尋ね人
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街の開門は朝6時
朝市で販売する商品を盛ちこむ近隣の村人のために、夜明け前に門を開けるのだ。
夏は朝の5時 冬は朝の6時だ。
「身分証」
衛兵に言われて自分の身分証を見せるボロン
「郵便配達員のボロンさん! あなたの名前は『尋ね人』リストに出ています
直ぐにドワーフギルドへ行ってください。」
「まいったな」
ぼやきながらギルドに向かうボロン
ギルドの正規の営業時間は9時~17時
しかし守衛室で時間外受付をやっている。
なお求人票をはりつけてある部屋は24時間オープンで
この部屋につながる小部屋には宿直がいる。
ギルド職員や正規のギルド会員はこの宿直員に事務手続きをお願いすることができる。
それ以外のものは 守衛室に回らなければいけない。
ボロンは、守衛室前の駐場にダーさんをつないだ。
駐場というのは、騎獣や車など乗り物関係を置く場所だ。
ボロンは、「おはよう」と声をかけながら守衛室の前を通った。
すると小窓を開けて、守衛が顔を出した。
「こちらの控室にどうぞ。
宿直の人を呼んできますから」
「悪いね。じゃあそうさせてもらうよ」
ボロンは案内された応接室のソファに座った。
しばらくするとギルド長が 朝食の盆をもって入ってきた。
「一緒にどうだい。
私は ちょうど今から朝食をとるところだったんだ。」
「いただきます。
代金は 今でも300円ですか?」ボロン
「あー お値段据え置きモーニングセット300円だ」
ギルド長が笑いながら言う。
じきに守衛が、「ゆで卵・チーズ・パン・ミルク」を持って入ってきた。
「それで 君は 今まで何をしてたんだい?」
「それより先にお尋ねしますが 無期限休職届はちゃんと受理されてますか?」
「あー なぜか 私の決済箱の中に入っていたよ。
まったく ドワーフが魔法で休職届を送りつけてくるなんて前代未聞だな」
「知り合いの魔法使いが急に具合が悪くなりまして、その介護のために休職することになったんです。
その魔法使いが 送ってくれたんですよ。」
「ということは その人の具合がよくなって 復職手続きに来たのかい?」
「ちがいます。
これからも その人の手伝いをすることになったので 休職届の自動更新に来たんです。とりあえず10年分の。」
「そんなに長く休むなら いっそ退職したほう金銭的には得だろう」ギルド長
「でも 退職すると身分証が使えませんからね。
それに ドワーフギルドは私にとってはふるさとみたいなものですから
退職する気にはなれません」
「だよなぁ。
君は ギルドの仕事に情熱をもやしていたもの。
その君が 突然無期限休職届を出すのだもの、みんなもうびっくりさ。
それで 今は幸せかい?」
「はい いろいろあっても 充実した生活を送っています」
「そうか
だったら 君を『尋ね人』リストから外すよ。
あまりにも異例のことだったから
君が何か厄介ごとに巻き込まれたのではないかと心配になってね、
念のために『尋ね人』リストに掲載して、
各地のギルドに君の安全確認を依頼したんだよ。
中には 龍の密漁をたくらむ悪漢たちが、君の才能と好奇心に目をつけて
拉致監禁しているのではないかと懸念する者もいてねぇ」
「え~~ なんで そういう懸念につながるんですか?」
「君が竜の山を探索すると言って1年休職したのは有名だもの。
そして 君の無期限休職願いが出されてすぐ後に
コンコーネ公爵のご子息が行方不明になって これまた大騒ぎになったんだ」
「コンコーネ公爵のご子息?」
「ああ コンコーネ公爵の息子さんの一人は生まれた時から目が悪くてね
それで 幼いころから家名を名乗らせず、家庭教師をつけて別荘で育てていたらしい。
その子は 剣の才能があったらしく、
なんだっけ清明と名乗って護衛とかで結構稼いでいたらしいんだ。
ところが 彼は 君が失踪したらしいという噂を聞いて、
君を探しに行くと言った
「心眼使いの清明と名乗る男とは会いましたよ。」
「そういえば 君は、クラクラ村のギルドで貯金を下ろしていたね」
「よく知ってますね」
「あの時はまだ 君のことはうわさにはなってたけど 『尋ね人』リストには乗ってなかったからね。
ただの世間話として クラクラ村のギルド長が個人的に僕に知らせてくれたんだ。
僕が君のことを気にしていることを知っていて。
そういえば 君を将来のギルドの幹部に推薦したいと考えるギルド長は多いんだよ。
君なら 地域密着型のギルド運営を大切に考えて
中央の暴走の抑えに回れるんじゃないかと考えている人は多いんだ。
君は 全然そんなこと知らなかっただろうと思うけど」
「知りませんでした。」
「だろうね。だから君が退職せずにギルドに戻ってくれば
しばらくの間は君に対する風当たりも強いだろうけど
君に期待して君の実力を見極めようとする人も多いってことを心得て
面接を乗り切ってほしいね」
「はい」
「だから 君が 今何をしているのか言いたくないなら それを尊重するけど
君が復職するときには 君が休職中に何をしていたのか
はっきりと明確に説明できるようにしておかなきゃだめだよ。」
「ご忠告ありがとうございます」
「で 話を元に戻すけど」
「はい」
「君が会った時、清明はどうな様子だった?」
「えーっと その件に関しては 清明に尋ねてからおこたえするではいけませんか?
一応 清明と連絡は取れる関係にはなったんですが
私の知っている清明は『心眼使い』とは名乗っていますが
コンコーネ家の息子だとか公爵家の出身とは全く名乗ってませんから」
「そりゃまあ そうだろうね。
あそこの家もいろいろ複雑だから」
「じゃ 清明が自分からドワーフギルドに来るか、
君が彼の近況を知らせてくれると あてにしていいのかな?」
「あてにされては困りますが・・・
私が街道で彼に会った時、
彼は私と一緒に旅をしたいと声をかけてくるほど元気だったとは言えます」
「そうか。
これは 内密の話だけど
コンコーネ家は 内部抗争による私闘が目に余るということで男子が全員裁かれ、
爵位をはく奪されてね
財産は子供たちで分割相続することで治まったんだが
爵位を継ぐ者がいなくなってしまって、清明さんを捜しているらしい。
国としては 王族の体面を保つためにコンコーネ公爵家を残したいらしいが、
強欲な人間は排除したいということで、
娘さんたちはみんないいとこに嫁いでいるから そこにコンコーネ家の爵位をもっていかれるより、
これまで無名だった清明に跡を継がせたいらしい」
「どこまでが 王家や公爵家の意向で、どっからが憶測・推測・観測気球なのか
よくわからない話ですねぇ」
「まったくだ。内密の話ってやつは たいていそういうもんだよ。」
二人はいっしょに笑った。




