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ソビエト連邦とアメリカ合衆国(残り)

キーワード

・北進派:ソ連を叩き、共産主義を潰そうぜ

・南進派:南方の欧米植民地を解放しようぜ

 →現実派:理想とかどうでも良いから資源確保が重要だよ

 →理想派:アジアの民を解放して大東亜共栄圏を作ろう!

 →折衷派:アジア人の為のアジアを作り、日本が主導する事で日本経済圏を作ろう

 日本陸軍は相当に増長していた。

 無理も無い。

 蒋介石を支援していた連中が悉く痛い目に遭っているのだ。

 アメリカ合衆国は消滅した。

 イギリスは日本に対し媚びを売って来ている。

 蔣介石は打つ手が無く、重慶に引き籠っている。

「やはり日本は神国!

 天佑神助の前には欧米列強と言えども打つ手無し!

 暴支膺懲は正に成らんとす!」

 威勢の良い将校は吠えている。


「このままでは遠からず、蔣介石は降伏するだろうね」

 元東京朝日新聞社記者にして近衛総理のブレーンである尾崎秀美は友人にそう語る。

「もう彼に米英の支援は無い。

 梃入れをしないと、戦争が終わってしまうよ」

 その友人・リヒャルト・ゾルゲは頷く。


 ソビエト連邦からの指示は、日中の講和を妨害し、日本軍を中国に張り付けて国力を消耗させる事であった。

 その為には戦争を終わらせてはならない。

 米英が脱落した以上、どうしたら良いものか?


 ソ連が矢面に立つ選択肢もある。

 国力、軍事力的に自信は有るが、どうしても気になる事が有ってそれが出来ない。

 ドイツが攻撃をして来ないか、である。




 日独伊三国同盟は無事締結された。

 イギリスは日本を介してドイツとの停戦を模索している。

 ドイツもバトル・オブ・ブリテンの戦果が思わしくない。

 アメリカ消滅でゲーリング国家元帥は

「空軍だけでイギリスを屈服させて見せましょう」

 と自信満々で言ったが、基本的に航続距離の短いドイツの単座戦闘機は爆撃機の護衛時間が足りず、双発戦闘機は空戦で役に立たない。

 イギリスの勝利に傾きつつあり、ヒトラー総統もゲーリングの大言壮語を無視して和平を求めている。

「私は寛大だ。

 もう一度、イギリスに最後の機会を与えよう。

 これは同盟国が強硬に申し入れて来たから、彼等の為にもう一度手を差し伸べたものである。

 この手を跳ね除けたなら、極東の大国もイギリスに宣戦布告するだろう」


 ヒトラーが日本に対して示したのは、和平失敗ならば対英宣戦布告せよ、であった。

 だが、日英の外交は出来レースである。

 イギリスは渋ったふりをしながら、ドイツと和平交渉のテーブルに着く。


 もっとも、イギリスは狸も良いとこで、国内に逃げ込んだポーランド、オランダ、ノルウェー、そしてフランスの亡命政府の為に、戦争継続の意思は示している。

 更にヒトラーに対し、西欧からの撤退と国土返還を求める。

 ヒトラーが呑む筈はないが、イギリスも現時点で戦闘継続を望まない。


「要は、交渉中だから双方とも戦闘行為をしない、という状況が数年続いて良いのだ。

 イギリスは同盟国に対して信を失わない。

 一方で危機を脱する事も出来る」


 ヒトラーも馬鹿ではないので、イギリスのそんな思惑は直感で分かっている。

 ドイツとしても、真の和平が成らずとも、ソ連を攻める時にイギリスが蠢動しなければそれで良かった。

 例え百年もの間、書類上の交戦国であっても、実際に戦闘が無ければ十分だ。

 実際昨年、1939年は「偽りの戦争(ファニー・ウォー)」で実現していたではないか。




 イギリスとの戦争を片付けたら、ドイツはきっとソ連に向かうだろう。

 その情報を仕入れる為、ゾルゲはドイツ大使館に入り込んだ。

 ドイツから直接ソ連は防諜上難しいが、同盟国経由ならば隙も大きい。

 ここでは総理のブレーンとすら同志となれたのだ。


「どうだろう?

 ソビエトに直接中国の共産化に関わって貰えないだろうか?」

 尾崎の提案にゾルゲは応えない。

 ソ連は『日本とドイツの二正面作戦は望まない』と言っている。


 ゾルゲすら知らない事実がある。

 日ソ激突したノモンハン事件、ソ連の言う「ハルハ河の戦闘」の真実である。

 日本は大量の航空機と将兵を失い「敗北」認定していた。

 日本軍は戦略目標を果たせず、戦術的にも被害甚大だったからだ。

 しかし、戦略目標の達成という観点で確かにソ連の勝利では有ったのだが、被害という点ではソ連は日本のそれを上回る。

 日本軍の被害は将兵約2万3千人、戦車30両、航空機180機。

 それに対するソ連軍の被害は将兵25,655名以上、戦車や装甲車両400両、航空機350機。

 だが、損害度外視で耐え切ったのと、その損害を一切漏らさなかった為、日本が根負けした。

 関東軍というのは、設立経緯はともかく、現状対ソ連の独立軍とも言える。

 その関東軍の参謀たちが、北進論から南進論に宗旨替えする程、ノモンハンはボロ負けだと「内部では」衝撃を受けていた。

 一方のソ連も、日本と事を構えたくないと考える程、痛手を負った。

 ガソリンエンジンの戦車が火炎瓶に弱いとか、戦闘機は格闘戦をさせたら日本機に負けるとか、様々な教訓を叩き込まれる。

 これに対応しなければならない。


 更に前年、1939年から今年春にかけてフィンランドとの間に起きた戦争で、勝ちはしたがソ連軍の脆さが露呈している。

 粛清のし過ぎで指揮官の質が低下し、冬季装備は貧弱、戦車は敵の防衛陣地を破壊するには攻撃力不足、等等問題点山積みだ。

 ヒトラーは、弱小国のフィンランドを叩き潰せず、とりあえず交渉で領土の割譲という形にならざるを得なかったソ連を見て

(思ったよりも弱いのではないか?)

 と考えていた。


 この2つの戦争から得られた教訓を活かし、引火炎上しにくいディーゼルエンジンで、幅広の履帯によって森林でも雪道でも泥地でも走破可能な上、野砲並に大きい76mm砲を搭載した新型戦車が開発されているのだが、それはヒトラーは知らない事だ。


「中国には間接的にしか支援しない。

 中国が日本に降伏したとしたら、中国国内で共産党にゲリラ活動をさせるに留める。

 ただ、コミンテルン等を通じて義勇兵や、兵器の横流しをして、降伏を遅らせるよう本国に要請してみよう」

 そのように返すだけだった。

 ゾルゲは情報を送る事が任務で、戦略立案は権限外である。

 迂闊な事を言って党幹部に目をつけられ、粛清対象になるのも馬鹿らしい。

 尾崎には「そう上に伝えてみる」と言ったものの、実際にはそのような提案はしなかった。

 あくまでも

「日本はソ連を攻める気が有るのか?」

「ドイツはいつ、どのようにソ連を攻めるのか?」

 に関する情報を送るだけに留めた。


 ソ連はやがて後悔する。

 もっと早くから中国の共産化を支援し、極東に乗り込んでいれば良かった、と。




 東南アジアや太平洋上には、亡国の残存勢力が残っていた。

 蘭印インドネシアにオランダ東インド会社、仏印ベトナム・ラオス・カンボジアにフランスヴィシー政権参加のフランス・インドシナ政府が在る。

 そしてハワイにはアメリカ合衆国艦隊が駐留していた。

 今年の5月に大演習を行った後、太平洋方面の艦隊はサンディエゴに帰港せず、ハワイのパールハーバー基地に駐留する。

 今の呼称は合衆国戦闘艦隊であり、太平洋艦隊や大西洋艦隊の呼称は無い。

 艦隊と休養の為の施設があるだけで、軍港としての整備は現在進行形で進められていた。

 だが、政府が消滅した為、この艦隊は主の居ない軍隊と化している。


 フィリピンは1946年の独立を目指し、フィリピン独立準備政府(コモンウェルス)が立ち上がっている。

 ここの軍事顧問がアメリカ陸軍退役少将ダグラス・マッカーサーであった。

 政治家を目指してもいるマッカーサーは、合衆国政府消滅を受けて、やはり最初は茫然自失となる。

 しかし、さっさと立ち直ると

「フィリピン政府を新たな母体に、ハワイ、アラスカの残り、キューバ、プエルトリコ等を糾合した新合衆国を設立しよう」

 と思いついた。

 僅かな部隊しかいないアリューシャン列島やグアム島の米陸軍は、マッカーサーに賛同する。

 キューバは

「フィリピンとキューバが同格であるなら、連合を組む事は出来る」

 と返答した。

 最大のコミュニティであるハワイが揉めている。


 ハワイには複数の意見が存在する。

 アメリカ白人は2つの意見に割れた。

 一つが

「マッカーサーの提案に乗って、ハワイもフィリピン・キューバと組んだ新合衆国の一員となろう」

 もう一つが

「合衆国併合以前、ここはハワイ共和国だった。

 マッカーサーの尻馬に乗るより、再度独立して政府を立てよう」

 であった。

 新合衆国派に日系人の半数が賛成する。

 残り半数の内、大体半分が

「大日本帝国領になった方が良いのではないか」

 と言い出した。

 残る日系人の内の少数と、ハワイ人が

「ハワイ王国の復活を」

 と言って、カラカウア王の親戚を担ぎ出そうとしている。


 海軍軍人は新合衆国派である。

 陸軍軍人の下風に立つのは癪だが、ハワイ1国で9隻の超ド級戦艦や空母から成る艦隊を維持出来ないのは確かなのだ。

 売ったりして手に余る分を処分するも、それでもハワイだけでは足りない。

 フィリピンやキューバと足した経済力でもまだ不足だが、それでもハワイ1国よりはマシなのだ。


 いまだ方針が定まらない中、ハワイの合衆国臨時海軍省はイギリス相手に艦艇の半数の売却を打診する。

 マッカーサーは不満である。

 彼は経済音痴ではないが、それでも艦艇は全て自分のものにしたい。

 ハワイの艦隊司令部を叱りつける。

 それによって海軍の水兵等に

「マッカーサーの下には付きたくない」

 という意見が出始め、劣勢だった「ハワイ共和国派」の力が増し始めた。


 この動向を日本海軍は、うずうずしながら見つめていた。


 一部の理性的な軍人以外は、こういう残念な気分でいる。

(折角準備した艦隊と漸減邀撃構想なのだ。

 戦いたい! 使ってみたい!)


 この気分が問題を起こす事になる。

1時間後に解説を一本アップします。

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[一言] そんなことよりヒジカタ神道国家を樹立しようよ(彼は狂っていた)
[一言] >>(折角準備した艦隊と漸減邀撃構想なのだ。戦いたい! 使ってみたい!) アメ様いなくなったら使う相手いませんもんねえ。よし軍備削減だな!
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