クラン登録
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スカイが戻った翌日、ボロンはゴンやコンラッドと過ごすために大洞窟へ出かけた。
そして スカイと清明は スカイの部屋でゆっくりと葡萄酒をたしなみながら話し合った。
「それでは 私にもコンコーネ家の財産はわけ与えられていて、
それを受け取るためには 一度王宮に行かなければいけないというわけですかい?」清明
「そうだね、王が君と話したいと言っている」スカイ
「もしかして 財産の分け前にあずかるには 爵位を継承する必要があるとか?」
「爵位継承に関する話が出るかもしれないが、
爵位を継承しなくても、もともと君に割り当てられていた終身年金は支払われるよ。
そして その年金を円滑に受け取るためにも
君は王宮に行って王様から一筆もらって置いた方がいいと思うけどね。」
「なんだかねぇ、今まで私は人を恨まず前向きに生きる努力はしてきましたが
それでもやっぱりね ちょっと『人間って怖いな』って感じる部分もあるんですよ。
だから そんな魔窟のような王宮に一人で行きたくないですね。
申し訳ありませんが スカイさん 私に付き添ってくださいませんか?」
「だけど ぼくもその魔窟の住人だったんだけど」
「うーん でもクランの仲間でもあるわけでしょう。
というか この際だから私たちの集まりを「クラン」と正式に名乗れるようにしましょうよ。
一人ぼっちの清明より、クランの清明のほうが心強いなぁ。」
「あのさあ クランを名乗ると登録しないといけないんだよ。
そうすると 必然的に拠点の登録と業務の請負をしなければいけなくて・・
せめてゴンが冬でも外を自由に動けるようになるまでは
彼の存在を隠しておきたいから クランの登録は避けたいなぁ」スカイ
「でも 王様の前で 私がスカイさんの従者だと言ってしまうと、
これから私が出稼ぎにいくときに いちいち
『スカイさんの許可はとったのか?』とか
『そんなにホイホイ出歩いて従者といえるのか?』とかって
突っ込まれそうな気がするんですよね。」
「確かに それはあるかも・・
君 もしかして いろいろ人から煩わしい質問をされたことあるの?」
「そりゃあ 心眼使いと名乗るようになる前は、「盲人のくせに~できるのか?」って
良くも悪しくも 意地悪くもあるいは親切心から いろいろいろいろ聞かれましたもの。
『心眼使いだ!』って宣言してからは 世間様も 『そういうもんか』って見てくれましたけど」
「そっかぁ。これはコンラッドに相談したほうがいいね」
・・・
スカイはコンラッドに清明からの話を伝えた。
コンラッドはボロンを連れて城に戻ってきた。
「お前さんを信用していないわけではないが
お前さんがこれから王宮に行くのなら ゴンの越冬場所を知らぬ方がよい。
王宮には 人の頭の中をのぞくことを専門にしている魔法使いがうじゃうじゃいるからのう、
知らなければ探られようもないからのう」
珍しくコンラッドが(ゴンのもとに清明達を引っ張らなかった理由を)清明に言い訳した。
「確かにそうですね。
私が思っていた以上に 世の中には悪い人が多いって最近気が付きましたよ」清明
「人間は 騙されて傷ついても 自分をしっかり持って立ち直り
騙されず・騙さぬ生き方を貫くことが大事じゃよ」コンラッド
「教訓ありがとうございます」清明は苦笑い
「教訓というより人生訓だよ、コンラッドお得意の」
スカイがとりなした。
「それで クランを発足させるという話じゃが・・・」コンラッド
「僕もギルドで君との関係を聞かれたときに、なんて答えようか迷ったんだ。
だから できることならクランの体裁を整えることができたら便利だというのはわかる」ボロン
「隠すべきは ドラゴンの存在
示すべきは 僕たちが同志であること そしてその理由 かぁ」スカイ
「探究会ってどうだい?
僕はドラゴンの謎を
スカイは深淵なる真理を
清明さんも何かを追求するために
僕たちが同盟を結んだってのは」
「活動内容は、家事の分担、生活費の分担、それぞれの課題追及に必要な作業の助け合い、
活動場所は 僕の家
ってことにすれば・・・
クランの名称が『クラン』でもいいかな?」スカイ
「『クラン・クラン』にしましょうよ。
私が追求するのは『わけわかんないこと』だから
頭がクラクラするので クランの名前も『クランクラン』」清明
ぷっとコンラッドが噴き出した。
「それで クランの登録場所はどこにする?」スカイ
「ドワーフギルドにしよう。
あそこは僕の古巣だから。
それに ドワーフは人間と付き合うことに慣れているけど
人間は ドワーフと付き合うことに慣れてなさそうだから
ドワーフのいるクランは ドワーフギルドに登録したほうが
僕にとって楽だな」
「ほんと くだらないことに悶着つける人間が多いんだよなぁ
もしかして ボロンも 『ドワーフならドワーフの世界に引っ込んでろ!』とかって言われたことあるの?」スカイ
「僕はずっとギルド員だったから、『ドワーフなのに 人間のことまで気にかけてくださって』といわれたんだよ。
まあ 『引っ込んでろ』と表裏をなす発想だとは思うけどね」
「じゃ クラン会長はボロンだ。」スカイ&清明
「そりゃまた短絡的な。」ボロン
「だって ドワーフギルドに登録するとき 君が手続したほうがわかりやすいじゃないか。
何年かたって 君が誰かと会長を交代したくなったら その時にまた話し合えばいいさ」
「確かに まあそうだよね。
でも クランの拠点に君が居た村の住所を使ってもいいかい?
僕には登録できる家がないから」
ボロンがスカイに尋ねた。
「めんどくさいから 王都にある僕の別宅を登録住所にしよう。
あそこは 王家から僕に下された土地だから 僕以外の誰も詮索できないんだ。
王様がOKっていえば それでクランの拠点として監査無しで使い続けられるからちょうどいい」スカイ
「君って そんなに簡単に 王様からOKを言ってもらえるんだ」
あきれたようにボロンは言った。
「そりゃね 元宮廷魔術師で この容姿ですから」
そういって スカイは優雅に髪を持ち上げて見せた。
キョトンとするボロン&清明
「スカイの外見は皇太子そっくりなんじゃよ。
世間では スカイが影武者を務めるためにそういう変装をすることを特別に王から認められていると思われておる。
それほど信任の厚い宮廷魔法師だから 王様からの特別待遇も当然のことという意味だ」
「それはすごいですね」
コンラッドの説明を聞いた清明とボロンは相槌を打った。
「コンラッドは もし宮廷魔法使いのスカイや王宮と、
ドラゴンのゴンが対立することになったら どっちの味方をするんです?」
清明とボロンが異口同音に尋ねた。
「僕がゴンと対立することは絶対にない。
もし王家がドラゴンに手を出すなんてトチ狂うことになったら
僕は絶対に ドラゴンを守る側につくよ」
スカイはきっぱりと言った。
「わしもそう信じておる。
それに 俺は誰を敵にすることになっても ゴンの見方だ」
コンラッドも重々しく言った。
「だったら 私たちが知り合ったのは ドラゴン好きのボロンさんにひかれたからだということで、
会長のボロンさんの発案でクラン名を『ドラゴンクラン』にしたってことにしたらどうですかい?
その方が 説明としてはすっきりする」清明
「なるほど ボロンの1年休職は有名だったから
僕たちがそれぞれ好奇心からボロンに声をかけて
そこからお互いの交際が深まって
各々の探求を円滑に進めるために
共同生活をしようとクランを立ち上げたってことにするんだね」スカイ
「そうそう ゴンのことだけふせて あとは自然の流れに沿っているから話しやすい」清明
「でも 僕の休職の成果を訪ねられたらどうするんです?」ボロン
「『なぞは謎のままだから 今も探究中!』でどうかな」スカイ
「それで 今も 竜の山をめぐる街道筋に 時々ボロンさんが出没するということですね」清明
「ちょっと僕が残念な人に聞こえる説明だけど 其れは我慢しないとだめかな」ボロン
「実地研究から書籍探究に方向を変えたってことにすれば
君が僕とつるんでいる理由には十分だと思うけど」スカイ
「スカイさんの蔵書はすんばらしくて 数も多い!
それを全部読み終えるには ドワーフの一生がかかるかも?!ってことで」
笑いを含ませて清明が言った。
「そして君は目が見えるようになった喜びと戸惑いを盛大に話して
僕達二人と一緒にいるんだって言いふらせばいい」スカイ
「結局おいしいところは スカイさんが持ってっちゃうんじゃないですか!」清明&ボロン
・・・・
清明とスカイは王宮に行き、
清明はコンコーネ家の嫡子として正式に爵位を継承し、
財産を引き継いだ。
ただ これまでの事情を考慮して、しばらくの間公爵領は王家預かりとなった。
王家が公爵領を預かっている間は、その収益の半分を王家がとり
残り半分を、清明の終身年金に上乗せして、王家から清明に毎年支払われることになった。
そして
『清明の学習を助けるために結成されたのが「ドラゴンクラン」
そのメンバーは 苦境にあった清明を助けたスカイとボロン。
また 少年時代の清明を支えたドワーフギルドに謝意を表すために、
ドラゴンクランの登録はドワーフギルドで行うと決定され、
王からドワーフギルドにクラン結成の推薦状が発行された。
ちなみにクランの名称は 中2廟の清明がつけたと王は言っている』
と公式に記されることになった。
・・・
王宮から帰ってきたスカイと清明の説明を聞いてボロンは呆れた。
「王宮に行く前に あれだけ時間をかけて相談したのに、全然違う話になっている」
「そりゃあ 王宮は魔窟だもの」スカイ
「良いではないか?
クランのカモフラージュとしては 王様の案が一番もっともらしいのではないか?」コンラッド
「ていうか
『何か希望はあるか?』『クランを作りたいです』
『クランを作って何をするのだ?』
『見えなかったときに見ることのできなかったことをいろいろ見て回りたいのです』
の一言で あそこまで話を持って行っちゃたんだよ王様は」
ちょっとふくれっ面の清明
「さては 世間知らずのお坊ちゃんの中2廟って断定されたので、すねてる?」ボロン
「当然じゃないか!私は25歳なんですよ」清明
「でも お金は欲しいけど 公爵領の統治は無理っていえば
それくらい言われることを覚悟しなくちゃだめだよ」スカイ
「はいはい わかりました。
とにかく これで 私はここと外とを自由に行ったり来たりできるようになったのだから
感謝してます」清明
「わしとしても 竜の山に触れずにすべて片付いて万々歳だ」コンラッド
・・・
王様からの推薦状をもって清明と一緒にギルド登録に行って帰ってきたボロンは 皆に報告した。
「ハタハタ村のギルド長は とんでもないお荷物をまわされたとぼやいたし
俺は、公爵家の坊ちゃんのお守をまかされたら、
当分ギルド職員として復帰できなくても仕方がないなぁと同情されたよ」
「『王家がコンコーネ家の内紛につけ込んで、公爵家の所領を半分乗っ取って、
世間知らずの嫡男をうまく手名付けるために作ったクランだ
そのお目付け役に宮廷魔法師のスカイをつけたんだ』って言われなかったかい?」スカイ
「『~という噂が立つかも知らんが気にするな。
王は長期的展望を持った公正な方だと俺は信じている。
お前は お前の幸せを追いかけろ』って言われたよ」ボロン
「僕は あの狸親父の王が結構気に入っているんだ。
そのおやじに そういう評価を下してくれる人いるとうれしいね」スカイ
「とにかく 下手な言い訳を考える必要がなくなってよかった!」が全員の感想である。




