ダーさんカップル
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今日も鳥小屋の掃除をしているボロンを見ながらゴンが言った。
「ねえ どっかに 遊びに行こうよ。」
「ン? どこに行きたいんだ?」ボロン
「そうだねぇ 僕の体があんまり大きくなりすぎないうちに、
ここの森とかジャングルとかどう?」ゴン
「森やジャングルねぇー」
ボロンは、昨年ゴンたちと一緒にブクブクを取りに行った時のことを思い出した。
「あのさあ、ぼく 短距離なら 馬とかダーさんとか運べると思うんだよね。
それで 僕が境川を越えさせるから、あとは ボロンは騎獣に乗って、
ぼくは徒歩で森の中を移動したらどうかと思うんだ。」ゴン
「なるほど!
そうしてもらえるとすごく助かる!
実は、去年練習した立ち乗りが まだ怖いんだよ」ボロン
「僕としても 君が僕の背中の上で怖がっているのがヒシヒシと伝わってくるのがつらいんだ」ゴン
「すまん。君の心情にまで思いやることができなかった僕は未熟だ」
申し訳なさがあふれるボロン
「それで、今年はダーさんと籠を併用したらどうかと思うんだ。
はやく 僕の体がしっかり成長して 君が安心して僕の背に載れるようになるまでは」ゴン
「いろいろ 気をつかわせてすまないな。
とりあえず 籠を使っての移動についてみんなに相談してみようか」
・・・
ゴンの意見を皆に諮ったところ
「おまえ ダーさんの体重は100~160キロ 羊の2倍以上あるって知ってるか?」
コンラッドに突っ込まれた。
「えっ そうなの?
首が細長いから てっきり 羊と同じくらいかと・・」ゴン
「長い足や首の骨の重みを無視してはいかん。
それに あの体は よく見ると 大人の羊より大きいぞ」コンラッド
「そ そうだったの・・」
実のところ 魔羊の成獣を持ち上げることにもふらついているゴンであった。
「しかし この近辺のことをもっと知りたいという気持ちは わかりますね。
実のところ 私も 春の植え付けが終わったので、人の住む町に出たい気持ち半分
このあたりを探検して回りたい気持ち半分で落ち着かない心持ちなんです、最近」清明
「そういえば 君 夏は外の世界を見たいとか言ってたよね」スカイ
「ふむ、境川の対岸を 探検して回るのは悪いことではないな。
ダーさんを運ぶくらいなら 手伝ってやっても良い。
なんなら 雄のダーさんを買ってきて、雌たちが対岸の探検に参加している間に
雄たちに抱卵させてみようか」コンラッド
というわけで、繁殖用のダーさん二番を購入した。
この時の買い物話はまた別の機会に譲ることにしよう。
・・・
ダーさんというのは、こと繁殖となると気難しい。
まず 雌が番になりたがらない。
雄が近づくと 羽を広げて威嚇し、さらによってくると嘴で攻撃する。
雄は 雌の気持ちが落ち着くまで 辛抱強く傍らで待ち続けなければいけない。
雌が ようやく雄が近づくことを許したら共同生活が始まる。
がしかし 雌の縄張りに入ることが許されても、なかなか雄は雌に触れられるほど近づくことは許されない。
それこそ 根気よく愛の歌をがーがーこっこっと歌って雌をその気にさせなければいけない。
そしてめでたく受精卵ができたら、雌はさっさとどっかに行ってしまう。
雄は 抱卵の開始である。
約42日間 雄は辛抱強く卵の上に座り続ける
卵は 日当たりの良い砂場に掘った浅い穴の中に納まっている。
ダーさんは飼育に適するように改良された品種なので、人間が抱卵中の雄のそばに餌を運んで行っても嫌がらず 卵の上に座り込んだまま 首を伸ばして食べる。
雛が孵ると、約1年間 雄は雛のそばで暮らして 雛を守り育てる。
もしかしたら ダーさんの雌が伴侶選びに慎重なのは、抱卵・子育て向きのオスを選んでいるからかもしれない。
ドラゴンクランが新たに買い入れたダーさんカップルは、同居を始めたばかりの二組の雌雄であった。
このカップルには それぞれ専用の砂場つき飼育場を用意した。
新しい住処が気に入ったのか、カップルは早々におちつき、オス達は競い合うようにしてそれぞれの伴侶に求愛の歌を歌い、羽を広げて舞い さらに足踏みをしながら求愛のダンスをした。
それに気を良くした雌もまた 首を振りながら足踏みをして、自分のパートナーと一緒に踊った。
その後、オスたちはめいめい2個の卵を温め始めた。
受精卵を産んだメスは柵の出入り口の前で「外に出せ~」とばかりに鳴きたてた。
この2匹のメスは メリーさん メモリーさんと名付けられた。
去年から竜の里で せっせと無精卵を産んで食卓をにぎわしてくれたダーさんは、タマゴさんと名付けられた。
このタマゴさん、メリーさん、メモリーさんの3羽が、ゴンとともに境川沿いの探検に同行することになった。
ちなみに 受精卵を産んだメリーさんとメモリーさんは 来年まで卵を産むことはない。
タマゴさんは まだ若く受精卵を産んだことがないので、これからも毎日のように1個づつ無精卵を産んでゴンに栄養をつけてくれる予定である。
タマゴさんは 昨年同様ボロンを載せる。
清明・スカイ・ミューズはメモリーさんとメリーさんに載る練習を始めた。
もちろん ダーさん騎乗練習のお師匠さんはボロンだ。
お出かけしないときは 3羽の雌は仲良く、タマゴさんがこれまで暮らしていた囲いの中で同居した。




