ドラゴンの誕生
パリン 地底湖のほとりで卵が割れた。
中から1匹のドラゴンが顔を出した。
ゆっくりと羽を拡げ パタパタ
ふわっと体が持ち上がりドスンと落ちた。
グェ
尻もちをついたまま 顔を上げて鳴く。
「おい 大丈夫か?」
洞窟の壁に張り付くように立っていた一人の男が声をかけた。
「あなた だれ?」
ひな鳥ならぬ生まれたてのドラゴンが問いかけた。
「俺か?。 ドワーフのボレロ・ボロンという。はじめまして」
「僕はドラゴン。略してゴンでいいよ」
「ほう ドラゴンというのは 自分で自分の名前を決めるのか」
「君はちがうの?」
「おれの名前は 両親がつけてくれたらしい。」
「らしいって?」
「物心ついたころには そう呼ばれていたし、普通、ドワーフや人間は 妊娠したら子供になんと名付けようかと考え始めるからな。」
「ふーん」
「おまえ 震えているが大丈夫か?」
「なんか 寒くなってきた」
「ちょっと待て」
ボレロは担いでいた袋の中から上着を取り出し、ゴンに着せかけた。
「抱いて温めたほうがいいか?」
「どうだろう?」
ボレロは しゃがみこんでドラゴンを抱き寄せた。
「さすがドラゴン。生まれた時から重量があるな」
「あのさ あそこあったかそうだから」ゴンは首を伸ばして地底湖を示した。
「確かにもうもうと湯気が立って熱そうだ」
「あそこで体をあっためてくる。
君は 離れて。 自分で飛んでいくから。
上着ありがと。それも君がもってて」
「わかった」
ボレロは 再び壁際に戻った。
ゴンは よたよたと歩いてバタバタ羽ばたき
浮き上がっても前に進まずストンと降りては 再びよたよた歩いて前進
結局 なんどかとびあがったものの 前にはすすめず よたよたと歩いて湖のほとりまでいき ポトンと湖に落ちて沈んでいった。
「おいっ!」ボレロはあわてて駆け寄る。
湖の底で羽をバタバタしながら やがてゆっくりと斜め上に浮上していくドラゴン。
心配そうに見守るボロンの目の前で ドラゴンはゆっくりと水中で羽ばたきしながらゆっくりと進みだし、首を水上に突き出した。
と思うと ぐんと空中に飛び出して飛んだ。
最初は一直線に湖の真ん中へと突き進んでいったが、やがて旋回しようとして失敗。
ドボンと墜落
水中で体の向きを変えて 今度はボロンめがけて突進してきた。
「じゃま ぶつかる 離れて!」ゴンは叫びながら ボロンの前で急旋回して 今度は斜めに水中に突っ込んでいった。
「ごめん」ゴンは 再び壁際に戻った。
「どうやら 俺が心配して近づくと かえってお前の邪魔になるらしいな」
ドラゴンは 湯気の立つ湖の上で飛び方の稽古だ。
失敗して墜落しても 湖は天然の安全ネットの役割をはたしているらしい。
ボレロは ドラゴンの飛行練習の邪魔にならぬように壁際に張り付いて
火をおこし、自分の食事をとって横になった。
ドラゴンの孵化と飛翔練習などという 世にも珍しいものを前にして
引き返すという選択肢があろうはずもない。
それでも 地中奥深くここまで潜ってきた疲労もあって とうとう眠り込んでしまった。