憶をゴンが読み取って、自分の探査能力を発揮して見つけた。
ボロンによると その町は竜の山に一番近い町にあるはずなのだが、
その町にあるギルドを見つけるのに ゴンは2か月かかった。
「君の書類を提出期限までに送れてよかった。
食料と違って 特定の場所を見つけるのって すごくむつかしかったよ。」
「そうか 無理させたみたいで悪かったな。
そして、ありがとう。
送ってもらえて助かったよ。
無断欠勤で首になると復職できないし、再就職もむつかしいからなぁ。
今の状況ではそれも覚悟してたけど、やっぱり失業よりは休職のほうがいいから。
でも 俺のために無理しないでくれよ。」
「うん。
僕は 自分にできることしかできないよ。」
「それにしても お前 生まれた時から 空間魔法が使えるってすごいね。
それなら 自分や俺を転移させることができるのではないかい?」
食事中だったゴンは、加えていた肉団子をポロリと落とした。
そう 最近は固形物を食べる練習をしていたのである。
肉を柔らかく煮込んでから細かく刻んで丸めて、つなぎに卵と片栗粉を入れてさらに汁気たっぷりに煮込んだ肉団子を歯茎でつぶすようにして食べる練習をしていた。
「ねえ ねえ その魔法のイメージ教えて」
ボロンは テレポーテーションをイメージして見せた。
「あはは あとで それやろ。
「品物や牛を運んだように 自分を飛ばしたり、
モノを引き寄せるだけでなく、あちこちに移動させるんだね!」
ゴンは おもしろそうに尻尾を振った。
・・・
ゴンは 最初のうち、見える範囲でモノを右から左、地面から空中へと移動させる練習をしていた。
やがて、洞窟につながるトンネルまでモノを飛ばしたり、また引き寄せたりし始めた。
このようにして テレポーテーションの移動距離を伸ばしていった。
・・・
ある日、ゴンは恐る恐るボロンに尋ねた。
「ねえ 僕が 君を洞窟の外に出してあげたら 君 また戻って来てくれる?」
「どういうことだ?」
「君は 時々 外の世界のことを考えているだろ。
買い物とか お風呂とか ベットとか」
「気づいていたのか」照れ臭そうにボロンは答えた。
「僕は 一人になりたくないから 君を引き留めていたけど
やっぱり・・・
今なら 君を洞窟の外にテレポートさせてあげられる。
君が 洞窟の外で用事をすませて また戻ってきてくれたら
洞窟の入り口から この中にテレポートで呼び込むこともできる」
だんだん声が小さくうなだれながら幼龍は言った。
ボロンは思わず ゴンを抱き寄せ、頭をなでながら言った。
「お前優しいな」
「ただな 俺の心配は そのう 手持ちの金が減ってきて お前が空間魔法で買い物してくれる代金分の金がもうすぐなくなりそうだってことと、
こっから先の金は一度街に戻らないと下せないってことと、
でも 洞窟の入り口から町まで片道で1か月はかかるから 往復2か月もお前を一人にしておくことが心配でなぁ。」
「ぼくねえ 夜は 安全な ここで過ごしたいんだ。
君 昼間は 外で自分で狩りをして食料を調達できる?」
「うさぎとか鹿とか無難な生き物だけがいるなら狩りができなくはないが・・・」
「じゃあ それでいこう!」
「それでいこうってそんな簡単に」
「じゃあ 僕はがんばって獲物を見つけて この洞窟に運び込むから 君が仕留めてさばいてね!」
「えっえっえ~~~~~!」
慌てるボロンをよそに ゴンは意識を集中させ始めた。
突然 ボロンの目の前にうさぎが現れた。
うさぎもボロンもびっくりして固まってしまったが、うさぎの方が早く我に返り逃げ始めた。
うさぎはジグザグに走る。
ボロンに追いかけられたうさぎは、ドラゴンのいない方向へと逃げ回っているうちに
熱泉に飛び込んでしまい・・ゆであがってしまった。
「しかたないなぁ もぅ」と言いながら、ゴンは泉からうさぎを引き上げた。