2週間後
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スカイが出かけて2週間後、スカイはボロンたちのもとに戻った。
少しだけ疲れた顔をして。
スカイは書類の束を清明に渡した。
「実は読むのが得意ではないので 読み解くのを手伝っていただけますか?」
清明が恥ずかしそうに尋ねた。
「もしかして 君は目が悪くて 読み書きを習わなかったの?」スカイ
「書き方は 手の動きとして覚えましたが、読む方はいつも人に読み上げてもらっていたので」清明
「そうか! それで 君は騙されたんだ。」スカイ
「えっ?」
スカイは 書類を広げ 音読しているところを指さしながら読み上げた。
途中で 清明の質問に答えながら。
・・・
「つまり、私は、15歳で初めての護衛任務に出ていた間に
世話してくれていた人たちがいなくなったのは疫病のせい
15歳~18歳までの間は ドワーフギルドの人たちに助けられながら生活をし
18歳になって独り立ちしたからと、雇った執事に22歳で裏切られたということですか」
「その執事は コンコーネ家で、君への振込担当していた男と共謀して
君への送金を横取りする計画を立てたらしい。
そこで 君に「依頼状」を書かせて、ぺちぺち銀行に君の名前で新しく口座をつくり
その口座をコンラート家からの振込先に変更したんだ。
しかし 君からの依頼状を悪用して勝手にコンコーネ家からの送金先をぺちぺち銀行に移したものの
初回の引き出しのときに、君本人を連れていけなかったので不審がられて口座を凍結されたので、
君宛の振込金は全額新しい口座に残っていることは確認できている。
それらの事実により 彼は横領の罪で死刑判決が下ったよ。
君が彼の減刑を願い出なければ 彼への罰は3か月後に執行される。」
「ずいぶん早く 犯人が捕まり判決が下ったのですね」
「君の元執事は 3年前に銀行からの訴えで捕まっていたんだ。
ただ 君の所在が分からないから 判決が猶予されていただけ。
でも 今回君が3年間振込金を受け取っていないと証言したし
僕も君が行き倒れ寸前のところを助けたと証言したのでスピード判決さ。
それでも 君の方から減刑してやってほしいと嘆願するなら
それを受け付けることができるように3か月の猶予が下ったわけ。」
「しかし 3年前に銀行から通報されてつかまえていたのなら
なぜその話が 私に伝わらなかったのです?
少なくとも2年前までは 私はドワーフギルドを頻繁に利用してたのですよ」
「そのことなんだけど・・ぺちぺち村のぺちぺち銀行は、
人間がドワーフギルドとかかわりがあるとは全く思ってなかったらしい。
ぺちぺち銀行は
①君の依頼状を持った人間が口座を開設した
②そこには王家から毎月入金がある
③君本人が姿を見せず 依頼状を持った人間が金を下ろそうとする あやしい!
と思って通報したわけだ。
裁判所は
①コンコーネ家の財産が分割されたのち、
王家預かりとなった財産から毎月指定口座に入金することになった。
②しかし 受取人の本人確認ができない
依頼状の持ち主の言い分が尋問のたびに2転3転して一貫性がなく信ぴょう性ゼロ
③そもそも 盲人が流ちょうな字を書けるはずがない
この依頼状そのものが 代理人が勝手に作ったものではないか?
失明者をたばかる不届き者は死刑!
すでにコンコーネ家の嫡男は殺されているかもしれない
その消息が判明するまで、代理人と称する犯罪者を収監しておこう
と判断したわけ。
肝心の王家は、
コンコーネ家から 君への送金先を知らされたものの
その口座はぺちぺち銀行。
ぺちぺち銀行には 君が出金に訪れたら召喚状を手渡すように送っていたが
君宛の召喚状の呼び出し期限の1年が過ぎても連絡がないなぁ
↓
どうやら ドワーフギルドで仕事請け負っているらしいと最近知って
ならば ドワーフギルドに情報収集を頼もう
で依頼を出したばかりのところに ボロンがでかけていったようだ。
補足すると、ちょうど君への振り込み原資が 王家預かりになる直前に
受取口座の変更が成立していた。
だから王家は ドワーフギルドの口座の存在も、君とドワーフギルドとの関係も知らなった。
それで ずっと君は 行方不明扱いになってたんだ、王宮では。
そしてたまたま別件で、
つまり君が15歳になるまで君のうちに出入りしていた男が盗賊として最近捕まった時の尋問で、
君が ドワーフギルドで初仕事をした祝いの用意をしているところに伝染病患者が到着して死んでしまったので みんなびっくりして逃げ出したってわかったんだよ。
それで 君とドワーフギルドとのつながりを知って、新たに調べ始めて
君への召喚状の送り先を間違えたようだと気づいたわけ。」スカイ
「うーん ほんのちょっとした二つのできごとが
すごく込み入った話にまでなっていたのですね」清明
「みたいだね。
”自分で文字が読めないほど目が悪い人が 流ちょうに字がかけるはずがない”とか
”人族は 人族の経営する銀行を使うに違いない”とか
”子供の時から弱視だった人が自活できるはずない”なんていう担当者の思い込みが
徹底した捜査を怠らせたんだ。
君にとっては 運の悪いことに」スカイ
「逆に言えば 私はそれだけ恵まれていたのかもしれないですね
普通ならできないことが、できるように教育してくれたり 助けてくれる人に巡り合えて」清明
「できないんじゃんなくて 育てる大人が その子に合わせた教育方法を工夫しないから『できなかった』だけなんだよ!」スカイはきっぱりと言い切った。
「もしかして 私のほかにも障害を持った子が自活できるまでに育て上げられた例を知っているのですか?」清明はびっくりした顔でスカイに尋ねた。
「自活できるているかどうかは知らないけど、それなりにしっかりと育てようと頑張っている親が居るのは知ってるよ。
そのために 健康な兄弟を外に出してまでね!」
「出された子はつらかったでしょうね」清明
「親がズーズーしくも 『(出した子は)立派な養育者に出会ったのだから問題ない。障害のある方の子は私たちが守らなければ育たなかった』と言い切ってるから 出された子供も 『あーそうですか』としか言いようがないんだけどね」
スカイは苦笑いしながら穏やかに言った。
「それでも あなたは ハンディ持ちの私に 親切です」清明
「ズーズーしい親に文句は言っても、障害を持って生まれてきた子や ハンディキャッパーはこの話とは関係ないもの。
大事なのは、健康な子も病弱な子も、
ハンディがある子も 才能あふれる子供も
それぞれに合った育て方をすれば 立派な大人になれるってこと。
ただ 一人一人の子にあう教育をするってのは ものすごく労力と資源が必要だってことだね。
だから 犠牲になる子が出ない公平な子育て社会の実現って 実はすごく大変なことだと思う」
「それに 仲間の一人として言わせてもらうと
君はすでに目が見えるようになったのだから、しっかりと文章が読めるように勉強してね。
でないと 伝言メモ一つ残すにしても 読んでもらえるだろうか?って心配になるよ」スカイ
「もちろん 読み方の練習には僕も付き合う」ボロン
「だったら 拡大鏡を借してください。
字が小さいと 判読できません。
見えないわけじゃないけど ただの線の交差にしか思えない。」清明
「まさしく『読み方』の勉強だよね。
ぼくも 外国の文字は ただの模様にしか見えなくて苦労したよ」ボロン
「僕だって 初めて字を習ったときは ただのごちゃごちゃだと思ったよ、文字のこと」スカイ
「とにかく 私の過去の謎をときあかしてくださってありがとうございます。
スカイさん 本当にお手数をおかけしました。」
清明は一礼した。
「仲間だもん 気にするな」
スカイは ちょっとだけぞんざいな言い方をして 照れたように笑った。




