食器選び
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翌朝、拠点のポストにミューズからの手紙が入っていた。
それには
「あさってから所要で、でかけます。
王都に戻ってくるのは1か月後です。
念のため 明日の朝9時から日暮れまでこちらの門の前で待たせていただきます。
お目にかかる日を楽しみにしています!」と書かれていた。
「あいかわらず 自分の連絡先を知らさない人だなあ」スカイ
「わけありなのか、無鉄砲の考えなしなのか、世間しらずなのか・・・」
ボロンは顔をしかめた。
「とりあえず、今日のところは 気持ちを切り替えて、拠点の手入れをしましょうや。
まずは食器選びから!」清明は明るく言った。
・・・
というわけで 簡単に朝食をすませたあと、ボロンは必要な調理器具を書きだした。
そんなボロンに清明は声をかけた。
「まめですねえ」
「だって スカイに調達してもらうんだから」ボロン
「えっ それよりも道具保管庫に案内するから そこからいるものとって」スカイ
「はっ?」ボロン
スカイに先導され 一同は地下室に向かった。
「一応 この建物を下賜されたときに ひととおりのものが付いてきたんだ。
ただ 出しっぱなしにして埃をかぶったらいやだし、
どこに何を置いたか覚えておくのも面倒だから
梱包したまま保管庫に入れたんだ。」
保管庫には、食器類は食器棚に収まった状態で、調理器具は説明の書かれた箱に入った状態で種類ごとに置かれていた。
「なあ ミニキッチンは3人用の料理しかしない前提で
俺が使いやすそうなものを中心に選んでいいか?」ボロン
「そういえば人間用の器具だけどかまわないのかい?」スカイ
「大丈夫。使いにくかったから 王都に居るときの料理は君たちに任せるから」ボロン
「まかされましょう。
私だって できることを増やしたいですからね」清明
「箱はどうする?」ボロン
「箱ごと持って行ってください。
向こうで箱に書かれている説明書きを見ながら 私が取り出したいです」清明
「了解」
ボロンは、鍋・釜・フライパンの類だけでなく、ふきんなどの小物まで一式そろえて取り分けた。
その間、清明は食器棚に入った食器を丹念に見て回った。
(コペン)
「白地に青い模様。渋いですねえ。
ビングオーグレンの冬景色は素晴らしい」清明
「僕はコレクションをこれ見よがしに居間にかざるよりも
さりげなく 食器棚に1枚か2枚飾られているのを見るほうが好きだな」スカイ
(ウッド)
「こちらは 金線または派手な花柄がポイントですね」清明
「花柄は好きなんだけど 主張が強すぎて、食べ物の味がわからなくなるよ」スカイ
「ずいぶん 食器の好みにうるさいんですね?」
清明はスカイの顔を見た。
「食器のブランドイメージを押し付けられるのが嫌なだけ。
食事はあくまでも 料理そのものを楽しみたいから
食器はそれをひきたてる物であってほしい。
いくらデザインが良くても
食器の味がしそうな主張の激しい器は嫌だよ。
へやの飾りとして こうしたコレクションが食器棚に収まっているのを見るのは好きだけどさ。
そうして二人は次々と食器を見ていき
「やっぱり ノリタケとか柿右衛門とか久谷のように
素朴さと職人の個性や技が自然に感じられる食器がいいですね
マイセンの土台にたち吉の意匠が載っていたらいいのになぁ」清明
「あはは フォルムは景徳鎮 模様は和
君の感性に僕は共感するね
ちなみに ここにあるマイセンはかなり古いデザインで
最近のは気持ち悪いと僕は感じてる。」スカイ
「景徳鎮のフォルムは 見ていて心に安らぎや調和をもたらし
和食器のフォルムは 手になじみ 唇に心地良さを与える
触感・掌が重視だもの。」スカイ
「見せることを主目的にした これらとは
和食器の生産者のセンスが根本的に違うってことですね」
清明は 洋食器が収まる棚に手を振った。
「そもそも 唐渡りのイメージにひきづられて
自由に発色できる技術を持ちながら、
わざわざプラチナブルーとかなんちゃって青色系の独自色をブランドイメージに持ってくるなんて 虚飾そのものじゃないか。
食器の薄青い色は 盛った料理の味がまずそうに見えて食用が失せるよ
藍の落ち着きとブルーの寒々しさのイメージの違いに無頓着な王族の趣味がわからん」ボロンがボソッと話に加わった。
「王宮の宴会は 食べるためではなくて 見せびらかすためだもの。
毒に警戒してる人たちの集合体だから、見栄えがすべてなのさ。
だから 水色・金色・原色の花・珍奇な格好の人の絵や ごてごてして重くなった絵柄が好まれる。
食事と料理を楽しみ 食材を味わい 自分が使って幸せを感じる食器づくりを目指す和とは 根本的に違うんだ。
ああ でも水色系の配色が好まれるのは、もしかしたら王侯料理のソースが茶色や臙脂色をしているのも関係しているかもね。
野菜や魚類の素朴な色合いの映える和食器と 食器の色感覚が違うかも」スカイ
「そうか! 肉の色も赤~茶色系だから 寒色が皿に使われていてもバランスが取れるのか!
今度 ドワーフ学校の教科書編纂係に、王侯料理の調理と器の色映りの項目を検討するように伝えなくっちゃ」ボロン
「最近では 高位の貴族は 白一色で食器に表面に凸凹つけて
その技術の高さ=財力を競い合うんです」
悲し気な口調で清明が言った。
「そういえば 君の実家の主力産品の一つが食器だったっけ?」スカイ
「そうなんです。
だから 今まで聞くだけだった食器の細かい違いを、この目ではっきり見ることができて 良かったです」
清明はスカイに一礼した。
「どういたしまして。
だったら この家に詰まってる 王族好みの調度品を全部その目で見て触れて確かめていいよ。
たぶん 君の家にあったものと そんなに違いはないはずだから。」
スカイは 清明に暖かく答えた。
「それにしても ドワーフって ほんと聞きしに勝る研究熱心だったね。
それに そんなに学校教育に力を入れているとも知らなかったよ」スカイ
「いえいえ 食器だけを見て、そこに盛られる料理の違いまで考えてなかった僕が浅いんです。
さすがに 王侯料理については考えが至りませんでした。」ボロン
「それを言えば うちの実家は 庶民の料理をもっとよく見て、食器の購入層の拡大を図るべきかもしれないですよ」清明
「だったら 何も考えずに宮廷で食事をしていた僕の立場がないじゃないか」スカイ
「そこが商人とそうじゃない人の違いだよ」ボロンは苦笑いした。
「おやぁ 商人って人をだまくらかして金儲けするんじゃないんですかい?」清明
「それ マジなら怒るよ。
ぼったくりや詐欺師と、まっとうな商人はちゃんと区別してほしいなぁ」ボロン
「あぁあ 人間も 王道の商売について 学校で教えるべきかもしれないなぁ・・」スカイ




