顔合わせ
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王宮からは 馬車を出して送ってくれた。
スカイは 王都を一周してから 再び王宮の通用門まで戻ったら
馬車の扉を開けるように御者に伝えた。
「君 王都見物はしたのかい?」スカイ
「あー 町中歩き回ったさ」ミューズ
「もし見たいところがあるなら せっかくの馬車だ、送ってもらうが」スカイ
「いや いい」ミューズ
「そうか じゃあ飛ぼう」
スカイはミューズを抱えて門横の応接室に転移した。
馬車の中には「ご苦労様」のメモを残して。
スカイに抱きしめられたまま 土間に立ったミューズは言った。
「あんた なかなかやるねぇ」
「そりゃどうも。
君は 腹は減ってない?
トイレは大丈夫?」
「どっちも 朝すましたきりだから ここで できるならありがたい。」
スカイは 飲用水瓶などとは一番離れた土間の隅ある仕切りを指さした。
その中にはポータブルトイレと手洗い用に水瓶がある。
「そこで用を足して。
出したものは収納魔法で君の持ち物として収納してね。
君、手洗い用の水はいるかい?」
「水を用意しておいてもらえるとありがたいな」ミューズ
「了解」スカイは水瓶に水を満たした。
「ところで この町には 公共の捨て場とかあるの?」ミューズ
「ないねぇ。
君は 収納した汚物はいつもどうしてるの?」スカイ
「こっそり誰かのトイレに捨てるか、森の中に捨てに行くか」ミューズ
「ここは 臨時の場所だから 汚れ物は全部君が自分で持って出てね」スカイ
「やれやれ」
ミューズは仕切りの中に入っていき、スカイは少し離れた。
・・・
念話で呼ばれたボロンと清明がやってきた。
清明は さっそくサモワールで茶を入れた。
一同 応接セットに座って茶を飲みながら、スカイは二人にミューズを紹介した。
「エルフのミューズさん。
自分のことを「スイッチ」って言ってる。
なんでも 気分次第で男でも女にでもなれるそうだ」
「じゃあ 生物学的にはどっちなんです?
気分を切り替えると 肉体までその都度変化するんですかい?」清明
「竪琴をとりあげられたから 今は肉体的には女だよ。」ミューズ
「じゃあ 竪琴を使えば肉体変化をおこせるんですかい?」清明
「ノーコメント!
僕はもともと 男なの。
でも 竪琴を弾いて女性的にな気分になると女性に変身できるの。
スカイさんに会う時に 女性の姿のほうが同情してもらえるかなぁと思って
女性の姿で会いに来たの!
しかし 王宮では野郎ばっかりだし
スカイさんの友達も男性ばかりだと聞いたので、
気分はすっかり素の男にもどったの!」ミューズ
「その竪琴だけど 調べ終わるまで預かっていてもいいかな?
一応 安全確認のために」スカイ
「かまわないけど 君が女性に変身しても僕責任もたないし
君が男に戻る手伝いもしないから!」ミューズ
「まさか 勇壮な曲を奏でて男性的気分にならないと 男にもどれないのか?」
スカイの質問に しぶしぶうなづくミューズ
「それって 種族を問わず 効果があるとか?
まさか その演奏を聴いていた者にも 効果が及ぶとか?」ボロン
「あーあ あてられちゃった。
実はそうなんだ。
それでさ いたずらが過ぎるって 2000年前に追放されて
1000年の刑が終わってもどってきたら 仲間が消えてるんだもの
いったい 何がどうなってるんだよ!」ミューズ
「どこに追放されたのかは気になるし、ほかにも尋ねたいことは山ほどあるけど
とりあえず食事にしないか?
彼女は 朝たべったきりらしいし 実は僕もだ」スカイ
「ごめん 僕達先に済ませたんだ。」ボロン
「いいよ。空腹で待ってられるよりも 先に食べてもらった方が安心だね」
スカイは手を振って 実用的なテーブルとイスを3脚、ボロンのいすを土間に出現させた。
一同は 土間に降りた。
「君 食べ物の好みは?
食べられないものは?」
スカイはミューズに尋ねた。
「野菜とミルクが好きだけど、今は何でも食べる。
順応した。空腹には勝てないから」ミューズ
「それじゃあ 今あるものを出すね」
そういって スカイは 野菜スープ・カツサンド・スクランブルエッグをどんどんと出した。
「じゃあ 私たちは3時のおやつとしましょう」清明
ボロンはテーブルの上に果物とビスケットを出した。
「いただきます」
ミューズはきちんと両手を合わせてからサンドイッチをつまんだ。
「ねえスカイ 中のカツをひきとってくれる?」
「君 子供みたいだね」と言いながらスカイは自分の皿をミューズの前に置き
ミューズはそこに サンドイッチに挟まっていたカツを取り出して載せて返した。
ミューズは手元に残ったパンにスクランブルエッグを挟んで食べた。
それを見たボロンが「野菜サンドと卵サンドなら食べるかい?」と尋ねた。
「喜んで!」
ボロンは 土間の水瓶のそばに追加された小卓に行き、まな板と包丁を取り出して、
自分のマジックバックから出した食材でトマト・ゆで卵・レタスのサンドイッチをそれぞれ作った。
「ありがとう!」ミューズは軽く会釈した。
ボロンに作ってもらったサンドイッチを食べながら尋ねた。
「ねえ 人間とドワーフがいつから共同生活するようになったの?
それにすごく連携がとれてたけど
ドワーフって念話が使えたの?」
「それは 僕たちがいつからって意味?
それとも2000年前に比べて 今のほうが親しそうに見えるってこと?」スカイ
「両方」ミューズ
「それについては 食べ終わってから話そう」スカイ
「ところで 君は 食事の時もフードとコートを着ているのは 何か理由があるの?」ボロン
「さすがにビキニだとちょっと寒い」
「そもそも なんでビキニなんです?」清明
「目立たないように認識阻害のコートをいつも着てるんだけど
その下が ビキニのナイスバディだとみんなびっくりするじゃない
だからいざという時には逃げやすいかなって。
それと 男物の服は持ってるんだけど 女物の服はこれしかなくて」
あきれ顔のボロンと清明
「君ね 王様と僕の目があるから みんなつつましくしてたけど
ふつうはどこの街でも王宮内でも そんな下着姿でうろうろしてたら 襲ってくる男はいるよ。
君 女性化するなら 女性にまつわる危険性もしっかり認識して行動しなくてはだめだよ」
まじめな顔で説教するスカイ
「あーやだやだ
僕の神経が持たないから 食事中だけど話す」
突然 スカイはそういって王宮での経緯をボロンと清明に説明した。
「だからさ この非常識なエルフを僕一人で教育するのは無理。
君たちにも手伝ってほしい
一応 クランへの依頼申込金という形で 王宮から先払いでお金をもらってきたから。
クランとして正式に引き受けることになったら これこれの報酬、
この子がクランを卒業して独り立ちするときには かくかくの便宜と報酬が出るから」
とスカイは説明した。
「その件については もう少し検討させてほしい。
でも 今夜ここに 君の責任でこの子をここに泊まらせることに 僕は反対しない」ボロン
「不承不承承知ってことで」清明
「キャーボロンさんありがとう♡」
嬌声を上げてボロンに抱き着こうとするミューズの前に両手を突き出してとどめるボロン。
ミューズの襟首をつかんで引き留めるスカイ。
「もしかして こういうのをぶりっこっていうんですかい?」清明
「ぶりでもはまちでも マグロなら歓迎だけど、
ぶりっこは御免被る」ボロン
「えっ 君 ぶり・はまち・マグロを知ってるの?」
身を乗り出すミューズ
「書物で読んだ」ボロン
「その本みたい!」ミューズは真剣に言った。
「少し落ち着いて
先走らないで。
本の話は次の機会に」
スカイはミューズを押しとどめた。
「君 この部屋の隣に寝室を用意するから 少し休んだらどうだい?
僕達も いろいろ君のことについて内輪で話し合いたいから」
「だったら 先に秘密厳守の誓いをたてます。
私エルフのミューズは、スカイ・ボロン・清明それぞれと出会ってからのことについては
一切他言致しません
君たちが大切に思っている人たちに迷惑になることはしないことを、
また君たちや君たちが大切にしている人たちの秘密は全て守り抜くことを誓います」
片手をあげて宣誓したあと
「ね これでもう安心だろ」と小首をかしげて笑った。




