竜の里
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そうこうするうちに3か月が過ぎた。
清明との契約更新の時期だ。
「それでどうするんだい?」スカイは清明に尋ねた。
「実のところ 私はお給金に値するほど働けている気がしないんですよ。
いろいろ教えられることばかりで。」
「初めてのことについては 教えるのが当たり前だろ」スカイ
「なんですがねぇ。
私は せっかく目が見えるようになったのだから外の世界も見てみたい。
でも 見えるようになっただけでは なんでもできるわけではない
ってことに気づいたんです。この3か月で。
それで できることならここで1年くらい働かせてもらって、 いろいろ覚えて
そのあとは 農繁期だけ仕事を手伝って、
それ以外の季節は外に出稼ぎに行かせてもらえたらって思うんです」清明
「でかせぎ?」スカイ
「はい、出稼ぎ」清明
「それは どういう意味だい?」ボロン
「私は護衛の仕事には自信がありますから、外に出ればそれなりに稼げると思います。
そうやって稼いだお金をここに送ります。
でも せっかく農作業とかいろいろ教えてもらったのだから、
種まきとか収穫とかで人手がいるときはここに戻ってきて仕事をします。
だって人出不足解消のために 私がここに誘われたのだってことはよくわかってますから。
本音を言えば、この3か月で作った畑がどうなっていくのかとか
いろいろ開拓が始まったこの土地がこの先どんな風に変わっていくのか見てみたいって思うんです。
だから 長くここに居たい。皆さんと一緒に。
でも せっかく目が見えるようになったんだから、
今まで私が旅して来たあっちこっちの暮らしもこの目で見てみたいんです。
今まで どうせ見えないんだからとあっちこっち流れ歩いてきましたけど
それでも なんとなく匂いとか音とかで興味を惹かれたり、
雰囲気的にいいなと思った場所がたくさんあるんです。
そこに行って、何がどうなってるのかこの目でじっくりと見てみたいとも思うんです。
外の世界もここの暮らしも両方見ていきたい。
だから 許されるなら ここに置いてもらって でも出稼ぎにも行きたい」
「うーん 贅沢だなぁ」スカイ
「ゴンはどう思う?」ボロン
「なんとなく 清明の気持ち わかるな。
僕は まだまだここに居る必要があるけど
自由に外に出ていける力がついたら、清明みたいに ここからあちこちに出かけて
でもここにいつでも帰ってこれるようにだれかがここの世話をしてくれていたらいいなと思うもの」ゴン
「まるで クランのようなだな」コンラッド
「つまり ここをクランの拠点にして、拠点を運営する者と、外に出て運営費を稼いでくるメンバーに別れるということですか?」ボロン
「そうだ」コンラッド
「そのためには ここを維持するメンバーをまず確保しないとダメなんだけど。
それと秘密厳守の制約と出稼ぎに行った人が月々納入する金額をきちんと決めないとダメなんだけど」スカイ
「それに 今の最優先事項はゴンの生活基盤の確保だからな」コンラッド&ボロン
というわけで とりあえず清明との契約は、来年の6月末までとなった。
その後 清明の気ままな出入りを認めるかどうかは その時に再確認するということで、
今から1年は、清明にみっちりと「竜の里」と呼ぶことになったここで、里の発展のためにしっかりと働いてもらうことに決まった。
「給金?いりません。食べさせてもらえれば、最初にもらった金貨1枚だけで十分です」清明は言った。




