1944年後半の欧州
※イギリスのジェットエンジン
・ウェランド 推力7.1kN (730kg)
・ダーウェント Mk.I 推力8.9kN (920kg)
・ダーウェント Mk.II 推力9.8kN (1015kg)
・ダーウェント Mk.IV 推力10.7kN (1100kg)
河川の名の愛称からつけている
ドイツ軍は、イタリア半島最後の拠点・タラントの攻略に成功した。
これでイタリア半島は全土を占領出来た。
しかし、イタリア政府自体は残っている。
シチリア島とサルデーニャ島で抵抗を続けていた。
海軍が壊滅状態のドイツは、この海を渡る事が出来ない。
だがヒトラーは
(まあ、狭い島は捨て置いても良い。
これでイタリアとバルカン半島の南方生存圏が確保出来たのだから)
と一まず良しとした。
南方戦線で困っているのは、フランス・ヴィシー政府がスペインによって逆襲されている事だ。
こちらに国境が無いドイツは、ヴィシー・フランスに任せっきりである。
このヴィシー・フランス軍が弱い。
専らフランス人のやる気の無さに因る。
ドイツ人にこき使われるより、スペイン人に馬鹿にされながらも、ここで農業でもしていた方が良い。
または亡命政府の呼び掛けに応じ、フランス海外領に逃れるのも良い。
こうした厭戦気分で、スペイン攻略が進捗していなかった。
ヒトラーにしたら、ヴィシー政府のフィリップ・ペタンより、スペインのフランシスコ・フランコ統領の方に親しみを感じる。
イタリアのムソリーニにしても、嫌いじゃなかった。
どうしても今のドイツには南の温暖な土地が必要である。
だから攻めたのであり、ムソリーニに責任があるとしたら、弱い事だけだろう。
フランコという自分と同じ反共の独裁者が、フランス相手に勝っているのは、むしろ小気味良い。
だが、感情と政略は別物である。
イギリスもスペインに肩入れしているし、この連合軍がフランスを倒し、再びフランスがドイツの敵となったらたまったものじゃない。
故にヒトラーはフランスに助力を申し出るが
「ドイツ軍の力を借りる必要は無い!」
とヴィシー政府はこれを拒絶。
ムソリーニに続く、あてにならない味方を抱え、イライラしつつもヒトラーは次の作戦を進めようとしていた。
北アフリカ作戦である。
ギリシャを攻略したヒトラーは、外交をもってトルコに領内の通過を認めさせようとしている。
地中海に戦艦「ビスマルク」「ティルピッツ」を移動させたのに、イタリア艦隊によってスクラップ同然にされてしまった。
折角確保したアドリア海の軍港も、迎え入れた戦艦がこれでは無意味である。
ドイツは地中海を渡って北アフリカに侵攻するのは困難だ。
だから、陸伝いに北アフリカを攻略する。
更に言えば、トルコからはイギリスの石油供給地である中東も攻撃が可能だ。
戦略物資に乏しいドイツには、トルコ経由の陸路は魅力的である。
イギリスもそれは理解している。
外交攻勢でトルコに中立を維持させようとする。
だが、この件ではソ連がドイツに加担していた。
去年まで激しい戦争を行っていたドイツとソ連だが、お互いの目を外に逸らしたいが為に、協力し合う事もある。
ソ連はドイツをイギリスと戦わせ、今日本と戦っている自分たちの背後を襲わせるリスクを減らしたい。
まあトルコがドイツと戦争になれば、火事場泥棒的にトルコ領を奪うのも良いだろう。
第二代トルコ共和国大統領イスメト・イノニュは
「来るなら来い!
ケマル大統領の時のように、ボコボコにしてやるよ!」
と強気の姿勢を崩さない一方、
「で、そちらの要求に応じたら、何をくれるんですか?」
と柔軟さも見せている。
トルコにしたら
「ドイツにイスタンブールは占領されるかもしれないが、
ボスポラス海峡を渡ってアジア側を攻める余力は無いだろう」
「ソ連は日本と事を構えているから、本気で攻めて来ない限り勝てる」
「イギリスは北アフリカを守らなければならず、トルコを攻める予定自体無い」
とそれぞれの弱点を把握しているから、強気に出て大丈夫という判断をしていた。
この辺、日独英ソと違い、戦争の当事者で無い甘さは出ている。
これらの国は、やるとなったら無理でも押し通して来るのだから。
トルコ通行問題という外交交渉をしつつも、戦場は東地中海に拡大している。
ギリシャを占領したドイツ軍が、マルタ島のイギリス軍に空襲を加えている。
海軍にはすっかり見切りをつけたヒトラーだが、可能ならやはり北アフリカまで船で兵員を運びたいとは思っている。
地図を見ても、トルコからレバノンを回り、エルサレムでユダヤ教の関連施設を破壊しまくってからエジプトに攻め込むルートは遠回りに過ぎる。
憧れてはいても、アレクサンダー大王の時代とは違うのだ。
物資補給の量を考えても、陸路大幅迂回より、海路船での輸送の方が良い。
だが、そうなるとイギリス地中海艦隊が阻止に出て来るだろう。
空襲で沈めてやろうと考えているが、その際マルタ島に駐留するイギリス空軍が邪魔になる。
ドイツの地中海側港湾は、旧ユーゴスラヴィアのプーラ、トリエステ、ラ・スペツィアそしてブリンディジといった軍港になる。
ここから兵員や物資を積んだ船が出港し、アドリア海を南下してイオニア海に出て、そこから北アフリカに向かう。
このイオニア海に出る辺りで、マルタ島のイギリス空軍、そしてシチリア島のイタリア空軍の空襲を受けてしまう。
強風吹きすさぶイギリス本土上空と違い、地中海は湿度が高くなったが、空の条件は悪化してなく、お互いに航空攻撃を妨害するものは無い。
なればドイツの航空優勢をもって、一気に沈黙させてやろう。
だがドイツは、イギリスもまた高度な技術を持つ相手だと再認識させられる。
マルタ島を襲ったドイツ爆撃隊を援護するメッサーシュミットMe262ジェット戦闘機。
その前に、イギリスの新型機グロースター・サンダーボルト戦闘機が姿を現す。
この機体は、Me262同様ジェット戦闘機である!
「まさか、奴等もジェット機を完成させていたとは!」
パイロットたちは、このジェット戦闘機に対し戦いを挑む。
Me262は最高速度時速869km、攻撃力は30mm機関砲4門。
サンダーボルトは最高速度時速668km、攻撃力は20mm機関砲4門。
そしてサンダーボルトは加速性能が悪く、空戦は心もとない。
「ハーハッハッハ!
なんだ、見掛け倒しじゃないか!
我がドイツの科学力は世界一!
負けるわけは無いわぁ!!」
だが、その油断にスピットファイアMk.XIVが付け込む。
こちらのレシプロ戦闘機の最高速度は時速710km。
速度はMe-262に劣るが、空戦性能で見れば優越する。
ジェット戦闘機より優秀なレシプロ戦闘機との空戦の隙をつき、イギリスのサンダーボルト戦闘機はドイツのHe-177爆撃機、Ju-88爆撃機を攻撃する。
イギリス空軍にもジェット戦闘機アリ、この報にドイツ空軍は更なる新鋭機投入を決める。
アラドAr234Bジェット爆撃機、最高速度は742km、サンダーボルトより高速である。
ただし、爆弾は内部爆弾倉ではなく、外部ラックに懸吊する為、爆装すると速度は落ちる。
一方のイギリスも、サンダーボルト戦闘機の高速化を図っていた。
マーリンやグリフォンといったレシプロエンジンの開発メーカー、ロールスロイス社はジェットエンジンも手掛けている。
サンダーボルトに搭載されているウェランドエンジンの後継機、ダーウェントエンジンの開発を1944年には終えていた。
ウェランドの推力は7.1kN (730kg)。
これはMe262及びAr234に搭載されているユンカース・ユモ004の推力8.8 kN (910kg)より大きく劣る。
それに対し、ダーウェントMk.Iの推力は8.9kN (920kg)と向上し、ユモ004を僅かに上回る。
更に推力を9.8kN (1015kg)に向上させたダーウェントMk.Ⅱも開発されている。
後退翼のMe262に対し、通常のテーパー翼であるサンダーボルトは高速域で不利になっているが、イギリスはエンジン出力でどうにかしようとする。
一方ドイツは、次から次へと新技術を開発、投入し始める。
イギリス本土への航空攻撃が、超強風の為に困難になった今、無人飛行爆弾や弾道ロケット爆弾による攻撃に切り替えている。
新型の潜水艦は、シュノーケルを使ったり、過酸化水素を使ったりと、新機軸を取り込んで来る。
問題は、先端技術を使う程に、ドイツ人らしい拘りのある作りにする毎に、込み入った精密な構造になる度に、生産性が低下する事である。
資源に乏しいドイツには、生産性低下は痛い。
一方のイギリスにも、謎仕様にする癖はともかく、やはり産業資源の全てを国内だけでは賄い切れない問題を抱えている。
海軍に見切りをつけているヒトラーも、イギリスの資源供給を断つ潜水艦作戦は継続している。
イギリスはドイツのUボートに悩まされるも、オペレーションズ・リサーチという手法を使って最適化した護送船団方式で対抗する。
このようにして欧州の軍事技術力や戦法は、どんどん発展していく。
英独双方に技術者を派遣している日本は、その様子を見て
(やはり本場は凄いな)
と羨ましく感じていた。
極東には競い合う国が無い。
中華民国もソビエト連邦も、お互いに高め合う存在とは言い難い。
日本には
「先に近代化した日本が、遅れている亜細亜を解放し、共に栄えるべく導いてやるのだ」
という考えがある。
教師面されて説教食らうアジア諸地域の事はさておき、日本がリーダーとなるというのについても
(どんなに亜細亜で日本が進んでいても、井の中の蛙に過ぎない。
植民地となっている亜細亜を解放し、そこを教導している間に欧州の進歩に置いて行かれないか?
というか、彼等に日本の国力を注ぎ込んで、それでまともな国としてやっていけるのか?
日本は欧州の進歩に置いて行かれないよう、他の場所など無視し、日本の為だけに国力を使うべきであろう)
ヨーロッパ留学組は、どうしてもヨーロッパを上の存在として崇め、日本を含むアジア地域を劣った存在と見てしまう悪癖が出てしまう。
だが、この考えは一個の正解とも言えるだろう。
中国とインドと東南アジアの人民全てを引き上げようと予算を費やしても、それは砂地に水を撒くようなもの。
満州からシベリアにかけてを奪い、そこを工業化しようとするのも同様。
今の大日本帝国には荷が重過ぎる。
重荷を背負って、背骨を砕かれる事態になりかねない。
まずは日本自身の力をつけねば。
(もしかして、日本にとってアメリカ合衆国の消滅とは、既に分かっている事以上の痛手なのでは?
実際に戦争をするとなれば、到底勝ち目なんかない。
しかし、目標にし、競う相手としては絶好の国だったのではないか。
その国が無い以上、日本は亜細亜だけ見ていては、また江戸時代のように時代に取り残されてしまうのではないか)
ヨーロッパ留学組から始まり、次第にこの考えは日本の技術者たちに拡がっていく。
それはやがて、経済陣や軍人にも…………。
え? グロースター・ミーティアじゃないのか?
サンダーボルトはアメリカのP47だろ?
アメリカはもう消滅したので、命名かぶりは発生していませんよ。
予定通り、グロースター・サンダーボルトがロールアウトしたのです。