合成獣(キメラ)たち
※20mm機関砲性能比較
■MG-151/20機関砲(マウザー砲):
初速810m/秒 全長1767mm 重量42.5kg 弾頭重量92g
■二式二十粍固定機関砲・ホ5:
初速750m/秒 全長1450mm 重量37kg 弾頭重量84.5g
■九九式二〇粍機銃四型:
初速750m/秒 全長1885mm 重量38kg 弾頭重量123g
※弾頭重量は通常弾の場合。他に威力の高い徹甲弾が存在する。
陸軍三式戦闘機、愛称は「飛燕」。
空冷エンジンの多い日本では珍しい液冷エンジンの戦闘機である。
三式戦闘機と四式戦闘機「疾風」は、共に20mm機関砲2門、12.7mm機関砲2門という武装であった。
しかし、攻撃力は三式戦の方が高い。
主にドイツ製MG-151/20機関砲、通称「マウザー砲」の威力に因る。
四式戦の20mm機関砲ホ5は、砲自体の重量でマウザー砲より5.5kg(二門で11kg)軽く、砲身長で810mmも短く、弾丸も軽量であり総合的に小型で扱いやすいものであった。
反面威力が低く、Il-2シュトゥルモヴィクの装甲を凹ませるだけで終わる事も多かった。
無論、操縦席やプロペラに当たれば破壊可能だが。
その為、大馬力かつ軽量(約2.7トン)の四式戦は対戦闘機戦に、強武装だが重い(約3.5トン)の三式戦闘機は対爆撃機・対攻撃機戦に使用されていた。
その三式戦闘機の搭乗員たちは、空戦の結果報告と要望を行う。
「20mm機関砲の弾数を増やして欲しい」
「攻撃時、敵襲撃機の後方機銃の脅威に晒される。
更なる防弾の強化をして欲しい」
「四式戦の稼働率が悪過ぎる。
対戦闘機戦も三式戦でする事が多い。
もっと馬力のあるエンジンが欲しい」
このような要望が届くより前、実は対ソ開戦前から川崎重工ではエンジン換装の試験を行っていた。
愛知飛行機で生産している液冷エンジンが、中々計画通りに調達出来ない問題は、平時から存在していた。
液冷エンジンは日本の技術力からしたら、結構な重荷なのだ。
そこで川崎重工では、エンジンの無い「首無し」の機体を作っている。
エンジンが来ればそれを取り付けるのだが、それと同時に様々なエンジンを取り付けて、改造機として送り出す試験を行っていたのだ。
現在、対戦闘機戦用「飛燕」として、三菱製空冷エンジン「ハ112」(海軍では「金星」と呼称)を搭載した機体が、良好な性能を見せている。
性能は最高に良いが、現場ではどんどん稼働数を減らす四式戦闘機を補う機体となるだろう。
そして、ここに「高速、重防御、重武装」型飛燕が陸軍の審査に掛かっている。
イギリスから購入したロールスロイス製グリフォンエンジンを搭載し、胴体内の20mm機関砲弾の装弾数を120発(一門当たり)から250発に増やし、前面防弾装備を更に強化させた機体である。
グリフォンエンジンはDB 601エンジンより300kg以上重い。
よって改造「飛燕」も機体全体の強度を増さねばならず、
「燕に鷲獅子の心臓を積んだら、全く別の生物になるだろ!」
グリフォンエンジンの名前は、幻獣の方ではなく、シロエリハゲワシ(Griffon Vulture)から取ったものだが、日本に生息していないので知ったこっちゃない。
「これ、一から作り直した方が良くないか?」
「現状の三式戦より滅茶苦茶鈍重になるぞ」
「重さで脚が折れた!!
こっちも改修せねば!」
と開発は難航する。
それでも一年近い苦労の末、グリフォン飛燕は試験飛行にまで漕ぎ着けた。
「この重量……何かの冗談か?」
と不満そうに見ていた陸軍の審査員だったが、日本で初の水平飛行速度時速700km超えを目にして思わず赤鉛筆を手から落とした。
それ程までに凄まじい性能であった。
問題は発着速度の速さと、航続距離の極端な短さである。
だが
「それは現場でどうにかしよう」
そういう判断が成された。
海軍の話だが、以前に九六式艦上戦闘機や零式艦上戦闘機開発に当たり、高速化に伴って以前の複葉機のような短い滑走での発艦が不可能となる事が予測された際、当時の山本五十六海軍航空本部技術部長が
「だったら空母の甲板を長くすれば良い」
と言って開発の制約を弱めた事があった。
開発前か、開発後かの違いはあるが、高速高性能機の為に発着条件の方を変えるという事で共通している。
それ程までにこの時代の航空機の進歩は早く、インフラの為に低性能機しか作れないというのは、即敗北と搭乗員の死に繋がるものであった。
ただ、性能は極めて良好なものであるが、相変わらず前線の整備員泣かせである事に変わり無い上に、グリフォンエンジン搭載のスピットファイアと同じ特徴、大馬力・高トルクによる極めてピーキーな操縦性まで引き継いでしまい、訓練飛行で事故死する搭乗員も少なからず発生した。
「整備員を過労死させ、搭乗員を事故死させる、味方食いの鷲獅子」
「今度の燕は友を食うぞ」
「家絶やし、後家製造機」
と散々な評が成されたが、爆撃機や襲撃機キラーとして、迎撃機として実に重宝される機体となった。
なにせ、敵接近を知ってから緊急離陸しても、すぐに上昇出来て敵よりも高位に行け、そして高速性を活かして何度も背後からの追撃を繰り返す事が出来る上に、余剰馬力を活かした日本軍機としては極めて重厚な防弾装備によって、敵機の後部機銃を気にせずに突っ込む事が出来た。
この迎撃機の完成により、一式戦闘機はお役御免となる。
優秀な機体だったが、更に高性能なものが出来たのと、中島飛行機が一式戦闘機と四式戦闘機の2つにリソースを分けるのは無駄だと判断されたからである。
より高性能ながら、色々と問題がある四式戦闘機の方に注力する。
この四式戦闘機の心臓部ハ45エンジンだが、
「そもそも100オクタンのガソリン使用が前提なのに、87オクタンとかのガソリン使っているのが問題。
この問題を解決する為に付けた水メタノール噴射装置が整備員を泣かせ、稼働率を下げている」
という事情があった。
その為、この水メタノール噴射装置を外したものを製造。
「イギリスから、何としても100オクタン以上のガソリンを輸入して欲しい」
と軍需省に催促する事となった。
心臓の改良で機体を発展させている航空機。
もう一方の陸軍の機械力の象徴・戦車については上手く進んでいなかった。
まず一式中戦車はソ連の軽戦車と互角かやや優位なだけで、主力であるT-34に対して全く歯が立たない。
満蒙国境のソ連軍が配備していてBT戦車やT-26軽戦車を撃破すれば、代わりに補充されるのがT-34なので、どんどん苦戦するようになる。
苦戦、いや正直既に満州国境から内に押し込まれていた。
陸軍もこれはある程度想定していた為、イギリスから17ポンド砲、ドイツから88mm砲を輸入して、新型戦車に搭載しようとしていたのだが
「合う戦車が無い!」
となった。
九七式中戦車の砲塔の回転部直径は1.4m程。
それに対し、17ポンド砲を搭載するには、大体1.75mのターレット径は欲しい。
88mm砲は更にそれよりも大きくなる。
(ターレット径1.65mのⅣ号戦車には搭載出来ず、1.85mのティーガー重戦車を開発した)
「ここはソ連に倣うとしよう」
ソ連はKV-1重戦車の車体に、ティーガー重戦車の装甲も「叩き割れる」152mm砲を固定戦闘室に取り付けたSU-152自走砲を、ごく短期間で開発した。
日本にも一式砲戦車という、九七式中戦車の車体に口径75mmの九〇式野砲を固定して搭載したものがある。
この九〇式野砲を17ポンド砲や88mm砲に換装すれば、開発の手間も省ける。
だが、問題は残る。
九〇式野砲の重量は1400kg、17ポンド砲は3048kg、88mm砲は3700kgと重さが倍以上違う。
それを軍需省を通じ、イギリスに相談したところ
「17ポンドHV砲というのがありますよ」
という回答を得た。
これは、元々野砲であった17ポンド砲が、戦車に搭載するのは大きかった為、小型軽量化させたものである。
HV(High Velocity=高初速砲)であり、軽量の砲弾を高速射出する為、装甲貫通力がやや低下するも、反動が小さく戦車には搭載しやすい。
輸入して到着するのはまだだが、希望は見えた。
「それを積んだ戦車は、ファイヤフライ(蛍)と呼んで良いですね?」
「何故?」
「いや、なんとなく……」
イギリスから謎の要望が出されたとか何とか。
そのせいか、一式砲戦車「ホニ」(ホは砲戦車の頭文字)に続く17ポンドHV砲搭載砲戦車は「ホタル」というコードが半公式でついてしまった。
これとは別に、新規開発で38口径75mm砲を搭載した三式砲戦車「ホニⅢ」も先行投入で満州に送られている。
急な開戦もあり、量産開始を早めた上で逐次投入という、独ソ戦におけるパンター中戦車と同じ事を日本も行っていた。
なお、三式砲戦車に搭載された三式七糎半戦車砲は、タングステン砲弾を使えば距離500mで約100mmの装甲を撃ち抜ける。
17ポンド砲は砲弾の差にもよるが、最低でも距離500mで137mmの装甲を貫通する。
88mm砲は距離500mで185mmの装甲を打ち破る。
外国製の牙を取り付けた合成獣戦車もしくは自走砲でなければ、T-34には勝てないだろう。
対T-34用の牙を付けたのは、航空機にもある。
二式複座戦闘機乙型である。
胴体下部の20mm機関砲に耐えられるソ連戦車がある為、37mm戦車砲に改装したものだ。
ドイツのJu-87G「大砲鳥」を参考したものだ。
この37mm砲は国産化している。
等等開発と配備はまずまず行われていた。
問題は
「戦いは数だよ、参謀殿!
偉そうにふんぞり返る前に、勝つための手立てを!」
と前線指揮官が電話口で文句を言うように、絶対数が足りない事であった。
質は、英独の協力で何とか保てていた。
それでもソ連に対し、空はやや優勢、陸は大分不利という状況である。
この上シベリア鉄道がフル稼働し、工員や農民も含めた極東移住の人員輸送が終わるまで後回しにされていた戦車等が、本格的に揃い始めたら勝てない。
まだ本格化していない状況でも、陸においては苦戦し続けているのだから。
陸軍はソ連の動脈である、シベリア鉄道をどうにかしようという作戦を立てる。
それは奇しくも、アメリカ合衆国が消滅する前の海軍が
「パナマ運河をどうにか使用不能に出来ないか?」
と考えた事に似ていた。
敵地奥深くにあり、手が届かない場所にある輸送の要衝。
これを長駆破壊するのだ。
この件で、陸軍は再び海軍と協力する。
真に、五・二六事件で海軍との関係が拗れなかったのは、あの男の一世一代の好プレーであっただろう。
戦前の日本人が鷲獅子を知っていたか?
グリフォンはギリシャ神話に出て来るのと、日本は明治以降に西洋の十二星座等からギリシャ神話が本格的に入って来たので、
「知ってる人は知っている」
のではないかと考えました。
そしてパイロットやメカニックは、案外そういうの知っていそうで。




