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東シベリア航空戦

※北米大陸消滅世界での一式戦闘機はキ44(愛称「鍾馗」)。

 キ43は長距離支援戦闘機をあえて必要としなかった為、開発終了してます。

(再試験も持ち上がったが、その時は三式戦闘機、四式戦闘機が試験飛行に入っていた為、取り止め)

一式戦闘機は、採用後に競い合う敵機が無くなり、武装は対戦闘機用の7.7mm機銃、対爆撃機用の12.7mm機関砲のままです。

海軍との模擬空戦やヨーロッパの趨勢から、ドイツ・モーゼル社(マウザー社)から20mm機関砲を購入し、また消滅したからパテントを気にする必要が無くなったアメリカ・ブローニング社の12.7mm機関砲を魔改造して20mm機関砲を開発、それぞれ三式戦闘機と四式戦闘機に搭載していた。


 日ソ戦争、東部のソ連沿海州での戦いは、関東軍有利であった。

 海軍の戦艦部隊による犠牲を省みない猛攻と、その後の空襲でウラジオストクとその隣のナホトカが破壊された事で、ソ連軍第1極東戦線は物資面で大打撃となっていた。

 元々シベリア鉄道の輸送力の限界で、この地区への装備輸送は遅れている。

 一方の日本は、沿海州を睨む位置に国境要塞群が在り、更に沿海州方面での戦闘を想定した訓練も行って来た。

 その上、海軍の猛攻に士気が高まり、こちらを担当する日本陸軍第一方面軍は破竹の勢いで進撃している。

 ソ連軍はハバロフスクを守るべく、防御陣地を敷いていた。


 北方の大興安嶺山脈戦線は関東軍が押される戦いとなっている。

 意気揚々とソ満国境を越え、第2極東戦線に東側から奇襲をかけた第四軍であったが、あっさり返り打ちに遭う。

「ここは戦車が居ないのでは無かったのか?」

 第四軍司令部は驚いていた。

 ごく僅かであるが、ソ連軍の戦車がこの地で猛威を振るっている。

 そして防御戦でソ連軍は粘り強い。

 最初の1ヶ月を耐え切り、第2極東戦線は反撃に転じる。

 山脈はソ満国境付近を南西〜北東に走っている。

 その山脈の北西に在る平野部はソ連軍に占領され、第四軍は山脈を防御線として戦線を維持していた。

「いや、先制攻撃をしていて良かった。

 山岳だから互角に戦えている。

 ここを抑えずに突破されていたら、関東軍はいきなり内に敵を迎えていただろう」

 関東軍の戦前の予測とは異なり、ソ連軍戦車は山岳でも行動出来た。

 ソ連軍に遅れを取り、先んじて山脈突破を許していれば、満州国内にソ連機甲部隊が入り込んでいただろう。

 山岳地ゆえに、楠木正成のような戦い方をしながら、ソ連軍の突破を阻止していた。


 西部の満蒙国境での戦闘は、この方面を担当する支那派遣軍が圧倒的に不利である。

 ソ連は独ソ戦に全ての戦車を導入した訳ではない。

 この方面を警備する快速戦車や旧式戦車は残っていた。

 その上、最もモスクワに近いこの地は、真っ先に砲や車両が荷降ろしされ、十分な数が揃っている。

 ザバイカル戦線の戦車に、日本の戦車は苦戦する。

 対戦車戦闘能力を向上させた新砲塔九七式戦車や一式中戦車が、ソ連のBT快速戦車と大体互角からやや優勢である。

 ソ連軍T-34中戦車には圧倒的に不利だった。

 ソ連軍も準備が完了していなかった為、KV-1重戦車やSU-152自走砲は到着していない。

 T-34で十分だろう。

 この戦車は輸送に負担をかけない。

 ソ連軍当初の予定より数が揃っていないのが救いだ。

 支那派遣軍は、中国戦線の攻めれば逃げる蒋介石軍と違い、独ソ戦を経験したソ連軍との正規戦で、数で勝っていながらも押されていた。


「ソ連軍が強い事など、ノモンハンで先刻承知だ。

 今更慌てる事ではない。

 我が軍も確かに準備不足だが、ソ連軍も準備不足であった。

 この状態で開戦出来たのは大きい。

 敵の方も準備万端なら、更なる苦戦が予想された」


 関東軍・支那派遣軍双方は、負け惜しみではなくそう評価している。

 彼等の独断専行に弁護の余地が有るとしたら、ソ連軍を強者、自らを相対的弱者と判断した上で、勝つ為の行動だった事だろう。


 日本軍が互角以上に戦えているのは、航空優勢による。

 三式戦闘機と四式戦闘機が、ソ連空軍のYak-3及びYak-9戦闘機に優越していた。

 ソ連軍得意の低高度での戦闘、それは日本陸軍航空隊も得意なのだ。

 では中高度での戦闘は?

 これもドイツのBf-109戦闘機相当の三式戦闘機の得意分野である。

 日本の戦闘機は超高高度での戦闘が大いに苦手なのだが、日ソ両軍ともに戦略爆撃機が無い為、この高度での戦闘はまず発生しない。

 一応ソ連にはPe-8という戦略爆撃機が有ったが、生産数は100機程度であり、脅威ではない。


 ただ、日本の戦闘機もソ連のIl-2シュトゥルモヴィク攻撃機には手を焼いている。

 「空飛ぶ戦車」とも言えるこの機体には、一式戦闘機の7.7mm機関銃は全く通用しない。

 12.7mm機関砲でも弾かれ、三式戦闘機搭載の20mmマウザー砲が良い角度で当たれば撃墜可能であった。

 このマウザー砲も、角度によっては弾かれてしまう。

 より大口径の機関砲が前線からは求められるようになって来た。


 ソ連空軍には有利な点がある。

 元々日本より生産能力は高いのだが、その工場はカザンやオムスクといった地域に移転していて、独ソ戦の影響を受けていない。

 工場生産力は健在である。


 一方の日本は、熟練工が工場に戻り、1940年から開発されていたハ45発動機(海軍名「誉エンジン」)も順調に生産されている。

 しかし、アメリカ合衆国消滅に伴って余裕を持ったスケジュールで開発され、無理な部分を改善出来たとは言え、サイズが小さい込み入ったエンジンである事に変わりは無い。

 工場からハ45搭載機が前線に向かう数を10とすると、完熟訓練を経て実践配備されるまでに8に減り、それから一回の出撃ごとに稼働機が1機ずつ減っていく有り様となった。

 前線の整備員泣かせ過ぎるのだ。

 彼等は頑張って、一回出撃すればあちこちガタが来る軍用機のエンジンを整備するのだが、それでは必ず「直せないから部品取りにします」という共食い整備用の機体が出てしまう。

 このエンジンは前線で扱うには厄介なものだった。


 一方三式戦闘機搭載のハ40発動機はもっと厄介である。

 ドイツのダイムラーベンツ社DB 601エンジンを国産化したものだが、製造しているのが愛知飛行機だけで、生産が間に合っていなかった。

 この会社は陸海軍の砲弾の信管や、海軍用の機雷、魚雷発射管、艦砲用射撃盤を製造する愛知時計電機株式会社の子会社として設立された。

 生産能力は余り高くない。

 川崎重工では、とりあえずエンジンを付けていない「首無し」三式戦闘機が作られている。

 エンジンが完成し次第取り付けるのだが、部品によってはドイツからの輸入頼りな為、中々数が揃わない。

 こんなエンジンだけに、現地整備員は苦労している。

 彼等は空冷エンジンには慣れているが、液冷エンジンは余り触って来なかった。

 教本(マニュアル)を見ながら、液漏れがあると

「これは一体どこからなのか?」

 と悩みながら整備をしている。


 日本陸軍航空隊は、出撃が重なれば重なる程、稼働機が減っていくのだ。

 これはノモンハン事件の時とも似ている。

 あの時同様、戦闘機乗りは何回も何回も出撃し、消耗していっている。

 現在の航空優勢も何時まで続くか分からない。

 ノモンハン事件の時も、初期は格闘戦に秀でた日本の九七式戦闘機が優勢だったが、ソ連空軍は戦法を変えて来て、以降は苦戦するようになった。

 そのノモンハン事件の教訓から、パイロット自身の喪失を避けるべく、防弾装備を充実させて来た。

 また世界の趨勢に合わせた二機一組一撃離脱(ロッテ)戦術に、一式戦闘機も三式戦闘機も四式戦闘機も対応可能である。

 今のところは、間違いなく空は日本優勢である。

 だが、今回は機体の、戦闘以外での稼働機数低下に悩まされる。

 ソ連空軍は次第に戦力を増やして来ているし、いつまでも優勢を維持出来ると考えない方が良い。


「イギリスともドイツとも関係を維持出来たのは、政府の好判断だ。

 ドイツからは高度な工業製品、イギリスからは石油や素材の輸入が出来ている。

 敵対する両国から安全に輸入出来るとか、奇跡だ」

 軍需関係の業界からは賞賛の声が挙がっていた。

 どちらか一方が欠けても、思うように生産は出来ない。

 資源が足りず、技術でもドイツには劣る日本。

 改めて国際関係の微妙なバランスが重要であると、経済界は気づく。


 工業において、イギリスもドイツも共に日本としては学ぶものが多い。

 鉄道、自動車産業、高速道路などを学びたい。

 両国が戦争中であれ、氷河期に突入しかけであれ、日本から多数の技術者が留学していた。

 イギリスから見ても、ドイツから見ても、戦争中の相手国と同盟を結んでいる日本は、相手の諜報員(スパイ)から利用されやすい。

 日本の技術者は秘密警察(ゲシュタポ)や情報部(MI6)から常に監視されているが、そういう窮屈さを感じさせない程に学ぶ事が多かった。

 戦時中の両国は、凄まじい勢いで技術を発展させていた。

 これは長年中華民国としか戦っていない日本にとって衝撃的な事だ。

 中国は技術を切磋琢磨する敵国ではなく、ただひたすら逃げる敵を追って殲滅する作業の対象でしかなかった。

 アメリカ合衆国が消滅しフランスが占領されている今、先進技術を持つ国はこの2国であろう。


 ただ、やはり戦時中の両国、完成品の輸入は中々難しいところがあった。

 例えば例のDB 601液冷エンジンだが、完成品はドイツが真っ先に使う為、日本への輸出はされない。

 部品はある程度多めに作っている為、日本も輸入可能だ。

 ただ、井上成美が言っているように、ドイツは基本的には有色人種を軽蔑している。

 日本への輸出部品の中には、低精度のものや破損品も含まれていたりする。

 それでも日本にとっては貴重な物である。

 それは直して使えば良いのだ。

 差別主義者なのはイギリスも同類だが、こちらは品質の良い部品をきちんと売ってくれる。

 代わりに、ドイツよりも商売(ビジネス)にシビアで、値段を吹っ掛けられたりもする。


 そういう輸入に対する難しさはあるものの、日本には絶えずヨーロッパの先進技術が入っていた。

 それが前線からの要望に対して応えられる力となって現れる。

「あのやたら頑丈な地上攻撃機を撃墜出来る機関砲が欲しい」

「こちらの砲では戦車に対し歯が立たない。

 早く新型戦車を!」

「爆撃機が来るのを確認してからでは、追いつけない場合がある。

 もっと早期に敵機を確認可能な機械が欲しい」

「泥沼や洪水地帯の支那と違い、こちらは多少ぬかるみがあっても、基本は草原や山地。

 車両が物を言う。

 砲や物資を運ぶ為の車両が欲しい」

「燃料を送ってくれ!」

 前線や現地軍司令部から、東京に結果報告兼改良要求(フィードバック)が届きまくる。

 各社は新型機、後継機、改良機の開発に余念が無い。


(一号作戦で、蒋介石との戦争を誤魔化しでも終わらせておいて正解でしたネ。

 支那から大量の復員兵が、現在の国内経済を回しておるワ)


 商工省から軍需省に改組された後も、大臣として日本の産業を統制している岸信介はそう感じていた。

 ひたすら人数が必要で、交通インフラが全く整っていない為、輸送も馬匹とか人力な場所もあった中国からさっさと手を引けて良かった。

 ソ連との戦争は、後方の生産力が物を言う。

 別な意味で泥沼の戦争、人手をどんなに注ぎ込んでも、砂地に水が吸われるような戦場を抱えたままでは、ソ連とは戦えないだろう。


(さて、松岡君の交渉はどうなってますかネ?)


 松岡成十郎は、スライドして商工次官から軍需次官となった。

 更に国土開発省次官ともなっている。

 名目上の大臣は、松岡の上司の岸が兼任しているが、この省については事実上松岡が大臣として仕切っていた。

 今は軍需次官としての松岡の仕事である。

 彼は、イギリス大使館に行き、ジョージ・サンソム公使と協定を結ぶ。

 ジョージ・サンソムも、交渉相手(カウンターパート)の松岡が大臣級になった事で、商務参事官では軽いとされ、商務担当公使に昇任していた。


「では、以上の製品の、完成品としての購入は成立、で良いですね」

「Exactly(その通りでございます)。

 実に良い取引でした。

 今後もご愛顧よろしくお願いしますぞ」

 日英戦時貿易協定が両者間で仮調印された。

 イギリス有利な協定であるが、緊急時であり、政府も正式に承認するだろう。


(投資が無駄にならずに済みましたね)

 イギリス側はほくそ笑んでいた。


 そんな思惑は置いて、松岡が結んだこの協定により、今日本が必要とする各種新型機の為の大量に工業製品が輸入されて来る運びとなった。

次話は4日17時です。

以降はこのペースでいきます。

また連載追加したら変わると思いますが、3作同時連載だと全部中途半端になりがちだったので、多分増やさないと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] なお、工作機械はイギリスから買った場合インチ仕様な模様(大混乱必須)。
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