境川のほとりにて:ボリボリ鍋とナラタケ病
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日没前でに時間があったが、その日は 境川を渡ったところで キャンプすることにした。
ダーさん達の餌を出そうとしたら、
「この子たちに 自分で餌を見つける経験をさせたいので」と辞退された。
若鳥たちは 親鳥たちに引率されて、「自分で見つけて食べる夕食」を取りに行った。
「なんか ダーさんの子育てってすごいね」ミューズ
「うん。
外の世界では ダーさん鳥は家畜としてしっかり管理されてから
あんな自由な発想で しっかりと子育てする鳥だとは思わなかったよ」ボロン
「もしかしたら ここで 神獣達の傍で暮らした影響もあるのかなぁ?」ミューズ
「はぁー 先のことはわからないけど、
今日はオットーの騎乗で疲れたよ。
あれは たしかにとっくに食肉加工場に行っていたレベルのダーさんだよ。
あー疲れた」ボロン
「確かに ロデオばりの騎乗だったね。
どうして ダーさんから降りて 手綱をひいて浮橋をわたらなかったんだい?」ミューズ
「アレの頭が悪いってのは、乗ってすぐに気が付いたからね
アレから降りて手綱をひいていたら
まちがいなくオットーは僕を蹴飛ばして一人で橋の外に飛び出して
下手したら橋を壊して落ちると予想した。
上に載っていた方が、バカな鳥の制御をしやすいんだ。
膝と手綱と 最悪の場合は手で鳥の首をつかんで動きを止められるから。」
ボロンはそういってため息をついた。
「確かに見ていて ハラハラしたよ。」ミューズ
「悪いけど 今日は あとの世話をまかせていいかい?
あいつら ほんとに自分で飯が食えるのかな?
とにかく 明日の朝はしっかりと餌を食べさせてから出発しなくっちゃ」ボロン
「と言っても ほら 目の前がシラカバ林だよ」ミューズは指さした。
「なんなら 一杯 飲んでから寝るかい?」
ミューズはそう言って スタスタとシラカバの林まで歩いて行き、
手早く1本の木に穴をあけ、管を差し込み もう一方の端を下に置いたコップの中にたらした。
コップには 見る見るうちに樹液がたまっていった。
コップに8分目まで樹液がたまると、ミューズは手早くコップと瓶を取り換えた。
「はい どうぞ。飲んでみて」
ミューズは ボロンに樹液の入ったコップを手渡した。
「ありがとう」
ボロンは おっかなびっくり口をつけた。
「いけるね!」ボロンは 首をかしげながらも コップの中身を飲み干した。
「これ 慣れると癖になりそう」
「だろう。」ミューズは嬉しそうにほほ笑んだ。
「シラカバのことを ウォーターツリーっていう人もいるんだよ。
今夜は 僕が夕食の準備をするから 君は座ってて。」
ミューズは手早く マジックバックから食材を取り出しシチューを作った。
そのあと林に行って 白樺の樹液の入った瓶を それより大きな空瓶と取り換えて戻ってきた。
「かんぱーい!」ボロンとミューズはシラカバの樹液の入ったコップを掲げて乾杯した。
「今夜はボリボリ鍋だよ」
茂るように生える秋キノコの代表ボリボリ(=ナラタケ類の総称)をマジックバックから取り出して調理したミューズ。
「いろいろ誤解されることも多いキノコだけど、汁ものにすると味が良いし
うまい出汁も出るから 魚肉・根菜・野菜とも相性ばっちり♡」ミューズ
「春とはいえ まだ肌寒い夜には 焚火を囲んで食べる鍋は気持ちいいな」ボロン
「ところで ナラタケが誤解されるってどういうことだい?」ボロン
「君も知ってるように 勢いよく茂るだろ、このきのこたちは。」ミューズ
「うん」
「基本的に枯れ木とか 老木の樹液が流れなくなった部分に生えるのは知ってるよね。」ミューズ
「うん」
「そして キノコそのものは傷みやすいから、放置して腐らせるよりも、
キチンと採取したほうが 翌年もキノコが茂るんだよ。
その一方で 生木にナラタケが繁殖して木そのものを枯らしてしまう病原菌扱いもされている。
それで「ナラタケ病・ナラタケモドキ病」って言われるんだ。
でもね、僕は、もともと木が弱って枯れかけていたり
人の手が入って土壌の酸性度が上がるなど不適切な環境になった時に
ナラタケ類の菌糸がはびこってキノコが生えてくるだけだって方に一票入れたいね。
そういう意味で キノコを病原菌扱いして農薬をまいたりするのはひどいじゃないかって感じで、
誤解されやすいって言ったわけ」ミューズ
「人間の足の裏の水虫は 基本的に無害だけど
人間の足が過度に不衛生になったり、糖尿病とかで人間の体が悪くなったら、水虫が繁殖するって話と似ているいるね」ボロン
「確かにそうだけど 食事時にそんなこと言うなよ。」ミューズ
「ごめん。
でも ナラタケ病が発生した時は まず樹木の状態や、木と木との距離とか 林の土壌とか立地条件から総点検して 環境改善をした方がいいと君は言いたいわけだろ?」ボロン
「そうだね。
スカイなら そうするだろうね。
僕は君たちほど 緻密に考えたことはなかったけど。」ミューズ
「あのさ 地下の洞窟で キノコ栽培とかできたら便利だと思わないか?」ボロン
「それは 僕も考えた。
問題は 原木の搬入を定期的に行わなければいけないってことだよ」ミューズ
「あと 収穫のタイミングと人手だよね」ボロン
「そうそう ノームが果たして どれくらいキノコをたべるのかという問題ね」ミューズ
「言葉を換えれば ゴンやコンラッドにとって キノコはどれくらい栄養的に意味があるかってことだよね」ボロン
「だよね。
空気中の魔素を吸い込んで育つなら それはそれで意味があるんだろうけど」ミューズ
「とりあえずは 龍の林を健やかに保つことを心掛けたほうがよさそうだ。
僕たちが森林の恩恵とおいしいキノコの幸を受け続けるために」ボロン
「自然の幸を 欲張らず・乱さず が大切さ」ミューズ
(参考)
・都市域におけるならたけもどき病の被害実態
https://www.uf.a.u-tokyo.ac.jp/research/results/post_17.html
・ならたけ病による森林被害(長野県林業総合センター)
https://www.pref.nagano.lg.jp/ringyosogo/joho/minigijutsu/documents/mini05.pdf
※ 各県ごとに ナラタケ病対策に関する指針は出ています。