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ドラゴンクラン 幼龍編  作者: 木苺
    エルフのミューズ
46/112

王都の拠点

(1/9)

「スカイも清明もこざっぱりとしたところで、王都に行ってエルフのミューズさんの面接をしますか」ボロン


というわけで王都の拠点に転移した3人組。


今度はボロンと清明が物珍し気に、スカイの別宅=ドラゴンクランの拠点の中を探索して回った。


「建物は豪華なのに 一部を除き中身は空気だけ

 スカイさん この建物をどういう使い方していたんですか?」清明


「あててみて」スカイ


「接待用」ボロン


「もっと詳しく」スカイ


「門から玄関まで敷石が敷き詰められていて、脇には石像。

 ほんの少しの手入れで見栄えが維持できる造り。


 入口からホールを経て応接室までは 毛足の長い絨毯

 これも 埃が目立たず豪華に見える。

 花の絵・風景画・タペストリーや彫刻などがバランスよく配置されているので

 生花を飾らずとも季節感や 華やかさを演出できる。


 応接室には 窓から庭を眺めていると錯覚させる壁画が描かれている。

 これも 花・泉・小動物がうまくあしらわれているから

 まるで手入れの行き届いたプチトリアノン風だ。

  わかりやすく言うと 王女様が思い描く田園風の庭だね。


 というわけで 王族、もしかしたら王子または王女様が息抜きに来る時の接待所」


「ご明察

 もしかして ドワーフって 造園のために 庭とか建物の装飾史も基礎教育のうちなの?」スカイ


「ピンポーン」ボロン


「標準的な人間よりも、ドワーフのほうが人間の生活様式に詳しいような気がしてきた」スカイ


「そりゃあ 人間は大切な顧客だもの。

 お客様にご満足いただけるサービスを展開して しっかり稼ぐ! これ大事。

 そのためには 顧客の生活様式から思考と嗜好をしっかりとリサーチするのは当たり前だよ」ボロン


「なんか 君と付き合っているうちに、僕の既成概念がガラガラと崩れ落ちていく音が聞こえるよ」スカイは嘆息した。


「ボロンの旦那、私にもそのドワーフの教本をみせてもらえませんかい。

 こういう 家とか庭とかの装飾・様式の解説書」清明


「そうだね。公爵家を継ぐ基礎教養になりそうな本を探しておくよ。

 でも ちゃんとお代は払ってね」ボロン


「げ 仲間から金をとるんですかい?」清明


「あのね ドワーフは図書館で本を借りて勉強するから

 個人で本を所有するのは ほとんど道楽の範疇なの。

 で、僕は庶民だから 本は持ってない。

 職場で使う本は職場の備品だし、勉強するときは公共の書庫の本を利用するから。

 でも 人間は本を所有したがるでしょう?

 だから君の勉強用の本は、君が自分で購入しなくちゃだめだよ。

 僕ができるのは 本の選定と紹介だけ。

 ほんとは、本を売ってくる人を見つけるのにも諸費用が掛かるんだから

 それが高額でなければサービスするのは

 僕の自腹を切ってのサービスなんだからね!」ボロン


「あっ だったらドワーフが本の取次と販売業をやると、

 人間も本を手軽に購入できるようになるかも」スカイ


「そりゃまたどうして?」清明


「人間たちの多くは 本を骨董品や装飾品のような商品としか考えないから。

 ドワーフのように 知識・教養の伝達道具=本と考える人たちが

 本の売買を仲介したほうが、本当にその情報を必要とする人から人の手て

 本が移動していくかも」スカイ


「それは あくまでも 本を読む人、本を買う人間がまともだったら、

 ってことが前提ですよ」ボロンが渋い顔で言った。


「もしかして かつて ドワーフが本の仲介で人間から痛い目にあわされたとか?」スカイ


「ドワーフギルド発足当時ね、

 人間から本の売買の仲介を頼まれて みんなひどい目にあわされましたよ。

 それ以来 ドワーフは 人間に本を売らない・貸さない・仲介しないことになりました。

 だから 清明さんが必要な本だって、

 清明さんがお金を出してギルドの備品として購入する形式にしてもらわないとね」ボロン


「それって あっしが損になりますよね」清明


「ドワーフなら 自分が必要な知識を得るために本を買ったら

 それを後継者に伝えるために公共図書館に寄贈するのはあたりまえのことと

 考えますがね。

 その方が 本の管理や保存を自分でしなくていいし、

 確実にその本を必要な人の手に読書の機会を引き継いでいけますから」ボロン


「カルチャーショックだ!!」清明&スカイ


「知識は 仲間の共有財産です。

 だから濫用したり悪用してはいけない。

 いつだって 人の幸せのために使わなきゃいけないんです。


 それを人間は 私利私欲のために占有したり隠匿したり

 あえて曲げて流布しようとするから」ボロンは顔をしかめた。


「ドワーフがドワーフとして、ドワーフらしく生き続けられますように!」

スカイは祈った。


・・・

「さて、僕たちの宿泊室なんだけど、相部屋でいいかな?」

スカイは、清明とボロンを連れて2階の東の角部屋に連れて行った。


廊下の突き当りのドアを開けると広々としたミニキッチン付きの部屋があった。

東側に大窓。


そして入口近くの右の壁(=南側)のドアを開けると、ウォークインクローゼットのついた寝室。


そこにはベッドが一つだけだったが、追加で2つのベッドを入れてもまだ余裕だ。

南側には大窓。


ウォークインクローゼットと反対側つまり、寝室の東隣は

洗面脱衣場付きの浴室だった。

 洗面台とWCは人間用とドワーフ用がひとつづつあった。


浴室には南向きの窓と東向きの窓に囲まれたジャグジーがあった。

「洗面台は 浴室に一つと脱衣場に2つ

 シャワーは浴室に一つしかないけど、

 身体を洗う時にジャグジーから湯をすくってもいいよ」スカイ


「すごいな、あとで配管をのぞかせてもらってもいいかい?」ボロン

「どうぞ」スカイ


「冬場の暖房はどうなってるんですかい?」清明

「ストーブを使うよ」スカイ


「ストーブって?」清明

(清明は 眼が悪かったので、ぶつかってやけどをしないよう

 暖炉のある部屋で育ったのだ。

 またこの世界では ストーブは超高級品で 王族か公爵家あたりでしか使われなかった。

 そこで スカイは 物入の中からストーブを出して使い方などを説明した。)


というわけで 3人は王都の拠点の豪勢な部屋で合宿生活をすることになった。


・・・

スカイは「人間サイズで悪いんだけど」と言いながらベッドを二つした追加した。


「ぼくには足台を頼む」ボロン

「いいよ どこに置く?」スカイ

「入口に近いベッドを僕用にすれば 足台もじゃまにならないだろう」ボロン

「OK」スカイ


「差支えなければ 私は窓側のベッドがいいです」清明

「じゃ 僕は真中」スカイ


3人はそれぞれ 自分のベッドに近いクローゼットの扉を開けて荷物をしまった。

 ウォークインクローゼットなので、引き出しや服釣り、小物入れ・棚などがうまい具合に配置されていた。

「すごいなぁ これらは全部可動式で配置換え自由。

 そしてビスで固定するから安定して仕える仕様じゃないか」ボロンは感心した。


「もしかして 今、3人分のクローゼット家具を配置したんですかい?」

出入口に近い四つ目の扉をあけて、そこにはクローゼット家具がないことを確認した清明が尋ねた。


「まあね」スカイが謙遜して微笑んだ。


ボロンは自分のスペースと隣のスカイのウォークインクローゼットスペースを見比べて

「おお!ドワーフ仕様と人間用仕様

 これって 最初から作り付け家具として両タイプ用意されてたんですか!?」


「正確に言うと 家族連れが利用することを想定して いくつかのタイプのパーツが用意されていたんだ。最初の設計時にね」スカイ


「この建物を建てた棟梁にお会いしたいなぁ。

 もし ご存命なら」ボロン


「うーん そこまで考えたことがないから・・

 機会があれば 調べておくよ」スカイ


「じゃあ ベッドはどうして大人サイズしかないんですか?」清明


「ベビーベッドを卒業したら 子供たちもシングルサイズのベッドを使うからさ。

 ボロンも 並んで寝るのに ベッド面の高さが違うと嫌だって言ってたろ」スカイ


「なるほど そういうものですか。」清明

(清明は 物がはっきりと見えるようになってからの日が浅いので、大きさや高さを比較する感覚に疎かったのだ。

 見た目のイメージよりも 手で触って確認して使い心地良いサイズが一番という実用主義だった。)


挿絵(By みてみん)


「ダイニングテーブルは・・」

がらんとした部屋に どの家具を取り出して置こうかと迷うスカイに、ボロンは言った。

「人間用のテーブルに 僕には脚の長い座面のゆったりとしたいすを頼むよ。

 子供用のいすは窮屈だから」


「だよね。人間の子供にとっても あの子供用いすは窮屈だよ。

 5・6歳~10代前半まで用のいすのかけ心地をもっと重視すべきだと思う」スカイ

 そして スカイは、ニコリとしてボロンの体格にあった椅子を取り出した。


それは外側は少し凸凹していたが 内側・特に座面は丁寧な造りで

ボロンが試しに座ってみると 座り心地がよかった。


「いいね これ」ボロン


「気にってくれたかい?」スカイ


「ああ ちょっとよじ登るのが嫌だけど」ボロン


「足台を取り付けよう」

スカイはどこからともなく取り出した横木を椅子の前側に取り付けた。


「どうだい?」


足台を使って椅子に座り 足を台に乗せたボロン

「ぴったりだ。

 高さ調整付きの座面や足台って気が利いてる」


「それ、僕が子供のころに作ったんだ。

 設計はフェンだけど、作ったのは僕。

 初めての工作だった」スカイ


「ほー。そんな思い出の品を使わせてもらっていいのかい?」ボロン


「椅子は 座るためにあるんだ。

 君なら大事に使ってくれると思うし」スカイ


「もちろん。よろこんで」ボロン


・・

王都につく前は、王都のお店での食事を楽しみにしていた清明だったが

スカイの別荘の中を見て歩いたり、宿泊の準備をしているうちに疲れてしまい、

それに せっかくの宿泊室を存分に使ってみたかったので

外食せずに ミニキッチンでお湯を沸かして、

作り置きの食事を空間収納から取り出して食べた。


「なんかこう 住んでくれる人を待っている部屋って感じがしますね。

 食器とか カーテンとか揃えたいなぁ」清明


「しょうがないなあ。

 面接のめどがたったら、僕の収納品を使って

 部屋の飾りつけでもするかい?」スカイ


「えっ いいんですか?」清明


「まあ いいんじゃない。何事も経験だから」スカイ


(スカイと清明 まるで新婚さんみたいだ)

二人が装飾について語り合うのを見て、ボロンはくすっと笑った。

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