狩りの稽古1:魔羊
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ミューズとスカイが捕まえてきた魔獣たちは ミューズの恋の歌によって求愛行動を活性化し、子守歌によってくつろいでいる間に胎児たちがぐんぐん育ち、通常よりもはやい速度で育って ぽこぽこ子供が生まれてきた。
おかげで 今や竜の草原には 魔獣たちが満ち溢れている。
コンラッドはスカイと相談して、ゴンが狩りの稽古をするときに、
ほかの魔獣や家畜たちをおびえさせることのないよう、
獲物候補をその都度 内輪山と熱川との間にある荒地に運ぶことを決めた。
レッスン1:魔羊のこども
おとなしくて柔く 牙も角もなく
大きすぎず小さすぎずの獲物から 狩りの練習だ。
5匹の子羊が荒地に放たれた。
ゴンは空から襲い掛かろうとしたのだが、羊は逃げる。
子羊は必死になって走る。
空からでは狙いがつけにくいと、ゴンは地面の上を走った。
ドタドタドタ
子羊は 急に向きを変えて、ゴンの足の間をすり抜け腹の下をくぐって逃げいてく。
ドラゴンは地面の上に立った状態では 素早く回れ右ができない。
さすが魔獣、幼い魔羊でも ドラゴンの弱点をついて 大胆に逃げていく。
「飛べ! 羽のあるものが地上を走るものと 地面の上で戦って勝てるか!
己の特性を磨くのだ。
空から 爪でひっかけるようにしてつかみ上げ 空から落とせ」
コンラッドがゴンに指示する。
「えっ そんな」(かわいそう)
「何を言ってる お前はいつもうまそうに食ってきたではないか!」
「は はい!」
ゴンは 頑張って 空から羊の背中をつかもうとするが
ドラゴンの足は両足で何かを挟むようにはできていない。
「爪を立てるのだ。爪を! 爪を肉に食い込ませてひきあげろ!」
「えーい!」(ごめん)
ゴンは思い切って 爪をたてて羊の背中に・・着地して圧死させてしまった。
「とびたて!」
「えっ」
「敵が後ろからくるぞ!」
「えっ えっ」あわてて羽ばたくが うまく飛びあがれない
変な風に着地したからだ。
「あのな 本物の荒野では、皆腹をすかして餌を取り合うんだ。
そんな風に仕留めた獲物の上に座り込んでいたら
背後から襲われて お前も敵の獲物にされてしまうぞ。
うまく 逃げ出せたとしても お前が仕留めた獲物は横取りされてしまう」
「だからこそ 獲物をつかまえたら 一人で安心して食えるところまで運ぶんだ」
コンラッドが ゴンに教えた。
「は はい」
「だったら その餌をつかんで わしの居るところまで運んで来い」
そういって コンラッドは ひょいと転移して 少し離れたところに行ってしまった。
ゴンは 頑張って一度立ち上がってから空に舞い上がり、
地面に横たわる羊を何とかかぎづめでひっかけて運んだ。
思ったよりも羊は重かった。
よろよろと フェンの待つ地点まで飛んで行った。
「よし 食べていいぞ」
「どうやって?
僕 爪が汚れて気持ち悪いよ」
「浄化魔法を使うのだ」
コンラッドは 自分の体にさっと浄化魔法をかけた。
ゴンもまねをする。
「よし。今度は獲物も浄化しろ」
コンラッドは 自分用に魔牛を1匹引き寄せ、
魔牛の頭を一撃して気絶させた後、浄化魔法をかけて見せた。
「よいか 地面に倒れている場合は、裏も表も隅々《すみずみ》まで
そして体の表面だけでなく体の内部まで浄化するのだぞ」
ゴンはコンラッドのやることをじっとみつめ
「自分の体の汚れを落とすときは 表面だけ浄化して魔力を節約
獲物を浄化するときは すべてを浄化するんだね?」と確認した。
「そうだ。 食べる前には必ず浄化魔法で獲物と自分の体を清潔にしろ。
これは腹痛防止でもあるし 血の臭いを消すためでもある。
なぜ血の臭いを消すのかわかるか?」
「獲物を横取りされないように?」ゴン
「そうだ。敵を呼び寄せると厄介だからな」
「うん」
ゴンは 自分が仕留めた魔羊を浄化した。
「さて 獲物の食べ方はいろいろある。
だから まず始めは 原始的な方法から教えよう」
コンラッドはそういって 自分の前足で羊の首筋を押さえた。
「ここに頸動脈がある。ここに歯をたてて血をすすれ」
ゴンは思わずかぶりついてしまった。
「血を吸うのだ 飲み込むのだ。血が飛び散らないように」コンラッド。
ゴンは興奮して気もそぞろ。
コンラッドは ゴンの頭を軽くはたいて落ち着かせた。
「いいか 俺が 魔牛で手本を見せる
よく見ておけ
そして 俺が 『よし』と言ったら 今度はお前が血を吸うんだ」
「はい!」ゴンは 尻尾で地面をたたいて催促する。
「その前に 生きている獲物の頸動脈に触れて 血の流れを感じてみろ。
興奮せず冷静に確認しろ」
コンラッドは 気絶させてあった魔牛の首筋に自分の前足を置き
「俺の足先に集中しろ」とゴンを促した。
「ほんとだ。首のところは 血の流れがわかりやすい。
血液って どくんどくんと血管の中を流れていくんだね!」
ゴンは意識を集中して魔牛の血の流れを感じとった。
「そうだ その流れの元をたどることができるか?」
コンラッドに促され、ゴンは魔牛の血管を流れる血の源流を探った。
「あっ!」
「そうだ そこが心臓だ。
哺乳動物の心臓はわかりやすい。そこから血液を全身に送り出し、
血を循環させるのだ。」コンラッド
「血液が入ってくる管と出て行く管があるね」ゴン
「よく気が付いたな」コンラッドは褒めた。
ゴンは コンラッドとともに、気絶している魔牛の体の中を流れる血液の循環を順にたどった。
「体をめぐっていくうちに 勢いが弱くなっていくね。」ゴン
「そうだ、勢いよく送り出されてまだ新鮮な血液が流れる頸動脈から血を吸うのだ」
そう言って コンラッドは 魔牛の首筋に軽く牙を立て 血をすすって見せた。
ゴンは食い入るようにその様子を見ている。
コンラッドは魔牛から離れ 「よし 今度はお前が飲め」と言った。
ゴンはコンラッドの牙で空いた穴に自分の口をつけて飲んだ。
「そうだ 血を飲むときは かみつくんじゃなくて 穴から飲むんだ」コンラッドはゴンをほめた。
「ふうー」魔牛の首から口を離してゴンは一息ついた。
「休憩する前に 必ず獲物を空間収納しろ」
ゴンは素直にコンラッドの指示に従い、自分がしとめていた魔羊を収納した。
「いい子だ 獲物から口を離したら すぐに空間収納だ
さもなければ 獲物を食う権利を放棄したとみなされるからな」
「たとえため息つく間だけでも?」ゴン
「そうだ 外の世界では 皆 飢えているから、
獲物をしとめれば満腹になるまで食う。
満腹になったら 弱いものにすぐにゆずる、が徹底しているのだ」
「わかった」ゴン
「口の周りの汚れは 自分でなめとるか 浄化魔法で汚れを落とせ」
「はい」ゴン
「では 次に腹を裂いて 肝臓を取り出すところを見せてやろう。
魔牛も魔羊も さほど腹の中はちがわんからな」
そう言って コンラッドは魔牛の腹の裂き方を実演しつつポイントを教えた。
さらに 牛の腹を広げて
「肝臓 ここは暖かいうちに食うのだ。今は空間収納しておくが」
さらに心臓・肺・胃・腸などの部位とその働きを説明をした。
胃と腸は別に取り出し その内容物もしっかりとゴンに見せ、臭いも嗅がせた。
「食料の余裕のある時は 肝臓と心臓だけ食べて すぐに肉を食べにかかるといい」
コンラッドは 牛の部位別肉質の違いを 実際に見せながら説明し
少しづつゴンに味見をさせた。
「ぼく もう おなか一杯」ゴン
「そうか だったら今日のレッスンはここまでだ。
わしは 失礼して 少し食事をする」
コンラッドは魔牛の肉のうち 柔らかい部分は ゴンの食事用にとり分けて収納したのち 自分の腹を満たしにかかった。
食べ残した骨などは きちんと空間収納した。
ゴンが捕まえられなかった4頭の魔羊は、次回のレッスン用に荒地に残しておいた。
ミューズの歌の威力により、荒地にも 草がはえ、魔羊4頭を養える程度には育っていたからである。




