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ドラゴンクラン 幼龍編  作者: 木苺
     森の中へ
77/112

ブナ林 (写真あり)

1泊2日の旅!①   (6/9)

ダーさんの散歩もかねて、スカイ・清明・ボロンは境川に沿って北上し、

エルダーフラワーの茂みを目指した。


茂みに到着すると、ボードに載ったミューズとゴンが飛んできた。


エルダーフラワーについては すでに予習済みなので、

その植生を観察したのちは、みんなでエルダーベリーの完熟した実をつんだ。


「ダーさんたちには、エルダーフラワーを食べたらおなかをこわすよ」とスカイがささやくと、

「そんなこと知ってる」とばかりにダーさんたちはお尻を振った。


そこで ダーさんたちには、川沿いにぶらぶら歩きを楽しみながら先に帰ってねと言い置いて、

一行はブナ林に入ることにした。

 もちろん ゴンは小さくなってボロンの肩の上。


この辺りは、南向きの緩やかな斜面となっており、そこにぶな(山毛欅)が生えていた。


「古より命をはぐくみし森の女王に感謝を」

ブナの森に入る前に ミューズは立ち止り一礼した。


「どういうこと?」不思議そうに首をかしげて ミューズを見つめるゴン


「ブナはね 水分が大好きで自分の体の中にもしっかりと水分を蓄えるんだよ。

 そして たっぷりと水分を吸い上げるために しっかりと根を張るからね

 ブナの生える斜面は土砂が崩れたりしない。


 しかもその上 落葉樹だから毎年たくさんの葉っぱを落とすだろう。

 それで養分たっぷりのふかふかの森の地面(林床)になるわけ。


 ほら歩いていると気持ちいいだろ」


ミューズの言葉を受けて ゴンは ちょこっとだけ林床を歩いてみた。

「足先が 沈み込んで汚れちゃった。冷たいよ」

直ぐに飛び上がって ボロンの肩に戻るゴン。

ボロンの服には湿った腐葉土がついた。


「あはは 君は 体重に比べて足先が細いからねぇ」スカイがなぐさめた。


一方清明は、「うーん 今は見えるから ふかふかを楽しめますが、以前は見えないからこういうところを一人で歩きたくなかったですね。湿っぽいとこは苦手です」と()(ふた)もないことを言った。


「おまけに 獣も多いしね」ミューズ


「そうです」清明


「どうして獣が多いかわかるかい?」ミューズ


「さあ? どうしてですかい?」清明


「ブナの実は 高蛋白で脂肪分も多くて 栄養たっぷりパワー満載なんだよ。

 だから 人間も ブナの実を炒って食べるし

 リスやネズミなど小動物も熊のような大型の動物もブナの実が大好きさ。

 そして 小動物を食べるワシやタカ、僕達エルフが生きていたころは、鳥もいろんな種類がいたからね、

 そういう猛禽類も大満足。」


「しかも ブナ林の土壌は天然のろ過材の役割もする。

 いろんな種類の動物たちが繁栄する。

 だから 命を(はぐく)む森の女王にのおひざ元にいくときは、ちゃんと挨拶をして(はい)るのが

 エルフのしきたりだったんだ」ミューズ


「なるほど そういうことだったんですか」清明


「そして 森の女王 ブナ林は キノコの宝庫でもあるんだ」スカイ


「ブナの木は倒れた後も 命を育むからね。倒木にも注意をして観察してね」ミューズ


挿絵(By みてみん) 

ブナの花  (春 5月ごろ)


挿絵(By みてみん)

ブナの実


「それにしても、芽が出てから開花結実までに40年~50年かかるってすごいなぁ

 しかも 身長は80~100年 胴回りは110~130年の間成長を続けるって すごいなぁ」ボロン


「それに春先に一斉に葉が開いたら、あとは翌年の春まで新しい葉が出ないって

 うかうか伐採も 葉をむしることもできませんね」清明


「昔昔 よその国で それはそれは豊かなブナの森と海に恵まれた国があったそうな。

 人々は 魚や貝 そしてブナの実を食べて、

 子供たちは健やかに育ち、

 男たちはたくましく大きな体に

 女たちは 安産多産の体を手に入れたんだと。


 人の数が増えて 村はどんどん大きくなるだけでなく、

 人々はあちこちにでかけて 新しい村を次々と作っていったんだと。


 村の数が増えるたびに 人々はブナの木を切り倒し その木材で家を建てた。

 獣除けの柵も作った。


 「こんなに実がたくさんなるのたもの

  次々と芽が出て、じゃまになるくらいだ。

  どんどん木を切り倒して 使おうぜ!」


 「森より 畑の方が おいしい作物がたくさんできるからいいわよね」


 「海から離れてしまったが、狩の獲物が豊富だから肉の心配はいらない」


 人々は感謝の心を忘れて ブナの森をどんどん田んぼや畑に変えていった


 気が付いた時には ブナの木は実をつけなくなっていた。


 人々は「祟りじゃ」と慌てふためいた。


 しかし もはや ブナの木は実をつけない

 いつまで待っても 若木は太くならない

 気が付けば 狩の獲物も減ってしまった。


 それからというもの、人々は 食べ物を手に入れるために 年中畑仕事に追われて

 腰の曲がった大人と やせ細った子供が目立つようになったそうな」


ミューズが昔話をした。


「確かに人間の寿命だと、よっぽど注意深く世代を超えて観察して伝承していかなくては

 種から芽が出て実がなるまでに40年から50年かかるって気が付かないよなぁ」

スカイがため息をついた。



・ブナの森を歩いて、最初に目に入ったのはウスヒラタケ

 倒木に生えた苔の間から白っぽいキノコが並んで生えていた 。


 軸が短くて 傘が折り重なるように並んでいる。


「ヒラタケが晩秋から春にかけて、つまり冬に生えるのに比べて、

 ウスヒラタケは 春~秋に生える夏キノコだよ。

 どっちも平べったいけど、ヒラタケのほうが茶色だから こっちはウスヒラタケ。

 色も薄いけど かさの厚さも少し薄いから」スカイ


 それぞれの倒木から 全体の5分の1づつ 摘ませてもらった。


・さらに森の奥にすすむと、色の濃いヒラタケのような、でも生え方がちょっと違った感じのキノコがあった。やっぱり倒木に。


「これは ツキヨダケ。毒キノコだから、食べちゃダメだよ。

 闇の中では青白く見えるから ツキヨダケって言うんだ。」スカイ


「今夜は 1泊するんだろ。

 闇に浮かぶ姿を見たいな」ゴン


「いいよ マーキングしたから 今夜転移して見に来よう」スカイ


・「ヒラタケ シイタケ ウスヒラタケとツキヨダケは 似ていて間違えやすいって言われるんだけど

  ツキヨダケが生えるのはブナの倒木だけだから、倒木の種類にも気を配るといいね」スカイ


 「そんなこと言っても 苔蒸した倒木の種類なんてわからないよ」ボロン


・「ブナの倒木にはなめこやムキタケ・ブナハリタケも生えるんだけど、これらは秋キノコだから 今はないね」スカイ


 「ブナハリタケはおいしい白いキノコで、ブナの枯れ木や倒木にびっしりと生えるからキノコ狩りにはもってこいだよ。

  だから 今日見つけた ブナの倒木の位置はしっかりと記録して、秋に 生えているかどうか確かめに来ようね。」スカイ


 「といっても ブナハリタケは湿った所が好きだから、倒木の位置だけでなく倒木の周りの様子もちゃんとメモしといたほうが良いよ。なめこやムキタケもね」ミューズが補足する。


・あるブナの倒木には 少し硬めのキノコが生えていた。

「これは、つりがねだけ。

 一度生えると年々育っていくサルノコシカケの仲間。

 でも薬効成分はないから、だまされて売りつけられないように。


 まあ ツリガネダケはブナの倒木にしか生えないし、

 サルノコシカケはいろんな樹木に生えるからね。


 王宮では サルスベリの生木にサルノコシカケが生えたのを鑑賞用に珍重していたよ。

 夏にピンクのきれいな花が咲くし、木肌はつるつるして(つや)があるうえ

 サルノコシカケまで生えていると、冬でも趣があっていいからね。

 西向きの庭園には お手入れいらずのサルスベリをよく植えるんだが、

 サルノコシカケが生えた庭木は滅多にないからね。


 一時 某貴族に連れられた商人が「売れ 売れ」って言ってきてうるさかった。

 だいたい サルノコシカケの生えた木を持っていると、たとえそれが木株であっても

 その家に不幸があると、ハイエナ商人が買いたたきにやってくるんだよなぁ。

 噂ってほんと怖い」スカイ


「しかし 王家の庭木を売れって言ってくるって 相当図太い商人ですね」清明


「ふん 政治的嫌がらせだよ。」スカイ


「もしかして 君が何かやり返したのかい?」ボロン


「僕は 知恵を貸しただけ。

 さるお方の意を受けた劇団が、某貴族のうちで怪談劇をやったあと、

 某貴族とハイエナ商人の行く先々で夜な夜な「青火がぱぁ ぼやがポォ」と漂ったとかなんとかって

 噂はその後聞いたけど」スカイ


きょとんとしている3人組をふしぎそうに見ているミューズに、スカイは説明した。

「この人達 怪談が全然怖くないんだよ」


「だったら 冬のしんしんと冷える夜にドラゴンが耐えられるようになったら

 僕達二人で 暑気払いに 鳴り物入りの怪談劇でもやってやろうじゃないか」ミューズ


「ボロンと清明だけならともかく ドラゴンが冷気にでもあてられてくしゃみをしたら大ごとだよ」

ほとんどあきらめの心境でミューズに告げるスカイ。


「残念。冷気に 冷えたこんにゃく、スライム付きの怪談劇が僕大好きだったのに」ミューズ


「そして 生臭いぬるい風とヌルヌル。これを出すとコンラッドが怒るだろうなぁ」スカイ


「ああ ようするに 腐った死体のある光景ってことですかい。

 趣味が悪いですね」

清明の一言に スカイとミューズがパタッと倒れるふりをした。


「じゃあ ”一転にわかにかけ曇り 生温(なまあたた)かかい風が・・”ってやつはどうだい?」

ボロンが 興味津々という顔で清明に尋ねた。


「それって 天候の急変の始まりですから 早く安全なところに隠れないと

 雷雨にやられて 下手すると 落雷に襲われる。 一番いやな奴です」清明


「よかった 君とは気が合いそうだ」ボロン


ミューズはスカイを見上げて言った。

「この二人 なんで こう チョー現実的なの?」


「さぁー」スカイも首をかしげる


「一人で戸外を歩き回っていたら 周囲の環境に気を配らないと命を守れないんですよ」清明&ボロン


「怪談ネタの中には 町暮らしの人の為に、危険な自然環境の変化に注意を促すモノもあるんだねぇ」

ゴンはのんびりと感想を述べた。


(参考)


・ブナについて

https://www.weblio.jp/content/%E3%81%B6%E3%81%AA 

 写真がきれい 概略がわかる


https://www.shinrin-ringyou.com/tree/buna.php :写真を一部引用して加工

 「森林・林業学習館」のサイトなので、林業の歴史の中でのブナの位置づけについて述べられている

  写真もその説明もわかりやすい 写真豊富


https://ganref.jp/m/ka-abe55/portfolios/photo_detail/3033890

 雄花と雌花のわかりやすい写真と解説・・引用して加工しました

  ブナの花の投稿サイトを20ほど見ましたが、風情があり一番わかりやすい写真だと思いました


https://www.tepco.co.jp/oze/shiryoukan/book/html/buna02-j.html

 雄花と雌花のつき方が 写真と図で明快に示されている


https://bunacent.host.jp/bunadata.html

  ブナの植生について詳しい



・ブナ帯のキノコ図鑑:きのこの種類別写真と解説

  本文(物語)に出てきたキノコの多くは こちらのサイトでその画像を確認できます

  https://www.akita-gt.org/eat/kinoko.html#02


・白山のキノコ

https://www.pref.ishikawa.lg.jp/hakusan/publish/sizen/documents/sizen16.pdf

 写真や図も豊富で ブナ林のキノコについて 非常に詳しい 専門的

 ただし、キノコの性質(何を分解するか等)に基づいて分類しているので、

 食用・非食用の区別はないので 自分で調べる必要がある


・ツキヨダケ:自然毒のリスクプロファイル 厚生労働省

  https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/kinoko_06.html


  間違えやすい、ヒラタケ・ムキタケ・しいたけとの比較写真つき


・つりがねたけ

https://www.tajima.or.jp/nature/mushroom/119342/ 写真豊富

 火口ほくちのうんちくあり


・ブナハリタケ

  http://www.forest-akita.jp/data/kinoko/bunahari/bunahari.html


・中田ダイマル・ラケット漫才「僕は幽霊」のトリの部分

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