訪問者
1/7
ボロンが 洗濯物をといれていると、突然目の前に魔法使いと白狼が出現した。
「はじめまして。
魔法使いのスカイと申します」
スカイと名乗る男はにこやかに身分証を見せた。
「拝見します」
ボロンは身分証をじっくりと観察して 本人確認をした。
「ドラコンの盟友、フェンリルのコンラッドだ」
念話が届いた。
「えっ」あたりを見回すボロンに 白狼があくびをしてみせた。
「フェンリルのことは ご存じありませんか?」
スカイが穏やかに問いかけた。
「魔法使いのスカイの紋章がドラゴンとフェンリルだということは聞いたことがありますが、生フェンリルをこれまで見たことがないのです」
ボロンの言葉を聞いて 白狼はふんと鼻を鳴らした。
「私は ドワーフのボレロ・ボロンと言います。
あの スカイさんは なぜここに?」
「ドラゴンに会いに来たに決まっておろうが!」フェンリルが吠えた。
「ボロンに乱暴しないで!」突然現れたゴンが、ボロンの背中から顔を出した。
「さしつかえなければ身分証を拝見したいのですが」スカイが丁寧に言った。
「わしは ドラゴンに危害を加える者には容赦はせん。
しかし ドラゴンの友を傷つけたりはしない」
コンラッドはボロンに向かってきっぱりとした口調の念話をおくり
次に ゴンに向かって 優しい口調で語りかけた。
「幼いドラゴンは、フェンリルとドラゴンとの友情について知らぬのか?」
「ドラゴンを見捨てて 人間の世界に行ったフェンリルのことなら知っている」
ゴンが答えた。
「見捨てたわけではない。
ただ 互いに選んだ道がことなっただけのこと」
フェンリルが穏やかにこたえた。
「なぜ お二人はここに?
そして 何用で?」ボロンは重ねて尋ねた。
スカイとコンラッドは顔を見合わせた。
「少し長い話になるので、洗濯物をを片付けてから 暖かいところに移動して話しませんか?」
スカイは穏やかにボロンに話しかけた。
ゴンはさっと洗濯物を空間収納してしまった。
ボロンは ゴンの横にかがんでその体を抱きしめた。
その瞬間、ボロンとゴンは暖炉の前に転移させられた。
「ようこそ我が家へ。
ここは 君たちが品物を持って行った家の一部だよ。
今 暖かいミルクを入れるからね」スカイ
「お前たちに危害を加えたりはしない。
わしは・・・竜の山に住むドラゴンたちと仲が良かった。
昔々 ある時 人間たちはドラゴン狩りに熱中しておった。
わしは 結界魔法が得意であったから、竜の山の周囲に結界をはり
一方人間たちが ドラゴン狩りをやめるように人間集団の中から手を打とうと外の世界に出た。
人間たちは やがてドラゴン狩りをやめ ドラゴンはただの伝説となった。
しかし気が付くと ドラゴンたちは数を減らしておって、最後に友人から連絡を受けた時には、卵から雛が孵ったらよろしくとのことであった。
お前も知っておる通り ドラゴンの雛は 卵の中で1000年でも2000年でも眠り続けることができる。
それに比べて人の一生は短い。
フェンリルは時空移動能力があるが 個体としての寿命はドラゴンほど長くはない
転生することにより肉体を更新することはできるがの。
連続して生き続けているわけでもない。
それやこれやで わしは最近 人間の子供を育ておった。
それが ここにいるスカイだ。
一応 念のために スカイには竜の山から念話の届きやすい位置にあるこの家を守り 幼龍が生まれたら助けるようにと言いつけて わしはしばらく眠っておった。」
「この家も結界でくるまれているから、むやみにものを持ち出したり送りつけたりできないようになっているんだ。
でも 君たちが 最初はお金と食料の交換、
最近はミルクとの物々交換を申し入れてきたので もしやと思ってコンラッドを起こしたんだ。
彼を起こすとその時点からコンラッドの寿命が減っていくから ドラゴンの誕生を確認した時以外は起こすなと言われていた。
それで迷ったんだけど・・
僕の力では 竜の山を囲む結界を超えて 君たちのもとに転移して 様子を確かめることができなかったからね。」
スカイが コンラッドの後を引き継いで説明した。
「わしも 金やらメモやらを送られて来ているので驚いたよ。
ドラゴンが 字を書いたり買い物するとは思わなくてな。
だから わしが張った結界を破って侵入した悪い奴にたぶらかされているのかと不安も感じた」
フェンリルが ばつの悪そうな顔で言った。
「でも 君たち見てると すごく仲がよさそうだね。
だからその 僕達のことも 信頼してもらえると嬉しいんだけど」
スカイ。
「それで なにしに 来たの?」
ドワーフに抱きしめられたままの幼龍は首だけ伸ばしてスカイとコンラッドに尋ねた。
「お前が一人前になるまで手助けするためにだ」フェンリル
「僕は ドラゴンを養育している人を手伝うために」スカイ
ゴンとボロンは互いに見つめあい無言で話し合った。
(信用できると思う?)
(俺が見た範囲では スカイの身分証は本物だな)
(それで?)
(助けがあれば 生活しやすくなるのは確かだな。
それに 彼らが敵でも 俺たちの力でどこまで対抗できる?)
「ぼくとボロンを絶対に傷つけない・害さないと誓って」ゴンは言った。
「悪しきことに手を染めぬなら、相互不可侵を約束しよう」スカイ
「ボロンとゴンが悪の道に進まぬ限りは、ボロンとゴンを守り、できる範囲で 手助けする」コンラッドも 重々しく言った。
・・・
というわけで スカイとコンラッドは 暖炉をガンガン燃やして部屋を暖めながら
ゴンのためにミルクをどっさり提供した。
そして ボロンには 人間用の食事をたっぷりと提供した。
おなか一杯ミルクを飲んだゴンは げっぷをしながら言った。
「刻んだ生肉の入った新鮮な血のおかゆも食べたい」
「そうか 離乳期にはいっているのだな」コンラッドは目を細めて言った。
ゴンはボロンの腕の中で居眠りを始めたので、
スカイは暖炉の前に毛皮を敷いて そこにドラゴンを寝かせるように勧めた。
ボロンはありがたくゴンを寝かせ、温めた毛布をかけてやった。
「おまえさん 本気のその龍をかわいがっているようだな」
フェンリルがボレロに話しかけた。
「ええ かわいいですよ」コンラッド
「ドワーフは人間に比べれば長命だが、ドラゴンほどではない」コンラッド
「だから?
先ほどの言葉からすれば、この子が一人前に育つまでは フェンリルであるあなたが面倒をみるために この子に会いに来たように言っておられたと思うのですが?」
ボロンはまじめに フェンリルに問いかけた。
「もちろんそうだ」コンラッド
「ならば 私も安心です。
私はドラゴンに憧れて竜の山まで来ましたが、
幼い龍を育てることになるとは思ってませんでした。
あなたは 子龍の育て方を知っているのですか?」ボロン
「知識ならあるが 生まれたての龍を見たことはない。
鳥の雛と同じで 自分で餌を食べられるようになるまでは親にべったりで
親も他の者を巣にはよせつけぬからな」コンラッド
「ところで どうやってこの子に出会った?
竜の山とわしの家とをつなぐ細い空間通路以外は外部から侵入できなかったはずだが」コンラッドは尋ねた
「その件については ドラゴンと直接話し合ってください
私にはわかりかねます」
ボロンは 質問をかわした。
初対面のフェンリルをまだ全面的に信頼したわけではなかったから。
 




