接客スペース
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スカイたちは相談の上、ミューズの面接は、門長屋で行うことにした。
スカイの国の門長屋は、塀を小屋の壁に兼用した建物である。
そこに門番たちが居住するのだが、
門番不在の空っぽの建物を、接客スペースとして使うことにした。
腰の高さの上がりかまちの奥のスペースに、
ソファとテーブル、花柄の食器が入った食器棚を入れた。
建物の性質上、窓が狭間(銃や弓を打つための小さな穴)形式なのがご愛敬
「なんで 内側の庭向きの窓が こんな小さいのですか?」清明
「明り取り兼用だからさ。
もし敵が門を破って押し入ってきた時は、ここに立てこもった衛兵たちが
中庭の敵を狙撃できるようにとりつけてあるんだ」スカイ
「まるで 要塞みたいですね」ボロン
「要塞として使えるだけの防備はされているね」スカイ
「ということは、外側の壁にも隠し狭間があるのですかい?」清明
「ノーコメント。
とりあえず タペストリーでもかけようか。殺風景だから」スカイ
食器の花柄が引き立つウォールナット製の食器棚の後ろには
草原模様のタペストリーをつった。
棚の右側には森の景色の、左側には小川の景色のタペストリーだ。
「すごいね。まるで森の中のような雰囲気になってきましたよ」清明
「だったら絨毯もそれらしく」
深緑の絨毯が敷かれた。
そして 狭間のある壁には、小鳥やリス、小花模様の刺繍の額がさりげなくかけられた。
「お見事! 応接間のできあがり」ボロンも感心したようにうなった。
上がり框の手前の土間の部分には 水瓶とかまどがあった。
「ここで 湯を沸かしてポットをテーブルまで運ぶのは 清明に頼んでいいいかい?」スカイが言った。
「了解」清明
「それより 食器棚の横にサモワールを置こうよ。
その方が様になる」ボロン
「サモワール?」スカイ&清明
「君の物置にあったじゃないか。
湯沸し器=サモワールが」ボロン
「ごめん 覚えてない」スカイ
というわけで3人は屋敷の地下に引き返し、
ボロンが箱の中からサモワールを取り出し その使い方を説明するのを聞いた。
「すごいなあ 下側で湯を沸かし、蛇口から出てきた熱湯で紅茶を入れて
さらに紅茶ポットを上にのせて保温までできるのか!」スカイ
「もしかして 子供のころ 部屋の片隅で いつもシュンシュン言っていて、
私が絶対に近づいてはいけないと言われていた細長いものの正体はこれだったのかな?」清明
「スカイ 君は 一人でいるときに茶が飲みたいときはどうしてたの?」ボロン
「かまどを使うか、魔法を使うか」スカイ
「さすが魔法使い!」清明&ボロン
「このサモワール ほかにもあれば、私たちの宿泊室や、コンラッドたちのところにもいくつか持って帰りたいですね!」清明
「ほかにもあればね」スカイ
「ミューズさんが帰った後、一緒にこの部屋の中をもっと見て回りましょう!」
清明はボロンを誘った。
というわけで 4人分の湯を沸かせるサイズのサモワールとサモワールの横に置く
おしゃれな水瓶と小卓も接客スペース改め、門脇の応接間に運び込んだ。
ちなみに かまど横の水瓶は、マーブル模様
サモワールの横の水瓶には、白地に青で水辺の光景が描かれている。
サモワールとひしゃくは銀製である。
(銀器は磨くのがめんどうなんだけどなぁ)スカイは心の中でつぶやいた。
部屋の中央には応接セットが置かれた。
ソファは優美なカーブを描く藤製の枠に
花柄のクッションや、深緑や枯葉色のビロードのクッションが収まっている。
その前に置かれたテーブルは 藤製の枠に、陶板があしらわれた天板がはめ込まれていた。
意匠は 水色のグラデーションを基調にした天板の四隅に、
鴛鴦(左上)とメダカの群れ、
鴛鴦(右下)と水草の間のを泳ぐ金魚が、それぞれ対となって描かれている。
(鳥と鳥、魚と魚がそれぞれ対角線上にある)
水色のグラデショーンは、鳥が立てた波紋にも
小魚のそばを流れるさざ波のようにも見える。
サモワールの横の小卓は素朴な形をしているが、
マホガニーの優しい色合いと光沢のある落ち着いた木調が
軽やかな落ち着きを示していた。
「ここまで来たら カトラリーは銀製ですね」清明
「いや 手入れの簡単なステンレス製でいいよ」スカイ
「へっ?」清明
「ドワーフの技術の粋を見せましょう」ボロン
(実のところ 加工技術のむつかしさ・新鮮さ・希少性により
ステンレス製のフォークやスプーンのほうが 銀製品よりも高かったのだ。スカイたちの世界では。
そして城勤めの人々は、銀器磨きにうんざりしていたので
ステンレス製のカトラリーを持つ主を口を極めてほめたたえ、称賛して触れ回ったので、
貴族の間では 誰よりも早くステンレス製のカトラリーをそろえることが
ステータスとなっていた。
なにしろ 注文してから手元に届くまで10年待ちというほどの希少性と人気の沸騰ぶりであったから。)
「ああそうだ、沓脱でちゃんと履き替えてもらえるように スリッパも用意しなくては」ボロン
「来客用には すっぽり足を包み込んで履きやすいベロアの室内履きを用意しよう。
色は落ち着いたブルーと茶色の2色でいいかな。
僕達のは 靴底が子羊の皮の布靴でどうだろう?」スカイ
「そんな サイズぴったりの室内履きがあるのか?」ボロン
「それがあるんだよ。こちらへどうぞ」
スカイは倉庫その2に案内した。
そこには 使用人のための制服や 宿泊客のための室内履きが各サイズそろって保管されていた。
「なんと 土間で履くつっかけまであるじゃないか!」ボロン
「ということは 土間の脇の下足箱に 来客の靴は収納したほうがいいね」ボロン




