カエル
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ある朝 清明が眠そうな顔で食堂に現れた。
「どうしたんだい? ずいぶん眠そうじゃないか?」
朝食の準備をしていたスカイが声をかけた。
そう 城での朝食は清明とスカイが1週間交代で作っている。
「カエルの声がうるさくて」清明
「ん?この城の壁は 遮音性能が高いはずだが」コンラッド
「知ってます。ただ 昨夜は夜風を楽しみたくて 窓を開けて寝たんです。
そしたらカエルの声がうるさくて」
「だったら 窓を閉めればよいではよいか」コンラッド
「私は時々 無性に風の音とか草のにおいとか そういったものが恋しくなるのです」清明
「それって 心眼使いになったきっかけと同じ理由?」スカイが遠回しに尋ねた。
「そうです。
幼い時から 視力を補うために その他の感覚を研ぎ澄ませていましたからね
ここのように 静かで臭いのない部屋にいると 時々無性に戸外の音や臭いが恋しくなるんです、
たとえそれが夜であっても」
「なるほど。しかし 今はカエルのシーズンだからな」コンラッド
「わかってます。
本当なら カエルが鳴いてるときは安心して眠れるはずなんですけど
ここのカエルって なんであんな吠えるように鳴くんですか?
普通 カエルの鳴き声って もっとかわいいもんでしょう?」清明
「そりゃあ 食用ガエルだもの、それも改良品種の」コンラッドはすまして答えた。
「なんですか?それ」清明
「食用になるカエルは2・3種類あるのだが、その中で大型のウシガエルと言われるカエルを
さらに大きく改良した品種を ここの用水に放した。
カエルは普通足だけを食べるのだが、小さいと物足りないし、骨を抜くのが面倒だからな。
後ろ足をより大きく、ついでに水の中のよからぬ生物を捕食するように改良した品種じゃよ。」
「よからぬ生物ってなに?」ゴン
「人間に毒をもたらす蛇とかカエルとか 動物の血を吸う生き物の類だな」コンラッド
「そんなのを食べたカエルも毒もちにならないんですか?」清明
「それは大丈夫だ。あのカエルの体内には 解毒作用のある消化液が入っておるから」コンラッド
「じゃあ その消火液を取り出したら薬になるの?」ゴン
「いや なんでも溶かす強力な消化液とまじりあっておるから
あのカエルの体は開かないほうがいいな。
脚だけ取り出し、残りはそのまま専用バイオマスに送るのが良い」コンラッド
「コンラッドって 妙なところでグルメなんだね」
ミューズが食堂の入り口にもたれかかって声をかけた。
「そういや ミューズさんも ちゃんと食事当番の仲間に入ってくださいよ。
あなた ここに来てから 食べるばっかりでしょ」清明
「え~」ミューズ
「そういえば ミューズに当番を割り振るのを忘れていたよ。
君、来週から朝食当番ね。
それと 夕食は ぼくと清明で作っているから、
君 昼ごはん当番ね。慣れるまでは 僕も手伝いに入るから」スカイ
「もしかして 昼ごはんは 僕が毎日つくれってこと?」ミューズ
「そうだよ」スカイ
ジーっと清明のほうを見るミューズ
「すみませんね。私は 最近ようやく一人で朝食を作れるようになったんですが
今調理の勉強中なんで、夕食はまだ一人で作れないんですよ。
っていうか 夕食のメニューの調理法を習っている最中なんで」
清明はミューズに説明した。
「ふーん
つまり 僕の調理の腕前を確かめるために
スカイがしばらく僕の昼食づくりにつきあうわけね」ミューズ
「それもあるけど、道具とか食材とかの確認のためにも 知った人が最初はいたほうが良いだろ。
お互いのために」スカイ
「それはまあそうだけど」ミューズ
「うんいいよ。君たちに底意はないって信じる!」ミューズは明るく言った。
「おまえ ずいぶん苦労したんだなあ。
いちいちそういうことまで気を回して考えるなんて」コンラッドがぼそりと言った。
・・・ドラゴンクランのカエル料理・・・
①おかゆ
骨抜きしたカエルの足の身を、沸騰した湯の中をくぐらせたのち、(←あく抜きのため)
出来上がったおかゆに入れて、ひと煮立ちさせる。
火を止める寸前に香草またはゆずの皮あるいはスダチ果汁などを加える
「わしは この調理法が好きだ。
調味料で煮込んでカエルの泥臭さをごまかしたものを
粥に混ぜる食べ方は好かん」コンラッド
②骨付きのまま唐揚げ
「人間たちは この食べ方をこのむの。
わしはおかゆ一択じゃ」コンラッド
「鳥の唐揚げと違って、カエルの唐揚げの場合は、
香草またはバジルを唐揚げ粉に混ぜたり、
あるいはスダチやトマトの果汁に
お好みでオールスパイスまたは胡椒を入れたものをかけるとおいしいね」スカイ
「改良品種だから泥臭さもなく さっぱりした味付けがあうであろ?」コンラッド
「私は あればおいしくいただきますが、
わざわざ養殖してまで とは思いませんねぇ。
ほかに食材があれば」清明
「君 調理するとき あの何とも言えない手触りが嫌なんだろう」
スカイが笑った。
「ご明察」清明
「昔は カエル毒は 人を害する目的で使われることが多かったんだ。
それで 毒もちカエルを無毒化する唄を奏でたら、刺客を送られたよ」ミューズ
「おまえは お節介が過ぎる。
確たる政治的信条もなく ただ「よいことをしよう」と思い付きで行動すると
迫害されるだけじゃよ」コンラッドが哀れみの眼でミューズを見た。
「だよね。人間のこわさを1000年の間に思い知らされたよ」ミューズ
「せっかくこうしてそろっているのだから、皆でカエルが良く育つように合唱しようではないか」
コンラッドの発案で 皆で歌うことにした。
輪唱 ♬カエルの歌♬
手遊びつき ♬カエルの夜回り♬
おまけで ミューズがインドネシアのわらべ歌を歌った。
♬ナイック ナイック クンパルチャ ティンギー ティンギスカリー♬
「お前はまた そうやって恋の歌を歌う。」コンラッド
「いいじゃない、小麦畑で仲良くしたり
カエルが鳴く田んぼ道を 一緒に散歩したり。
働いて 恋をして 人の一生は終わるのさ!」ミューズ
(枯れた年寄りばかりの中で育った僕には あこがれの生活だよ)心ひそかにつぶやくミューズ
「ほんとカエルって夜に鳴くんですよね。昼間は静かだ」清明
「どうして カエルが鳴いていると安心して眠れるの?」ゴン
「カエルは物音がすると 鳴き止むんです。
時々 カエルに向かって怒鳴る人がいるけど、ほんと怒鳴ると少しだけ静かになるんです。
そして 何事もなければ また鳴き始めます。
だから 庭に小さなカエル池を作ると、警報代わりになりますよ
機械の警報と違って、鳴き止んだ時に注意ってね」清明
「ふーん そうなんだ」ゴンはしっかりと清明のことばを記憶した。




