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千夜学園の女神さまっ!! ///  作者: 影咲シオリ
第1章 神頼み
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第2話 君は馬鹿だってことさ

★悩み抱えた藤原零斗は、どんな悩みも解決するという『神様』を探して生徒会室に向かったよ

 慣れない手つきで手櫛で髪形を整えると、静止したままドアノブをじっと見つめる。

 入学式以来、数えきれない人間と挨拶を交わし自己紹介を繰り返してきたが、まともに名前も顔も覚えていない。ひょっとしたら、これか出会う誰かが零斗が初めてまともな会話を交わす相手になるのかもしれないのだった。

 やがてドアは内側に向かって静かに開かれる。


「やぁ、生徒会へようこそ」


 現れたのは笑顔の素敵なメガネ男子。

 細身で背は高く、学園の制服をスマートに着こなしていた。端正な顔立ちで引き締まった表情からは知性があふれ出している。案内する物腰は柔らかで自然と体から緊張が薄らいでいく。いかにも成績も内申点も、女子からの人気も高そうなこのメガネ男子が、千夜学園の生徒会長なのだろうか。


「あのう、突然お邪魔して申し訳ありません……」


「緊張しなくてもいいよ。ここは生徒会室。生徒のためにあるのだから」


 男の包み込むような優しさに零斗はすっかりときめいてしまっていた。親ガモについていく子ガモのように男の後を追い奥へと足を運ぶ。

 生徒会室。そこは今まで見てきた学園とは正反対の世界だった。床も柱も天井もすべてが木製で、壁には古風な幾何学模様の壁紙が張られている。

 部屋の中央で向かい合わせに並べられている6つの事務机、その椅子、そして脇に並ぶ書棚もすべて緻密な彫刻が施され、琥珀色のニスの輝きは高級感醸し出し艶やかに輝いていた。

 すべてが木製。ただの木目柄ではなく本当の樹木から生み出されたもの。現代の日本では本物の木材が建物や家具に用いられることはすっかり無くなっていた。数百年も昔に逆戻りしたかのような空間。それは零斗が知識でしか知らない世界だった。

 零斗は呼吸をするのも忘れて首から下げていたカメラを構え、次々とシャターを切っていた。自分自身の行動が不躾だと気付くと慌てて頭を下げる。


「あ、本当にゴメンナサイ。なんか思わず体が動いてしまったというか……綺麗なものはすべてレンズを通して観たくなるのが僕の厄介な癖でして」


 本当である。つい先日も、水路に映る月を眺める女子生徒に心惹かれてカメラを向けてしまったことがあったのだ。彼女は優しく許してくれたけれど、それが今回の騒動のそもそもの発端でもあった。

 メガネ男子も、叱りつけることなく少し困った顔で零斗を見守っていた。


「ふふふ。そうだね、ここは少し風変りだからね。気持ちが昂るのも理解できるよ。これはね、生徒会長閣下のご趣味というわけなんだ」


「風変りだなんてとんでもない。感動してます。大人の空間です。こだわり派のマスターがいる喫茶店みたいですよ」


 語彙に欠ける零斗の精いっぱいの誉め言葉である。


「あれれ、『閣下のご趣味』というと貴方が生徒会長様ではないのですか?」


「僕の名前は、八坂英樹(やさかえいじゅ)だ。千夜学園の副生徒会長を務めさせてもらっているよ」


 八坂は部屋の隅の応接ソファーに零斗を座らせると、自分もゆるりと腰を掛ける。そして、笑顔を崩すことなく


「さてさて、藤原君。僕たちに何のご用事ですか。」


 と零斗の瞳をまっすぐに見つめ問いかけるのだった。

 そうとも彼はここに遊び来たわけではない。

 何の用事かと問われてみれば、果たしてどこから話せばいいのやら。

 零斗は一瞬だけ悩んだ結果、端的に結論だけを告げることにした。


「あのう。神様に会いたいんですが」


 傍から聞くと間抜けなセリフだ。

 上級生の作り話に騙された新入生徒を憐れむのか。

 それとも、触れてはいけない秘密を知ってしまった少年に厳しい視線を向けるのか。

 はたまた、神様に会うための試練とやらを本当に与えられるのか。

 身構えるがしかし、彼の反応は予想とは大きく違っていた。


 「ハァ………………………………………………」


 魂がすべて抜けていくような深く長いため息。深く深く長く長い。

 すべての息を吐き出したかと思うとメガネを外し、目頭を押さえたまま再び黙り込んでしまった。


「あの僕、何かまずいこと言っちゃいました?」


 事態が呑み込めず呆気にとられるばかりの零斗。

 だが、メガネ男子は再びメガネを掛けなおすと、何事もなかったかのように元通り再起動した。


「失礼、少し疲れていてね。さて、藤原君だったね。君には何か悩みがあるんだろう。どうかな、その悩みを僕に聞かせてくれないかな。生徒会として全力で取り組ませてもらうよ」


 彼は自信に満ち満ちていた。その姿は頼もしく輝かんばかりだ。

 八坂の言葉に嘘はない。過信もなければ、自惚れもない。彼ならばおよそ一介の高校生が抱くような悩みのほとんどを解決するだけの才能と熱意に溢れていた。

 だが、零斗は躊躇することなくこう答える。


「神様には会えないんですか。僕は神様にお願いしたいんです」


 メガネ男子は目を見開き、何か言いたそうに口をパクパクさせている。

 本当は「どいつもこいつも何で口を揃えて……」と叫びたかったのだが、ぐぅと飲み込んだ。

 全身で失望を表明するように、彼は立ち上がると大げさに両手を持ち上げて、首を横に振った。


「ハァ……まったく」


 ため息交じりに。


「ハァ……まったく」


 語気を強めてもう一度。


「ハァ……まったく、まったく、まったくだ」


 しつこい様に何度も何度も繰り返す。ようやく落ち着きを取り戻すとこう続けた。


「君は賢明でない」


 再びソファーに腰を掛け俯いたまま低い声でそうつぶやく


「はい?」


「君は馬鹿だってことさ。どうして……どうして……」


 優しかった男の豹変ぶりに驚く。零斗だって実のところ、八坂の優しさを無下にしてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいだ。それでも、零斗は神様に会うことを選んだ。

 八坂の狼狽ぶりは、確かに神様がいることを証明していた。

 零斗の関心は既に目の前のメガネ男子にはなく、部屋のどこかにいるという神様に向けられていた。


「さぁ、英樹。約束だよ。選手交代だ」


 混乱を収めたのは澄んだ少女の一声だった。


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